第107話.文化祭前夜
恐る恐る私はベンチに腰掛けた。
隣には疲れているのか、大きなあくびを一つしている鏡坂くんがいる。
「文化祭明日だな」
「う、うんっ!そうだね!」
突然そう言われて私は思わず言葉に詰まってしまうが、何とか返事を返す。
「演劇の方はどうだ?やっぱり大変か?」
特にこちらを見ることもせずにそう聞いてきた。
「んー、大変って言えば大変だけど、でもみんな筋がいいし、何より私も楽しいからさ。そこまでキツいとかは感じないね」
「そうか。そういや空宮も演劇の方に参加してんだよな」
鏡坂くんの口から発せられた名前に、少しピクりと反応してしまう。
「う、うん。そうだね、蒼も主演女優として参加してくれてるよ」
「空宮が主演か。何か想像つかないな」
鏡坂くんはそう言うと、くつくつと肩を少し揺らしながら笑っている。
そうか。確かにもしかしたら鏡坂くんからしたら蒼が主演女優っていうのは、少し違和感のあることなのかもしれない。だって2人は誰が見ても分かる仲良し幼なじみで、私が蒼を知るよりももっと昔から、鏡坂くんは蒼の事知っていたのだから。
その事実に少し胸をチクリとさせながら、会話を再開する。
「えー、蒼って結構演技上手なんだよ?それこそ昔劇団とかに入ってたんじゃないのかな、って思うくらいには」
「へー、あいつにそんな特技があったんだな。本当に意外だよ」
「そう?じゃあ本番楽しみにしといてね!きっと鏡坂くんも驚くよ〜!」
「おう、楽しみにしとく」
鏡坂くんはそう言うとまた笑った。
✲✲✲
さてと、飾り付けも終わった事だし、明日に備えてみんなを家に返すか。
「おーい、教室準備してくれてるメンバーの人達。準備も終わったんで好きなタイミングで帰っていいぞ」
「りょーかい」
「分かったー」
みんなにそう伝えるとそれぞれ返事を返してくれる。
(あとは演劇メンバーと凛だな。凛は忙しそうに走り回ってたけどあいつ倒れるんじゃねえだろうな?)
そう思いながら俺もいつでも帰宅できる準備を始めた。
「ふい〜、やっと仕事終わったぁ」
帰宅準備を始めると同時に、教室の扉をガラリと開けて凛が戻ってきた。
「おう、おつかれさん」
そう言うと凛はニコッと笑いながらこちらに近付いてくる。
「そっちこそおつかれ!教室の方僕の代わりに色々としてくれてたんでしょ?おかげで少し楽できてたからさ」
「そうか、なら良かった」
お互い労い合いながら帰宅準備を完了させる。
「さてと、帰るか」
そう言うと凛はこくりと頷き俺の横に立った。
「明日、楽しみだね!」
「そうだな」
ただひたすらに眩しい笑顔を見ながら、明日を思う。
絶対に成功させて、明日も凛にこの笑顔をさせてやるんだ。
それが俺に出来る唯一の事。
俺は心にそう決め、もうすっかりと暗くなった外に出た。
第107話終わりましたね。今回は次回のために少し話の長さをあえて短くしてます。あえてですよ?あえて。まぁそんな事はさておき文化祭空宮や華山にもスポットライトを当てていかないとですね。作者頑張ります!
さてと次回は、25日です!お楽しみに!
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