6話❀電話と自己紹介
「春、貴女は…冒険者になるのよね?」
閃と話していたら、突然お母さんの星宮 秋が話に割り込んで来た。
さっきまでお父さんとお姉ちゃんと話し合ってたと思うけど…終わったのかな?
「うん。その予定だよ」
と、答えると
「そっか、そうよね。春はダンジョンとか好きそうだものね…」
と、納得した様な、疲れた様に言われた。
確かにダンジョンとか好きだけどね!今時の若者は皆好きだと思うんですよ私は!私だけじゃない。絶対。
うんうんと自己肯定していると、いつの間にか飲み物を取りに行っていた閃が
「春姉ちゃん!春姉ちゃん宛の電話!ダンジョン関連の奴!」
と、呼んでくる。
ダンジョン関連?って事は…ダブルランカー以上の人の優遇されるって所の説明とかかな?それとも招集とか?
「え、はーい!今行く!」
キッチンとリビングは繋がっているのですぐに行って電話を代わる。
「はい、もしもし。電話代わりました、春です」
「あ、もしもし。私、防衛省、ダンジョン攻略課の鬼永 紗枝と申します。今、お時間大丈夫でしょうか?」
電話に出ると、女の人だった。声から察するに、絶対美人だ。間違いない。
「大丈夫です。」
「ありがとうございます。えー、確認なのですが、世界ランク23位のPlayer name 春さん本人で間違いないでしょうか?」
「はい。間違いないです」
特に嘘を付く必要を感じ無いので普通に答える。
「ありがとうございます。電話の要件なのですが、単刀直入に言いますと…ダンジョン攻略の協力要請です。」
あ、協力要請か。って事は恐らく、ダブルランカー以上の優遇って奴も協力要請に答えないと適応されないって考えて良さそう。
「成程。」
「…念の為、先に言っておきますが、拒否権はあります。要請に答えて頂けるのなら、今日、14時に西風美神高校の校門前に来て下さい。用事が出来た場合は、防衛省ホームページに載っている電話番号から、ダブルランカーと名乗り、用事が出来たので行けない旨をお伝え下さい。質問等、ありませんか?」
拒否権があるって言うのは、多分暴れられたくないからかな?
で、集合場所、高校なんだね…普通、市役所とか、警察署とかじゃないのかな?
「了解しました。質問ですか…あ、放送で、ダブルランカー以上は優遇するって言ってましたが、その内容とかは集合場所に行けば教えてくれる感じですかね?」
「はい。そうなります。他に何かありますか?」
やっぱり。顔を合わせて、性格とか素行とかを見るんじゃないかな?で、大丈夫だと思ったら正式に冒険者…って言うか、探索者?になるって感じかな。
他に何か聞くことあったっけ。えーっと…まぁ、顔合わせた時に聞けばいいか。思い付かないし。
「いえ、ありません。」
「分かりました。それでは、お待ちしております」
「はい。」
電話が切れたので、定位置に戻す。
「春、電話終わった?」
直ぐに、お母さんが声を掛けてきた。
「うん。終わった!」
「お話、なんだって?」
特に言わない方がいい事とかも無かったと思うからそのまま教える。
「ダンジョン攻略課の人からで、ダンジョン攻略の協力要請だって。今日の14時に西風美神高校校門前に集合。あ、もしかしたらちょっとダンジョン入るかも。特に言われても無いけどね」
ダンジョン入るかもって言うのは半分勘で半分願望。入れるといいなーって感じだね
「あ、時間だ。行ってきます」
説明した後、お風呂に入ったりゴロゴロしつつ情報集めたり、着ていく服を選んだりして時間を潰した。めぼしい情報は見付からなかったよ。
服は薄桃色の半袖に、白の半ズボンを選んでみた。ダンジョン行くなら動き安い方がいいもんね。スマホは持って行かない。ダンジョンに持っていくと壊れそうだからね…
因みに、暇を潰してる間、結構家族から心配された。みんな心配性だね。
あ、魔法とかは試してないよ。危ないかもしれないから。
ゲームだとオブジェクト破壊は無かったけど、閃がダンジョン行くまでやめろって言うから辞めておいた。何かあったら困るからね。
「「「「行ってらっしゃい」」」」
結構時間に余裕を持って家を出たからゆっくり歩いて向かう。
あ、そう言えば、私以外に誰が来るんだろ?ダブルランカー以上の人が揃ってこの近くってわけが無いし、遠い人はどうするんだろう。普通に、集合場所が別れてるのかな?
そんな事を考えつつ、校門前に着いた。時間は5分前。いい感じだね。
校門前と、校庭には、結構人が居た。忙しなく走ったりしてる。明らかに教師とか生徒じゃないし、ダンジョン攻略課の人達かな?女の人は少ない。あ、でも、校門前には数人いる。
「どうもこんにちは!」
しっかり元気に挨拶する。すると
「こんにちは、春さんですね?」
と、校門前に居た女性の1人に声を掛けられた。
セミロングで、若干たれ目の優しそうな雰囲気の美人さんだ。
「はい。星宮春です」
「来てくれてありがとう。私は、ダンジョン攻略課の水浦 湊って言います。春さんに電話したのは…あ、鬼永さんか。鬼永さんは校庭で指揮をとってるあの人よ」
と、眼鏡美人さんを指差した。髪型はロングでちょっとつり目。厳しそうだけどかっこいいなぁ。
あ、実は私、ちょっと目がいいのだ!ふふん!
「あの人が鬼永さんなんだー。仕事出来そう。」
思わず呟いてしまった。
「ふふ、確かに仕事出来そうね。実際かなり出来るし…あ、でも、結構優しいのよ?サボってる人とかにはとても厳しいけどね」
呟きに反応して教えてくれた。
「優しいんだー…」
オウム返しになってしまった。でも、それしか出て来なかったから仕方ない。仕方ないのだっ!
「…ども。」
後ろから声が聞こえたので、振り向くと、恋君が居た。
「お、恋君じゃん!お久!いやぁ、嬉しいよ!知ってる人が居て!」
同じクラスでもあまり話さなかったが、知っている人が居ると言うのは結構大きい。それはもう、大きいのだ!嬉しくて、若干声が大きくなってしまった。
しかし、はて、恋君はこんなに元気が無かっただろうか?
「あぁ、春さん、こんにちは。僕も嬉しいですよ。知ってる人が居て。自分、そりゃあもう人見知りなんで。」
ほぼ表情は変わらないけど、心なしか安心した様に見える。ホッとしてる気がする!
…あれ?そう言えば恋君もここに居るということは、MFOでダブルランカー以上だったって事かな?
「恋君ってMFOやってたんだ!後、元気なさそうだけど大丈夫?」
「あ、はい。MFOやってました。元気無いのは…テンション上がって完徹したからです、ハイ。」
あ、ただ眠いだけか。よかった。多分寝る前にステータスが開けちゃったんだね…
「恋さんだね。私は水浦っていいます。よろしくね?」
水浦さんが恋君に確認を取る。まぁ、必要な事なんだろうね。
「あ、ハイ。よろしくお願いします」
と、言った所で時間になったので校内に入る。
「ギリギリセーフ!セーフっすよね!?」
校庭に入ると、校門からダッシュで入って来た人が居た。中肉中背の男の人だ。テンションが高そう。そして軽そう。ヤンキーって感じでも勿論ないけど。
「まぁ、セーフです。えーと、木崎さんですね?」
「そうっす!宜しくっす!」
っす語尾の人ってリアルに居たんだ…小説とかだとたまに居るけど、リアルで見る事になるとは…ちょっと、ほんのちょっと…うん。
恋君もそう思ったのか、微妙な表情をしている。これは気が合いそうな予感…!
「お、全員揃いましたね。こんにちは。この度は、協力要請にお答え頂き、ありがとうございます。まずは…そうですね。自己紹介をしましょうか。まず私から。私は、鬼永紗枝と申します。ここの指揮を取らせてもらってます。宜しくね。次は…水浦さん、お願い」
集まったのを見て鬼永さんが近寄って来て、自己紹介を始めた。これは…水浦さんの次は私だな?
「はーい。水浦湊っていいます。宜しくね!役割はサポートでーす。次…じゃあ、来た順で春ちゃん」
やっぱり私か。
まぁ、水浦さんが軽くしてくれたから私も気楽に行こう。
「はい。星宮春です。趣味はゲームとか小説読むのとかです!よろしくお願いします!あ、世界ランク23位です!いえい!」
…流石に軽すぎたかな?
まぁ、大丈夫…なはず!
「あ、西颯恋です。趣味はゲームや読書、苦手な事は自己紹介。春さんとは同級生です。世界ランクは4位。よろしくお願いします」
えっ!4位!?国内2位じゃん!こんな身近に国内ナンバー2が居たとは…世界は狭いねっ!
「え、まじっすか。俺、1番この中で低いんすね。えっと、俺は木崎 彗っていいます!趣味はゲーム!世界ランク78位っす!4位も23位も凄いっす!」
ハヤトさんの漢字って、隼斗とか勇人とかかと思ったら1文字の彗でハヤトなんだね…結構珍しい気がする。うん。
「さて、自己紹介も終わったし、攻略に関係する情報とか待遇を伝えるね。」
と、長い説明が始まった。まぁ、好きな分野だからそんなに苦痛じゃ無かったけどね!纏めると
・武器、防具の支給がある
・ダンジョンに関する今までで分かっている情報を教える
・ダンジョンに関する実験で、手伝って貰う可能性が高い
・ダンジョン攻略に協力すると、お給料が貰える。尚、出来高制
・マナー、ルール、武器防具の持ち運び等の説明
・情報提供のお願い
こんな感じ。
武器防具の支給は、かなり助かる。生身だと危険だと思うし。
因みに、ダンジョンで武器とかを手に入れた場合は、自分で使うかダンジョン攻略課に売るか選べるらしい。売れば、お給料とは別にお金が貰える。
あ、勿論恋君とかに受け渡すのはOKだって。
次に、ダンジョンに関する情報は色々新しいのがあった。
1つはここ、西風美神高校にもダンジョンがあるって事。
2つ目は、ゲーム時代に無かった物もあるって事。これは地味に大きい。ゲームの時とまるっきり同じじゃないって分かっただけでも、敵も変わってたり、強くなってる可能性を考えられる。大元は変わってないと思うけど。
3つ目は、やっぱりダブルランカー未満の人は旅人スタートらしい。
旅人って、Lv20まで育てないと転職出来ないのに、素質が素早1だけなんだよね。だから最弱職って言われてる。
実際、Lv最大まで育ててもスキルは2つしかゲット出来ないし、伸びもかなり悪い。
でも、Lv30で覚えられるスキルの『武器手入れ』は結構有用だから、Lv30までは育てるんだよね。
因みに、覚えられるもう1つのスキルは『旅人の魂』ってスキルで、移動速度が若干上がる。
あっても損は無いかなってスキルだけど、覚えられるLvが95だから、かなりきつい。
MFOは同じモンスターを倒しまくっても、10体目以降は殆ど経験値が貰えないし、某ドラゴンなクエストのメタルな奴みたいに一体で沢山経験値をくれるモンスターもいない。
だから、Lv上げの後半は殆ど進まなくて、ランカーでもLvカンストして無かったりする。
閑話休題。
他にも、出てくるモンスターの情報とか色々教えて貰った。
で、ダンジョン関連の実験について。これは勿論人体実験とかじゃなくて、スキルや魔法の威力とかを調べるって事。因みに、これも協力すると追加でお給料が貰える。
ダンジョン攻略に付いてはもうそのまま。
ダンジョン攻略はお金が貰えるよってだけ。
あ、でも、新しい階層とか進んだり、新しい敵の情報とかを持ち帰るとプラスされる。
出来高制って奴だね。
マナーとかは、狩りを横取りしないとか、そういう一般常識の類。
ルールも似たような物だね。
あ、武器に剣とかあるけど、これは銃刀法違反にならない為に申請しなきゃいけないらしい。
まぁ、ダンジョン攻略課の人がやってくれるらしいんだけどね、私たちの分は。
あぁ後、税金関連も優遇してくれるらしくて、所得税とかも対象外になるらしい。
よく分からないけど。
まぁ、水浦さんがやってくれるらしいから丸投げだよ!木崎さんは自分でやるらしいけどねっ!
情報提供のお願いもその名の通り、情報を教えてくれたら嬉しいな!って事だね。
あ、情報料は貰える。それと強制じゃないから、秘匿も出来るみたいだね。
まぁ、私は普通に情報提供したけどね。魔法職のゲーム時代で覚えられたスキルとか。
後、お金は現金じゃなくて口座に振り込まれるっぽい。後で確認して置こうかな!
「以上です。質問はありますか?」
むっ!ここはアレを聞く時だっ!
「はーい!ここのダンジョンって、今から入れますか?入れるなら入ってみたいです!」
「あー。うーん。どうしようかなぁ…」
おや、鬼永さんは悩んでいる様子。もしかして想定外?
「あ、僕も…行きたいです」
「鬼永さん、いいんじゃないですかね、ちょっとくらいなら。」
「俺も入ってみたいっすね」
恋君と水浦さんと木崎さんも同意してくれた!これは入れそうな気がする…!
「まぁ…そうですね。では、準備して…30分後に入りますか。ですが、無理はしません。誰かが怪我をしたらすぐに撤退します。いいですね?」
お!渋々ながらも許可が出た!やったっ!今が2時半だから…3時に入るのか!楽しみだなぁ!
「はーい!」
「了解です」
「了解っす!」