ツッコミ担当の男子高校生が異世界に転生した話
これは、ある1人の高校生の物語。
「モンストは糞ゲー‼︎」
「あのよぉ、お前、お前、あのよぉ?」
「ドゥハア‼︎」
(やっぱり、オレのツッコミ冴えてるな〜)
周りからの冷ややかな目線に気付かずに、ひたすら大声で周囲に迷惑をかけているこの男子生徒、名前を『胸肉』という。
「あのよぉ、今回のイベントって糞みた…」
「黙れ」「一回静かにして?」「死ねば?」
(全く…。みんな、オレが面白いからって、ツンデレもここまでくると、悲しいものがあるぞ?)
今日も胸肉はいつも通りの日常を過ごすはずだった。しかし…
ピカーーーン!
胸肉の目の前が眩しい光で包まれていく。
(な、なんだコレ!?)
胸肉はそのまま、暗い穴のような空間に引きずり込まれていった…
…ドンッ!
胸肉は鈍い音を立てて、地面に叩きつけられた。
「イタタタ…。なんだここ?」
胸肉が着いた場所は、見たこともないような場所だった。
羽の付いた人間が空を飛んでいて、周りは見たことのない植物に囲まれ、何より、恐らく胸肉の人生の中で会った中で1番可愛いであろう女性(ロリな顔をしているが、胸は少し大きめ。)が目の前にいるのだ。
胸肉は今まで読んだ小説や漫画、アニメなどの情報から、この世界が何なのかを悟った。
「これって、異世界転生ってやつ…?」
声のトーンとは裏腹に、胸肉の顔はニヤついていた。こういう世界では、転生してきた男がどんなにブスでもウンコみたいな奴でも何かと優遇されると相場が決まっているからだ。
(ついに、オレにも春が訪れたのか…)
今にもガッツポーズしそうな左腕を全体重をかけて抑えながら、目の前の女性(色白で大剣を持っている。)に話しかけた。
「あなたが僕をこの世界に…?」
「フフッ、そうですよ!」
一人称がいつのまにか『僕』に変わっている胸肉を鼻で笑いながら彼女(耳の形は俗に言う妖精みたいな形)は答えた。
(あぁ、この子がオレの嫁になるのか…)
自分が馬鹿にされていることにも気付かずに、胸肉は目の前の女性(綾瀬はるかと前田敦子を足して2で割った顔)をじっと見つめていた。
「や、やぁ、僕の名前は胸肉!よろしくな!」
胸肉はさりげなくボディタッチを狙い、右手を差し出した。
「ごめんね。私、握手はしない主義なの。」
彼女(結構可愛い)は、胸肉に向かって申し訳程度の笑顔を見せた。
「…所で、ここはどういう場所なんだ?」
泣きそうな目を覆いながら、胸肉は彼女(可愛い)に聞いた。
彼女(女)は答えた。
「ここは、【魔術】、【精霊】、【神獣と魔獣】の研究の第一線でもあり、全【アスガルド魔法帝国】の教育の中心地でもある、【イモータレ魔法学園】よ。」
「イ、イモータレ魔法学園!?」
胸肉は、唯一聞き取れた部分を、得意の大声でリピートした。
「じゃあ、一体アンタ何者だ?」
(正直、これしか興味がないぜ。早く教えてくれ娘、君の名前を‼︎)
ようやく、胸肉は自然な流れで1番聞きたかったことを聞くことができた。
「私は、【アスガルド魔法帝国対イスカリオテ軍属12大天使】の1人、【龍童・ザドキエル】の娘、マルコ。【炎神の紋章】と【風神の紋章】どちらも初段を持っていて、それなりに【神龍の調べ】を使うことが出来るわ。」
「へ〜、やっぱり12大天使の風神の調べだったのか〜」
胸肉は、膨大な情報の前で、全く話を理解することが出来なかった。
(ヤベ〜〜!肝心なこの女の子の名前だけは聞き取れたけど、それ以外、全く分からなかったぞ‼︎)
「胸肉!」
突然マルコに呼ばれ、胸肉はハッとなった。
「何をボーッとしている!早く行くぞ!」
「おっ、そうだな」
もはや胸肉は何一つ言い返せなかった。
「そもそも、私が胸肉を呼んだ理由は分かっているだろう?貴様の【真の姿】…いや、【第2の姿】という表現が正しいか。貴様は【風の竜紋】の所持率が世界一高い【ラグナロク】でもたった2人しか持っていないとされている【栄光と破滅の魑魅魍魎】を持っている。【破滅龍ダークドラゴン】の復活時に発動する【粥透過の結界】の破壊方法が現状【栄光と破滅の魑魅魍魎】しか存在していないのだ。事は一刻をも争う。急ぐぞ胸肉!」
「…お、そうだな」
(ヤベェェ!全く何言ってるかわからねぇ‼︎てか何だよ魑魅魍魎って‼︎この言葉が使われてるところ始めて見たわ!ていうか、胃もたれするような言葉しかない中、なんで敵のボスの名前が【ダークドラゴン】なんだよ‼︎もっと良い名前は無かったのかよ‼︎)
胸肉は心の中でこの世界にツッコミを入れていく。
「…とりあえず、ダークドラゴンの結界を破ればいいんだな?」
「おぉ!物分かりが早いではないか!」
「ありがとよ…」
実際のところ、ダークドラゴンの名前以外、全く分かっていない。
「おい、マルコ!久しぶりだな!」
「!貴様は何故ここに…⁉︎」
「当然だろう?ダークドラゴン様の邪魔になる奴を殺すのがオレの仕事なのでな。」
マルコと胸肉の前に黒ずくめの男が立ちはだかる。
「コイツ、誰だ?」
胸肉はマルコに聞く。
「コイツは【イスカリオテ軍第5師団団長ユダ】!【龍影の漆爪】の使い手だ!【第592回帝国武道大会】では2位に圧倒的な点差をつけて優勝。【龍影の紋章】を使用していたために【ドルゴ警備騎士団】に追われていると聞いたが…」
「お、そうなのか」
(なんだよ武道大会って!幽☆遊☆白書か!)
胸肉は心の中でツッコミを入れていく。
「フッハッハッハッハ!そこの【栄光と破滅の魑魅魍魎】をこっちによこしな!」
「いや、この【栄光と破滅の魑魅魍魎】を貴方達に渡す訳にはいかない!喰らえ!【炎神の紋章】‼︎」
マルコの両手から火の柱が立ち昇る。左手をユダにかざし、右手では即座に【風神の調べ】を展開。ユダからの攻撃に対して防御態勢に入った。
それと同時にユダも【龍影の漆爪】を展開。【陰道の慶徳】で全身を包み【風神の調べ】を無効化。そのまま【龍影の漆爪】を纏った右手でマルコの背後に回り腹を貫こうとする。
マルコは自身の左手の【炎神の紋章】を【龍影の漆爪】にぶつけ【等価交換】でお互いに【リジェル・インパクト】で態勢を立て直す。そして【魔術の創生】で【廻冥の真波】をユダに発射。
ユダはそれを身軽にかわし、そのままマルコに馬乗りになり、首元にナイフを近づけた。
「マルコ。お前らは【栄光と破滅の魑魅魍魎】について何も分かっていない‼︎」
「何も分かっていないのは貴方達の方!【栄光と破滅の魑魅魍魎】の第2段階【魑魅魍魎なる掃海艇龍】で発生する【インパルス・インパクト】は都市はおろか、世界の1つや2つを滅ぼしてしまう!」
「黙れ!【魑魅魍魎なる掃海艇龍】の破壊力くらい【イスカリオテ】は把握している!これで我々のボス【ダークドラゴン様】は【輪廻覚醒】して【魑魅魍魎ドラゴン】になられるのだ!」
そしてナイフを高く振り上げた。
「胸肉!ぼーっとしないで私を助けて!」
マルコが胸肉に向かって叫ぶ。
胸肉は肺いっぱいに空気を吸った。そして言った。
「あのよぉ、お前、お前、魑魅魍魎って何⁉︎話の単語1つ1つが重過ぎて、胃もたれするわ!腸破裂するわ!吐くわ!ドゥハるわ!お前らの会話、あのよぉ、分からないわ!」
胸肉は、少しの疲れと達成感に浸りながら、自分の最高のツッコミに対する2人のリアクションを見ていた。
「「ヤバすぎる…」」
胸肉は手を高く上げる。
「今の『ヤバすぎる』って、面白すぎるって意味だよな?」
「「面白くないって意味だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
チャンチャン