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第105話.狐の嫁入り

「さてと、書類まとめでもしようかな」


 帰りのSTが終わり、放課後に入ると隣の席に座っている凛が紙を数枚とシャーペンを取り出して、何かを書き始めた。


「何の書類だ?」


 そう聞くと凛はこちらを向き、用意した数枚の紙を見せてくれる。


「えっとね、誰がクラスの出店長なのかっていう事を報告する書類と、あとは出店準備に用意された資金に、それぞれどれくらいのお金を割り当てるのかっていう書類、あとは誰がどの担当かって事についてかな?」

「お、おお、思ってたよりもちゃんと大事なやつじゃん」


 そう言うと凛はぷくーっと頬を可愛らしく膨らませ、ジトーっとした目をこちらに向けてきた。


「なーに?刻くんは僕がまとめる書類なんて簡単なものだけだ、とか思ってたの?」

「い、いや〜?別にそんな事はないけど……」


 凛に図星を突かれてしまい思わず顔を逸らしてしまう。ただ凛には必殺顔逸らしは効かず、凛は俺の顔をがっしりと掴んで強制的に凛の方を向けさせられた。


「あ、あの、離してくれ?」


 そう言うと凛はジトーっとした目のまま喋り始める。


「じゃあ刻くん僕から顔を逸らさない?」

「は、離さない」

「本当に?何があっても?」

「う、うん」


 何だか今日の凛からは、いつもの朗らかな雰囲気が一切感じられないのは俺だけですかね?

 そんな事を考えてると凛はさらに目を鋭く、そして真面目な面持ちになって喋り始めた。


「じゃあさ刻くん」

「うん?」


 少し身構えながら次に凛から発される言葉を待つ。

 一体何を言われるのだろうか。普段だったら大して身構えないんだけど。

 そんな事を思っていると凛が口を開いた。


「僕がここで刻くんにキスしようとしても、顔を逸らさずにいられる?」

「は?」


 凛が言った言葉の意味がよく分からず、思わずそんな反応をしてしまう。


「ち、ちょっと何言ってるのかよく分からないんだけど」


 そう言うと凛は唇を尖らせながら説明を始めた。


「だから、僕がキスしようとしても、刻くんは顔を逸さずにいられるのって聞いてるの!」

「いや、それは分かってる。そうじゃなくて、なんで凛が俺にそ、その、キスをするって事が前提なんだよ」


 俺は自分の頬をが熱くなるのを感じながらそう聞いた。

 自分でこんな事聞いてて何だか恥ずかしくなってくる。


「んー、なんでかって聞かれたらあれかな。それが一番分かりやすい反応をしてくれそうだったから?あとは、僕が面白いから」


 凛はにんまりとした顔を浮かべながらそう言う。


(この子、小悪魔や。男の子ピュアな心を弄ぶ小悪魔さんや)


 俺は1人心の中でノリツッコミをしながら凛の言葉が頭の中でグルグルと回って離れないのを感じていた。


「お前が面白いからって……はぁ」


 少し頭を抱えながら先程の質問の答えを返す。


「凛がキスしようとしてきた時に、俺が顔を逸らすか逸らさないかってことだよな。それなら答えはこうだ」

「どんな答え?」


 凛がそう聞いてくるので俺は一拍深呼吸してから話す。


「答えは多分逸らさないだ」


 そう言うと凛は目を大きく見開いて心底驚いたような顔になった。

 それもそうか。多分凛の予想じゃ俺は顔を逸らすって感じだっただろうからな。


「え、えーと、なんで逸らさないの?普通そういう時こそ顔を逸らすものなんじゃないの?」


 凛は困惑した様子のまま俺にそう聞いてくる。


「まぁ、普通ならそうだろうな」

「なら何で?」


 俺は凛にそう聞かれ、ひとしきり頭の中で思考をめぐらせた後に一つの答えに至った。


「ああ、あれだ。きっと俺が変なんだろうよ?見た目とか学力とかは普通でも、根本的な部分っていうのかな。多分そういうとこ」

「普通じゃない……か。そういうことなら僕も普通じゃないのかな」


 凛はボソッ独り言を呟くように、自分に聞いてみるように言った。


「どういう事だ?」


 思わずそう聞いてしまう。

 だって今は俺が普通じゃないって話だった。それがどうして凛も普通じゃないってことになるのだ?

 そう思っていると凛がこちらを向いた。


「ううん、別に何でもない」


 凛はそう言うと、そこからは何も無かったかのように紙とにらめっこをし始める。



✲✲✲



 今日は部活がオフの日なので、俺は凛が書類まとめを終えるのを待ってから帰宅することにしていた。

 今隣ではラストスパートに入った凛がシャーペンをシャッシャッと紙の上を走らせている。


「よしっ!終わったぁ〜」


 凛はそう言うと椅子から落ちそうになるくらい、ぐで〜っとした体制をとった。


「おつかれ」


 スマホを閉じながら俺は凛に労いの言葉をかけつつ、カバンを持って立ち上がった。


「帰ろっか」

「あぁ」


 俺と凛は2人カバンを背中にかけると、吹奏楽部の管楽器の音が響く廊下を歩き始めた。


「いやー、にしても疲れた。腕が腱鞘炎になっちゃうよ〜」


 そう言って腕をブンブンと回す。


「そんなことで腱鞘炎になってたらテスト期間大変だな」

「確かにっ!」


 凛がそう言うのでツッコミを入れると、凛はにへらと笑いながらそう返してきた。


「ま、凛なら英語に関しては勉強しなくてもほぼ満点だからな。他の人に比べたらまだ楽かもな」


 そんな感じで話すと凛は誇らしげに豊満な胸を反らした。


「そうでしょ〜。英語は得意なのだ!」

「あーはいはい。そうだね、すごいねー」


 少し面倒くさくなって適当に返すと凛は「あれ!?返しがなんか雑!?」とか1人でわーぎゃー言っている。

 そんな凛を無視しながら校舎を出た。

 空は夕陽の橙色に明るく照らされていて綺麗だ。

 そして何より太陽の光と、空から降ってくる雨という自然が引き起こした矛盾。

 それが俺にとっては何よりも綺麗に見えた。


「狐の嫁入りか」


 俺が1人ボソッとそう言うと凛が隣で「狐?嫁入り?」などと疑問符を浮かべながらブツブツと何か言っている。


「気になるなら調べてみろ〜」


 俺は凛にそうとだけ言う。


第105話終わりましたね。最後に狐の嫁入りが出ましたけど、これを出した理由って僕が自然現象の中でいちばんこれが好きだからなんですよね。だって神秘的だと思いません?陽の差す中空からは無数のきらきらと光る水滴が落ちてくるんですよ!?(思わず熱く語ってしまったぜ)

さてと次回は、21日です。お楽しみに!

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