二時限目
俺とミキそして幽霊のライトの三人は教室の中にいた。
初めに口を開いたのはミキだった。
「ねえ、シロウ。先の授業、なんか様子がおかしかったけど具合でも悪いの?大丈夫?」
その言葉は心から心配してくれているようだった。
「うん、大丈夫だよ。昨日遅くまで起きてたからぼーっとしちゃってるのかも。
心配してくれてありがとうね。」
本当はぐっすり寝たけどということは伏せておいて、実際のところ、ミキにも本当のことを話そうかと思いライトのほうを見ると、ライトが首を振ったのだ。
俺がおかしいと思われるのを止めたのか、はたまた自分のことを教えたくなかったのかはわからなかったが、俺はそれに従ったというわけだ。
まぁ、俺としてもミキに変人とみられるのは辛いしな。
チャイムが鳴り、そろそろ二時間目が始まる時間だ。
それと同時に、ミキも自分の席に戻っていった。
次の授業は俺が五月蠅くする(主にライトのせいだけど)もなかったので、滞りなく進んだ。
何かあったかといえば、ライトからの手助けを受けながら問題に答えていたこととライトのことをミキに話してもいいかの確認をしたことぐらいだ。
なんといってもミキとライトは付き合っているのだからすごく心配しているだろうということで話していたのだ。
だが、ライトの答えは「今の状態は伝えない」ということだった。
その答えを聞き、俺が「なんでだよ。心配を少しでもなくしてもらったほうがいいだろうよ」返すとライトは「お前の頭がおかしくなったと思われるから」と笑いながら言ってきた。
長年の付き合いだ。それが嘘であることはすぐにわかった。
だが、ライトが言うなといったのだ。俺はわかったといってその話を終えた。
その後は特にこれといったこともなく、昼休みを挟んで六限まで終了。
そして放課後に入る。
「シロウ~今日ってこれからって時間ある?」
帰り支度をしているときにミキから声をかけられた。
「まあ、暇だけど、何かしたのか?」
俺がそう答えると、ミキは
「ちょっと病院に行きたいなと思って。だって心配なんだもん。ライトのこと」
語尾はもごもごしてあまり聞こえなかったが、俺はミキはまだライトの状態を知らないのだということを理解する。恋人なんだから今の状態が気になるのは当然だろう。
俺は少し考えるふりをしてライトのいるほうを見る。
それに気づいたライトは首を縦に振り、病院に行くことが決まった。
「ねえ、シロウ。シロウは昨日の事故を見てたんでしょ?どうだったのか教えてほしい。」
学校を出て、病院に行く途中ミキが言った。
「俺も全部を見てたわけじゃないんだ。暴走したトラックを追いかけてたら目の前に子供の姿が見えた。
気づかせようと声を出そうとした瞬間に子供を突き飛ばす人影が見えたんだ。
そして、突き飛ばした人がひかれた。
それがライトだった。
俺が見たのはこのくらいだよ。
あまり詳しくなくてごめん。」
うつむく俺にミキは
「大丈夫だよ。こっちこそ無理に話させちゃってごめん。」
昨日の出来事を話していると、ライトのいる病院に着いた。
俺たちは受付を済ませ、ライトのいる部屋に向かった。
部屋の戸を開けると、ライトの両親が座っていた。
俺とミキはライトの両親に挨拶をし、眠っているライトのほうをを見る。
ただ眠っているだけの恋人。でも、いつ目を覚ますのかわからない。
もう二度と目を覚まさないかもしれない。
「ライト、会いに来たよ。早く、目を覚ましてよ」
ミキは目に涙を浮かべながらそうつぶやいた。
それからはライトの身に何かなかったか、健康状態は良好なのかなどをライトの両親と話しながら病室で時間を過ごした。
日も暮れ、遅い時間となったので俺とミキは先に病室を出て帰路に就いた。
ミキを家まで送ってから帰宅。
夕食や入浴を済ませ自室に入る。
「なあ、ライト。ミキやお前の両親、うちの両親には話してもいいんじゃないか?
俺、みんなのあんな顔は見たくねえよ。
ミキだって泣いてたじゃねえか。」
しかし、目の前にいる幽霊は首を縦に振らなかった。
「なんでだよ!言えない理由でもあんのかよ。」
その行動に俺は大声をあげてしまった。
下の階から大丈夫かと声が聞こえる。
何でもない。大丈夫と返して、俺はまた幽霊のほうを見る。
今度も何の返事もなかった。
何か特別な事情があるのかもしれなかったが、この時の俺は苛立ちから、そんなことは考えられず、口を利かなくなった。
朝起きて、ライトがおはようと言ってきても無視するような日々が数日続いた。
朝食を食べ終え、支度をし、今日も学校へ向かう。
この日の出来事が人生に大きな影響を与えることを俺はまだ知らなかった。