13話❀焔ボスと声
「さて。そろそろ…行くしかないかな。」
気絶分とかを含めると最後にご飯を食べてからかなり時間が経ってる。
だから、空腹で倒れない為にもそろそろ時間がギリギリなんだよね。
今のステータスの確認も出来たし、やれる事はやった…かな?
……やったはず。うん。
取り敢えず、階段前に戻らないと。
…階段前に着いた。
思ったより、185層のモンスターは少ないみたい。
最初に2体…いや、3体か。と会ったのが珍しかったみたいだね。
「はぁ…」
…よし。いこう!
深呼吸してから、階段を下りる。
階段は50段くらいあって、降りるのは兎も角登るのはかなり大変そう。
まぁまぁ長い階段を降り切ると、豪勢な扉があった。
さっき気合い入れたのに…
扉は、階段を降りたすぐの所にあって、赤をメインに装飾されてる。
あ、よく見ると扉の中央部分に火の玉みたいなのが円を書くように彫られてる。
「はぁ…」
緊張する。
よし。今度こそ行こう。
扉を開くと、ドーム状の広い空間。
…これは、ゲーム時代と変わってないね。
因みに、焔のボス部屋はただ広いだけの闘技場みたいな部屋だけど、他のダンジョンだとギミックとかもある。例えば、部屋の一部が陥没したり尖ったり。
ドーム状の部屋の中央に居たのは…
「やば」
焔186階層ボス焔車…の、モン娘だった。
赤い髪に褐色で、短髪の活発な雰囲気のある美少女。身長は…多分、130…くらいかな?
尚、真顔です。絶対笑顔の方が似合う。
あ、MFOが全年齢対象だったからか分からないけど、服は着てるよ。
良く考えなくても謎だけど。今更感が強い。
閑話休題。
と、言うか私の運が悪い。かなり。
ソロ初で戦うボスがモン娘ってどういう事なの…
因みに、モン娘じゃない場合は猫又っぽい見た目のもふもふ。
多分モデルは…火車かな。車輪型の炎を放って来るし。
焔車のモン娘は戦った事ないから分からないけど、少なくともただの焔車より強い。
モン娘との戦いで情報がない場合の定石って言うか基本は、相手の手札を暴く事。
使ってくる状態異常とか、攻撃方法とか。
偶に居るんだよね、モンスター時とモン娘時の攻撃方法が全然違うやつ。
こんな事を考えている間、焔車は部屋の中央に立ったまま動かない。
…これはまだ、戦闘開始ラインを越えてないってことかな?
ボスは、ある程度前に出ないと戦闘が始まらない。
勿論、1度戦闘に入ったら後ろに下がっても攻撃して来る。
ヒットアンドアウェイすれば無傷攻略出来るなんてそんな甘くは無い。
後、外から攻撃しようとしても戦闘開始になるよ。
遠距離から狙おうとすると、その時点で戦闘開始だし、その一発目は発動しないって誰かが言ってた気がする。
つまり、結局普通に始めた方がいい。
…よし。意を決して前に出る。
いた所から3歩進むと、焔車がこちらを見た。
多分これで、戦闘スタート。
私は矢継ぎ早に魔法を発動する。
「『聖域』!『魔力覚醒!』『魔力解放!』『水龍』!」
まず、聖域で守りを固めつつ、魔力覚醒と魔力解放を使って火力を上げつつ弱点属性の水龍で様子を見る。
水龍は、水の上位魔法で、水で作られた龍が相手を噛み砕くっていう魔法。
水で噛み砕けるのかって言う謎はある。
因みに、水龍ゲーム時代だと単属性の強技だったから人気があった。
焔のボスみたいに耐性があるとかえって複合魔法は弱くなっちゃうからね。
後、何よりカッコイイ。
水龍は、焔車に向かって一直線に向かって行った。
焔車はそれを一瞥すると、人外の身体能力でジャンプして、華麗に避けた。
…流石に当たらないか。次撃とう。
範囲攻撃がいいかな。
「『天河斂葬』!」
打ち出した水が流れの速い河を形作り、その勢いで土で形作った棺桶に押し込め、そのまま閉じ込めて動きを封じる水と土の複合魔法。
殺傷能力はさほど無いけど、範囲が広いから避けにくいんだよね。
あ、泳げるモンスターには基本意味無い。後、空を飛んでるモンスターにも。
主に、獣系の身体能力が異常なモンスターに使うのが多い。
「…えっ、焔車って飛ぶ…っていうか浮けるの…?」
これで動きを封じて倒すつもりだったのに、焔車が浮いて避けた。
それは無しだよ…
と、ここまで避けるだけだった焔車が周囲に青く燃える火球と車輪、赤く燃える火球と車輪を作り出した。
その状態で焔車が振りかぶり、遠距離から投げるモーション。
…どうしよう。
あれ、聖域で防げるかなぁ
正直微妙だね…赤の方が威力は低いと思うから、そっちは防げるとは思う。
実際に、ゲーム時代のモン娘じゃない焔車の奴は防いでた。
そうこう考えているうちに、発射されてしまった。速度はふわりと投げたキャッチボールくらい。
仕方ない。
「『ウォーターランス』!『ウォーターボール』!『ウォーターランス』!『ウォーターランス』!ウォーターぼあ痛っ」
噛んだ。泣きそう…
泣きそうになりながら、必死に下級水魔法を連続で青い炎に当てる。
消し切れはしなかったけど、聖域にぶつかる迄に結構弱めることは出来た。
でももう絶対やらない…
焔車を見ると、真顔でこっちを見てる。
ガッツリ目が合った。可愛い…って違う!
「倒す!『水葬』!死ぬがよいっ!」
首を振って戦闘に要らない思考を追い出す。
水に溺れて窒息するがいいっ!
…あ、これ、フロア全体が水浸しになるから私も溺れるじゃん…
「やばっ!『ウィンドボール』!」
危ない。ギリギリ水浸しになる前に作れた。
待って!風の膜だから回る!目が!回る!酔う!気持ち゛悪い゛
…これは危険だね。
この組み合わせはもう使わないようにしよ…私が持たない。
焔車は…苦しそうに藻掻居ていた。泳げないみたいだね…。
可哀想…やったの私なんですけどねっ!うぷっ…
あ…動かなくなった。
…ウィンドボールの中ももう酸素がなくなりそうだし解除しないと。
解除した瞬間、水が消えていった。それはもうスッ…と。どこいったんだろうなぁ…。
それと、ギリギリ戻さなくて済んだ。ご飯食べてたらやばかった。
「うーん。これは…倒したのかな?」
気持ち悪かったので、焔車が動かないことをいい事に休んでから焔車の様子を見に来た。
私が悩んでいる理由は、焔車の状態にある。
今、焔車は消えても無いけど、動いても無いんだよね。
一応、死体蹴りみたいになって心苦しいけど…ウォーターランスで追い討ちしてみた。
反応は全く無かったけどね…
「やぁ。」
「っ!?」
咄嗟に前に飛び退く。後ろから凄く近くで声を掛けられた。
飛び退いたついでに後ろを見ても、誰も居ない。
「誰!?」
声を荒らげて問い掛ける。
「あはは!僕が誰か?そうだねぇ…“神”って所かな。面白い物を見せてもらったよ!まさか、最下層ボスを溺死で倒すとはね!普通はHPを削り着る事を狙うと思うんだけどなぁ!」
部屋の何処かから、楽しげな少年の様な声が聞こえる。
…見渡しても、誰も居ない。
声の内容から察するに、多分MFOとかは知ってると思う。
どこにいるんだろ…?
「あぁ、そうそう、僕はそこに居ないから見つけようとしても無駄だよ」
そう考えていると、考えてる事があたかも分かるように声は言った。
…この声の言っている事が本当なら、念話みたいな物かな。
ゲーム時代に似たような物はあったけど、あれはお互いが対になる魔道具を持ってないと発動出来なかった。
「…何か用?」
「いやぁ!初めてのダンジョン最下層到達者だからさぁ!見学してたんだよね!」
自称神は、私の戦闘を見て楽しんでいたらしい。
「到達ってより、落下で行き着いた感じですけどね。」
そう言うと、あはは、と笑いながら
「あぁ、焔とか龍槍窟の仮攻略者は2層到達時に落ちるようにしてるからね!寧ろ君じゃなきゃ焔のあの落とし穴は開かないよ!」
…えっ?私ピンポイントで狙われてたの?
と言うか、自分で落とし穴を作った様な、そんな口振り。
「そうだ!君はダンジョン初攻略者なんだし、特別に質問に答えてあげるよ!」
いきなり質問があるか聞いてきた。
声から、上機嫌なのが伝わってくる。
神を名乗ってたし、何か知ってるかもしれない。
一応聞くだけ聞いてみようかな。
「では。世界にMFOのダンジョンが出来たのは貴方の仕業?」
と聞くと、あぁ、と
「そうだよ。因みに記憶を抜いたり情報を制限したのも僕。と言うかMFOを作ったのも僕だね」
情報を制限した…?
MFOを作ったのが僕…?製作者が居るのに…?
ま、まぁそれは後で考えよう。
「じゃ、じゃあ、次。ダンジョンが消えることは無い?」
「それは、君たち次第かな。消す方法もあるし、残す方法もあるよ!」
動揺が出てしまった…。
ダンジョンを消す方法、あるんだ。
口振りから、今の所消す予定は無さそうだね…
「じゃあ最後。オーブを置いたのは貴方?」
それを聞くと、あはははは!と
「そうだよ!救済措置みたいな物だね!流石にLv4を最下層手前にほっぽり出すのは面白くならなさそうだったからさ!やってよかったよ!」
なんでもない様に言った。
お前が落とし穴作ったなら先に考えとけよっ!
…と言うのは心の中に抑えておく。
…今までの事を聞く限り、今の所この声の主の目的は“楽しむ事”みたいだね。
色々やってる理由は結局「面白いから」か「面白くなりそうだから」なんだと思う。
声のトーンと口ぶりからの予想だけど。
「さて、3つ答えたし、次に行こうか。」
声の主について考えていると、急に切り出してきた。
「次?」
「そう。まぁ…報酬と帰還方法だね。」
これは聞き逃せない。
帰還方法を聞き逃したりしたら帰れないとかいう事態になりかねない。
「まず、報酬だけど。これはゲームの時と同じだよ。部屋の奥の宝箱の中に入ってるから。」
それを聞き、部屋の奥に視線を向けると、倒す前は無かった宝箱が鎮座していた。
やっぱり宝箱はテンション上がる!
「…あ、そうだ。特別にその焔車を蘇生して、仲間に出来るようにしてあげよう!世界初ダンジョンクリア特典としてねっ!」
目をキラキラさせていると、何やら追加があるらしい…
…え?仲間?めっちゃ嬉しい!可愛いし!可愛いし!可愛いし!名前何にしようかなー!
ニヤニヤが止まらない…
「そうそう、ステータスだけど、他の人類に比べて君のはチート過ぎるから、調整するよ!」
…えっ?と思った瞬間に、オーブを取り込んだ時ほどでは無いけど強烈な不快感が襲って来た。
うぐぐぐぐぐ…
「はぁ…」
終わった事に安堵して、溜息を着く。
「帰還方法だけど」
話を変えるのが早い!
…いや、一応苦しんでる間は待っててくれたのかな?
心の準備があるんだから先に言って欲しかった…。
まぁ、兎に角、本当に帰還方法を聞き逃すと悲惨だから絶対に聞き逃せない。
全力で耳を傾ける。
「報酬取ったら部屋の中央に魔法陣っぽいエレベーターが出来るからそれで昇ってね!」
簡潔に、本当に簡潔にサラッと言った。
魔法陣っぽいエレベーター。
……魔法があるんだから魔法陣でいいじゃん…
「じゃ!言うこと言ったし、バイバイ!」
「え?」
…声がしなくなった。急に現れて、言いたい事話して、質問に答えて、帰ってったよ彼…。
彼なのかすら分からないけど、多分彼。
ま、まぁ!気を取り直して報酬を!
金ピカの無駄に豪華な宝箱を開けると、中には杖と、首輪が入っていた。
杖自体は木っぽい見た目で、若干赤みがかってる気がする。
後、持ち手の部分に赤い宝石みたいな球がハマってる。
そこから、杖の頭部分に付いてる真っ赤な水晶に向かって金色の…なんだろこれ?蔦みたいなのが巻き付いてる。
割とシンプルな作り…かな?
首輪は、さっき声の主…自称神が言ってた、焔車を仲間に出来る奴だと思う。
見た目は赤と青メインで、所々が金。扉の彫りと似たような模様が付いてる。
…あ、MFOでは基本ボスのモン娘は仲間に出来ないよ。
特殊条件を達成しないとね。
首輪とか使う前に、称号確認も兼ねて調整されたってステータス見ておこうかな。
「ステータスオープン」
【星宮 春 職業:賢者 Lv11
❀ステータス❀
HP: 29/80
MP: 0/240
攻撃: 15
防御: 14
攻魔: 79
回魔: 78
耐魔: 49
器用: 49
素早: 26
❀スキル❀
『魔力覚醒Lv3』『火魔法Lv1』『水魔法Lv4』『風魔法Lv1』『土魔法Lv1』『光魔法Lv1』『闇魔法Lv1』『回復魔法Lv2』
『痛覚耐性Lv8』
『能力解放』『焔』
❀称号❀
〈焔ノ賢者〉〈世界初ダンジョン攻略者〉
❀ランキング❀
日本:9位
世界:23位】
oh…
Lvとかステータスが戻ってる。
多分、1人だけ強さが飛び抜けすぎてチートは面白くないとか、そう言う理由で戻されたんだろうなぁ…。
あ、でも、『能力解放』を使えばLv×1分ゲーム時代の能力になれるみたい。
クールタイムは…24時間。長っ!
…まぁでも、仕方ないかな。
クールタイム長くないと態々スキルにした意味が無いと思うからね。
MPが0なのは多分、能力が上がってた状態でこのMP量より多く使ってたからだね。MPが0でも気絶したりとかは無いみたい。よかった。
…あ、攻魔が上がってるね。これは嬉しい。塵積もだよ塵積も。
スキルは…焔から(仮)が取れてるね。
ゲームだけじゃなくてこっちでも攻略したからだと思う。
後、称号は焔初攻略者(仮)が焔ノ賢者になって、世界初ダンジョン攻略者は現実でそうだったから追加かな?
効果は…ダンジョン外のモンスターに対してダメージ1.2倍。
スタンピードとかもあるかもしれないし有用…ってあ!スタンピードあるか聞き忘れた!しまったなぁ…。