x時限目
「なぁ、シロウ。お前は何の為に生きてる?」
ある日の放課後、友人からのいきなりの質問にキョトンとした様子で反応できずにいた。
「なんだよいきなり。そんなの考えたこともないよ。それに、俺たちはまだ高校生だぞ。生きる意味なんか探している最中じゃないか。」
実際、俺は将来をどうするか、進路はどうするのか、どう生きていきたいのかは考えていた。だが、はっきりと決まったわけではなく、いくつかの選択肢で迷っていた。
「そう簡単に決まるもんじゃないもんな。でも、俺は決まっているぜ。」
これからの目標が明確に決まっていることがすぐにわかるぐらいの覚悟がそこにはあった。
「じゃあ、お前の進む道はなんなんだよ。」
気になった俺は無意識に声を発していた。
「それは、この世界を輝かせることだ。俺はこの世界の光となる。」
それが何を意味するのかは俺には分からなかったし、そんな大それたことなんて出来るわけがないと思っていた。
「この世界を輝かせるってどう言うこと?」
気になったので聞いてみる。
「具体的に言うと総理大臣が近いかな。国の政治を変えることができるし、世界各国の大統領や首相と関わりが持てるから。関係が築ければ一緒に考えることもできるし、できることも広がるしな。」
簡単なことではないがしっかりと自分の考えを持ち、明日何ができるか、何をするべきかがわかっている。
「やっぱり、お前はすごいな。本当にそう言うところを尊敬するよ。俺も自分の意思を持って行動していかなきゃな。」
俺はライトのことを尊敬してたし、目標でもあった。自分の目指すものにまっすぐで、勉強ができて、周りからも信頼されていて、本当に完璧な人だ。
そんなことを思っていると、ライトのスマホが鳴った。♪~
「あ、わるい。ちょっと用事ができちまった。先帰っててくれるか?終わったらすぐ行くから。」
「ああ、わかった。でも、まあ、こっちはそんなに急がなくてもいいぞ?」
「いや、速攻で終わしていく。」
そう言ってライトは走っていった。
後ろ姿を見送ってから、俺は一足先に校門を出た。
「そういや、あいつの用事って何だったんだろう。まさか、告白か?あるな」
そんなことを考えながら歩いていると目の前から猛スピードで横切って行った。
ここは市街地の近くであり、学生の下校時間に重なる時間帯。
この何が起こっているのか、何が起こるかわからない状況で、俺はそのトラックを追いかけた。
すると、目の前には下校途中とみられる子供が横断歩道を渡っている姿があった。
このままではあの子が
そう思った俺は叫ぼうとした。
「君!危な 」
言い終わる前に横断歩道に飛びだす人影が見えた。
その人影は子供を突き飛ばす。そして、トラックと衝突した。
ぶつかった衝撃で操縦がきかなくなり、トラックは家の石壁に激突した。
その後、駆け付けた警察が調査を開始。
子どもはけがを負いはしたものの、あまりひどくはなかったそうで家に帰されたそうだ。
警察がトラックを調べたが、その運転手はすでに死んでいたという。
俺が現場に着いた時には子供の姿はなく、警察の人たちが惹かれた者の応急処置をしているところだった。
そして、そこに倒れていたのはライトだった。
あの人影はライトだったのだ。
全身が傷だらけで出血がひどく、意識もない状態だった。
「マジかよ、こんなの信じらんねえよ。おい、戻ってこいよ。なあ、ライト!お前にはやるべきことがあるだろ。」
ライトは何の反応もないまま到着した救急車で運ばれる。自分が友人であることを説明し、付き添いとして俺も一緒に救急車に乗り、病院へ。到着しても意識は戻らず、ライトは緊急治療室に運ばれて行く。俺は頭を抱えながら医師が出てくるのを待っていた。その時ライトの両親が不安な顔でやって来た。俺はその日あった事を伝えると母親が涙を流した。父親も険しい顔が緩むことはない。俺たちができることは無事であることと意識を取り戻すことを願うことだけだった。
数時間が経ち、医師が治療室から出てきた。俺は医師を止めてライトの状態を伺った。
「ライトさんはトラックにはねられた時に脳に大きな衝撃が加わりました。一命は取り留めましたが、意識が戻ることはないかと思われます。いわゆる植物状態になっています。」
俺は医師からの言葉に声が出なかった。目から熱いものが溢れてくるだけだった。ライトの母親が泣いてしまい、父親は母親をなだめながらもうつむいたままだった。
日も暮れとため、俺は病院を出て家に帰った。
そして、家族に今日あったことを伝える。
話を聞いた父親と母親ともに悲しみが滲んでいた。
当然だろう。俺の家族もライトを小さいころから見ていたのだから。
俺はどんよりとした空気に耐えきれず、自分の部屋に入りベッドで横になっていた。
「どうしてあんなことに」そんなことを考えていたらいつの間にか眠ってしまった。
その日、俺は夢を見た。
花畑の広がる世界からこちらに向かって歩いてくる人影。何かを話しながら歩いてくる。誰かと思い凝視する。
そこには病院にいるはずの親友の姿があった。
「やあ、シロウ 元気か?
あの時の子は無事だったのか?」
唐突にライトが話しかけてきた。
「お前、どうしてここに、
病院にいるはずだろ、何かあったのか?」
いきなりのことでシロウは慌てていたが、ライトはいつも通りの調子でいた。
「ただお前の夢に出てきてるだけだ。
それよりも俺の質問に答えろよ。
あの子は無事なのか?」
「わからない 俺があの現場に行った時には姿が見えなかったから。
でも、大きな傷は無かったから無事に家に帰ったと思う。」
「なら良かった。
それで無事じゃなかったら俺が恥ずかしいだけだからな。
それとシロウ、ありがとうな。
もう朝だし、また後でな。」
「ちょ、おい。
どこ行くんだよ。
それに後でってどういうことだよ。」
その言葉を最後に、俺は目を覚ました。
「なんだよ今の夢。ライトもまた後でとか言ってたし、本当意味わかんねえ」
何があったのかも分からないままシロウはいつもと同じように1日を過ごす。
ベットから起きて、朝食を食べて、歯を磨いて会を洗って、いつもと同じように学校に行く。
ひとつ違うことといえば、いつも一緒に行っているライトがいないことだけ。後は何も変わらない。
そう思っていた。
でも、ライトがいないということは生活の全てを変えてしまったのだ。
シロウの気持ちは晴れないまま学校に行くことに。
俯きながら歩いていると、
「シロー おっはよー」
顔を上げると、そこにはミキがいた。
シロウが「おはよう」と返すと、ミキは
「なんか元気ないね。何かあったの?」
そう、心配そうにシロウの顔を覗き込む。
「それに、ライトの姿も見えないし、喧嘩したとか?」
シロウは微笑むミキを見ると、また暗い顔に戻ってしまう。本当のことを話そうかと意を決するが、
「うん。ちょっと喧嘩しちゃって、落ち込んでたんだ。」
シロウはミキに嘘をついてしまった。
「そうなんだ。早く仲直りしなさいよ〜」
ミキはシロウの言葉を信じ、励ました。
学校に着き、教室に入る。
クラスメイトも先生たちもいつもと変わらない。
一つ違うことは教室に空席が一つあること。
チャイムがなり、ホームルームが始まる。
担任が教室に入ってきた
「えー、一つ話さなければならないことがある。
ライトが入院することになったので、今日から休みになる。
いつ戻れるかはわからないそうだが、戻ってきたら色々教えてやってくれ。
それと、明日からテストだからな。しっかり勉強に励むんだぞ!
じゃ、終わり。」
そう言って先生が教室から出て行った。
「明日からテストか〜、めんどくせぇ
やりたくねぇ、勉強したくねぇ」
「ライトが休みかぁ。あいつ大丈夫なんかね」
クラスでは不満や心配の声が聞こえてくる。
そんなクラスメイトをよそに俺は授業の準備をし、教室を出る。
一時限目は化学で移動教室なのだ。
隣にミキが駆け寄ってきて、一緒に移動することに。
さて、これからの学園生活はどうなることやら...