1
12歳、春。
私たちはお嬢様、お坊ちゃま学校の幼等部から一緒だった。その私たちが今、名門桜華学園の中等部へと進級する。ヒロインが編入してくるまで、あと3年。私はそれまでに何とか運命を覆す方法を探さなければいけなかった。また、南條響の親愛度も上げていかなくては。
「何難しい顔してるんだ?緊張してるのか?」
そういいながら私の前に立ったのはいかにも王子様然とした金髪が似合う北條昴だった。
「そんなことないけど……。」
「そうか、まぁ、お前は昔から小心者だったしな。」
そういいながら笑う彼が三年後にはあんなにかっこよくなっているのだろうか。私は昴はもうちょっとカッコよくなってもらわないと困るのだが……。
「あ、麗、いた……。」
私の真新しい制服の裾をつかんだのはすでに制服を着崩し、ジャケットの下に黒いパーカーを着ている東條誉だった。
「誉、さすがに入学式からパーカーはダメじゃない?しかも黒。」
私が誉のフードを取りながら苦言を漏らすと
「麗がそう言うなら脱ぐ。」
とあっさりとパーカーを脱いでしまった。
ここまででなんとなくわかるだろうが、私は今までで彼らとできるだけ仲良くなるように行動していた。そのかいもあって誉、昴とは親友と言えるほどに仲が良かった。この調子なら高等部に上がっても彼らとは仲良くやっていけるだろう。これはあくまで保険のためだが。
しかし、彼らはこうして接してみるとなんとも面白い人物だった。もし私に前世の記憶がなかったなら横暴に振舞っていたかもしれない。しかし、そうでなければ彼らと楽しく友達に慣れていたのだろうか。こんなに打算的でなく。
「遅れてごめんね。」
私達の背後に現れたのは、南條響だった。彼は成績優秀、容姿端麗に加えてとてもやさしい。私の恋心は前世に引き続き絶好調だ。
「麗さん制服似合ってるよ、とっても素敵だね。」
「ありがとう、響さん。」
……。そう、私は何をミスしたのか響とはあまり親しくないのだ。これはちょっとしんどいぞ……。
私達は四人そろったことを確認して入学式会場へ向かった。私達が会場へ入ると一瞬ざわつき、歩みを進めるとあちらこちらから拍手が起こった。……別に入場行進みたいにしてるわけではない。普通に入ってきたのにこの注目のされ方だ。先が思いやられる。
式が始まると一人づつ呼名された。まぁ、中学まではほとんどが初等部からの持ち上がりだし、幼等部からの生粋の桜華生も多いためみんな知った顔と名前だったが。
「新入生代表、北条昴。」
昴の名前が呼ばれ彼は台の上に上がった。これは入試トップが行うのだが、トップの誉が拒否したため、次席の昴が変わりに行った。私?私は4位だけど?さすがに小学生の内容を間違えたら大人として恥ずかしいでしょ……。4位なのは突っ込まないでほしい。前世でもそんなに頭よくなかったし。
「生徒代表、西條湊≪サイジョウ ミナト≫」
「はい。」
お、ご紹介します。私の兄です。普段はお兄様と呼んでるけど。私と同じで赤髪緑目。ただ私の悪役が音違ってお兄様は端正な顔立ちだ。髪の色が違ったら兄妹か疑うくらいには顔が違う。
何やかんやで式は終わり私たちは教室に通された。学年で4クラスあり、A,B,C,Dに分かれている。これは完全にランダムなようで私はA組。昴もA組。誉はC組で響はD組だった。響とクラスが離れたのは残念だったが、あまりしつこくして嫌われるのも嫌なので残念でした、と微笑むくらいにしておいた。
「なんで僕が麗と違うクラスなの。」
初めのHRが終わってすぐに誉が私たちのクラスに来た。
「わからないけど、学校が決めたんでしょう?仕方ないじゃない。」
そういっても誉は拗ねたままだった。……こんなに好感度あがってたのか。知らず知らずのうちに……。
何とか説得して帰らせたがこれからずっとこうなら大変だ。それに私と昴のことをちらちら見ながらこそこそとされるのも気分がよくないなぁ。ずっと一緒に学校行ってたんだから友達出来ててもおかしくないのに私たちはほとんど友達がいなかった。いるとしたら響くらい。
「私達、麗様と同じクラスになれて光栄ですわ。」
「よろしくお願いいたします。」
同じクラスの女子がそろって挨拶をしてくれた。
「ええ、私の方こそよろしくね。」
そのあと彼女たちと社交辞令を交し合ったところで昴が来た。
「麗、この後は自由らしい。学校内を見て回らないか?」
その様子を見て女子はキャーっと声を上げた。昔から昴、誉、響はとてつもなくモテる。しかし、私は全くと言っていいほどそんな話がないのだが。
「わかった。誉と響さんにも声はかける?」
「いや、あいつらはあいつらで行くだろう。」
「そう。」
私はついでに女子も行かないかと声をかけたが、お二人の邪魔は出来ませんわ、と断られてしまった。そんな仲ではないのだが。
まぁいい。私と昴は学校内を見学して回った。
さすが金持ち学校なだけあってどれも設備が最先端。学食なんて一食2000円はくだらない。親様様だなとかみしめながら帰路につこうとした。
「昴!」
昴と二人で校門を出ようとしたらものすごい形相の誉と微笑みを浮かべた響が立っていた。
「なんだ、誉。」
「うるさい、麗、俺と帰るぞ。」
そう言って腕を取られたが反対側を昴に取られてしまった。
おいおい、マジで何でこんなに好感度高いんだよ、おかしいだろこれ。
「まぁまぁ、麗さん困ってるよ。」
さすが響。私の初恋の人。(現在進行中)
「ありがとう、響さん。」
私はいがみ合ってる二人と愛しの響に別れを告げて自分の家の車に乗り込んだ。
そして、頭を抱えた。
まずい、これはちょっとまずい。さすがに好感度を上げすぎてしまったのだ。ゲーム中では彼らは麗のことを西條と呼んでいたし麗は昴様、誉様、響様と呼んでいたのだ。確かに友達になるくらいの好感度はのちのち必要なのだが、やりすぎた。これでは主人公が昴or誉ルートを選んでもバッドエンドにしかならない。そうなるとさすがに主人公が可哀想。それに私にプラスがあるわけでもないのだ。
となるとここは二人の好感度を下げるしかない。そして響の好感度を上げていくしかないのだ。
私はこのとき、気づくべきだったのだ。つまり、私はゲームのシナリオを変えられているということに。そうすれば、私の苦難は減ったというのに。