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ずいぶんと間が開いてしまってすみません……。
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「ただいま帰りました。」
家に着くと肩の力がどっと抜けた。うちは確かに由緒正しき御家柄だが、礼儀に関してはいわゆる外面が良ければ両親も兄も咎めなかった。それがいかがなものか、とは思いつつもありがたくその教えを賜っている。わざわざ自分が楽にできる場所を減らす意味はないのだ。
「お帰り、麗さん。学校はどうだった?」
いつものように母がお出迎えをしてくれた。
「昴と同じクラスでした。気が置けないが近くにいてよかった。」
私がそういうと母はクスッと笑ってならよかった、と言った。今日の入学式に母は来てくれていたし、兄は生徒なのでもちろんその場にいた。父はさすがに忙しくて来られなかったようで、今日の夜に号泣するだろう。
「そうそう、今日は麗さんの好きなものを用意してもらうから、楽しみにしていてね。」
「やった、楽しみにしてる。」
「奥様、麗様。玄関ではなく、リビングでお話しされてはいかがですか。」
思いのほか母と話が弾んでしまったためずっと玄関にいた。その場にいた使用人の一人である緑川雪≪ミドリカワ ユキ≫が私たちをリビングへと誘導した。彼女は私が5歳の時から私専用使用人として共に過ごしている。歳は確か20だったはずだ、10歳の時から私の姉のような存在として家族ぐるみで西條家に仕えてもらっている。原作ゲームの中では彼女の存在はそこまで重要だったわけではないが、麗がヒロインをいびるときにそばにいた気がする。
ここで出会った彼女はとても正義感が強いし、しっかり者だ。少々麗に甘いところがあるのだが……。雪は麗がいじめを行った時、何を思ったのだろうか、麗が死んだとき、何を考えていたのだろうか。
「麗様?どうかなさいました?」
じっと彼女を見つめていたら声をかけられてはっとした。
「べっつにー。」
「家の中とはいえ、そのような言葉づかいでは外でボロが出ますよ。」
こういうところも雪らしい。分かってるよ、と言って私達もリビングへと向かった。
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「ただいま。」
「兄様!お帰りなさい!」
「麗、ただいま。」
兄である西條湊が帰宅した。甘やかされて育った私は兄様と雪が大好きなのだ。
「麗……。制服着替えちゃったのか……。」
兄様と一緒に帰宅した父に言われた。
「あ、父様いたの。」
「ひどいよ~。」
駆け付けた母も兄様も笑っていた。雪はいつも通り完璧な顔をして立っていた。私たちはシェフが用意してくれた私の入学祝の豪華な食事をとるべく、食堂に向かった。
「わぁ、すごい!」
そこにはきれいに盛り付けられたサラダ、私の大好物のシチューなどたくさんの心躍る料理が並んでいた。
「早速いただこう。」
父様の一声で私たちは食事を始めた。普通の上流階級の食卓はこんなに賑やかではないのだろう。だが、私達は話しながら、笑いながら、楽しく食事をしていた。……こんなに暖かく楽しい家庭だったらそりゃ原作のようなわがままお嬢様になるよねぇ。私だって転生に気づかなかったらなってただろう。その辺は神様に感謝するしかない。
「ちょっと真面目な話をするよ。」
入学式の話がひと段落したころ、父様が優しい笑顔でそういった。いつも、そうなのだ。大体真面目な話や、私や兄様が喜ばないであろう話の時は父様は決まってこの笑顔になる。
「麗も12になったね、今日から中等部だ。
そこで、そろそろ麗の婚約者について考えて欲しい。」
きた。原作ではヒロインが選んだルートの彼の婚約者が麗なのだが、現実的に考えれば麗が先に婚約者を決めているはずなのだ。それが、今であると。
「父さんも特に厳しく言うつもりはないよ。でも、麗には幸せになってほしいからね。それなりの人を探してほしい。
もちろん、父さんも候補は用意しているが、聞きたいかい?」
母も兄様も神妙な顔つきで私を、麗を見ている。……これはちょっと何を選択するのが正しいのかわからないのでぜひ父様の意見聞きたいよなぁ。
「よろしければ、お聞かせください。」
「わかった。
といっても、三人いるんだけどね。」
あー、その三人、めちゃめちゃ想像できるーーー。その三人から選べないから父様の意見聞きたかったのに――――。
「北條昴くん、南條響くん、そして東條誉くんだよ。」
「予想通り過ぎて。」
私の返答に父様だけが笑った。
「まぁ、今すぐじゃないしね、きっとその三人も今頃おんなじような話聞いてるから、明日から頑張ってね。」
出た、どs。父様は何を隠そうどsなのだ。兄様もその気がある。昔から私になぞなぞを出しては解けずに苦しんでいるのを見て笑っているのだ。
「わかりました。」
明日から大変だぞコレ、どうにかして響様と婚約したいが、そうなればヒロインは響ルートに進むのだろうか。シナリオは、変えられないのだろうか。なら、響以外の人と婚約して、解消して、響と婚約すればよいのでは!?
天才かもしれない。