四章 成長
成長 『スティッチの作為』
幼少期を悶々と、欲求の“処理”の方法を探す事に費やしたスティッチは、Junior High School(中学校)に上がる頃には、欲求のControl(操縦)の術を考える思考に至っていた。
叶えたい欲望があるとして、人はそれらが手に入らないとわかるや否や、“諦める”か“我慢する”のである。
諦めや我慢の方法は様々ではあるが、皆、10の欲求を抱えながら5で手を打つなり、1で辛抱するなり、0をやむなしと手を引く事が多い。
スティッチはそれらを幼少で学び、更に考え方を確立していた。
彼が取った行動は、Subtraction(引き算)ではなく、Multiplication(掛け算)。
Multiple(倍数)は知識である。
独学で精進したのは、物理学と生物学。
無論、中学校の習得範囲は及ばない程の知識をコツコツと得て行った。
物質の構造・性質を探究し、すべての自然現象を支配する普遍的な法則を研究する事。
また、生物が生物として生存する根源の力や物事が存在し、その働きを維持するための源を学ぶ事によって、自らの興味の増加を最大限に引き上げる“努力”をしたのだ。
必然的に物質の奥行きを理解し、生命の尊さを知識の中に身に付けた彼は、些細な“破壊行為”による快感すらも増幅させる事が出来るようになっていた。
快感の飛躍の為に、まずは対象を“愛した”のである。
これからの長い人生の快楽を、最大限に活かす為に数年の歳月を要した。
その甲斐あって、Sewer Rat(溝鼠)一匹の駆除(殺害)にすら、快感を“倍”増させる事が出来た。
スティッチがJunior High School(中学校)時代に得た快感は、生命の遮断で云うと1021。
無論、昆虫等も含まれるが、植物を生命として挙げるなら、その数は更に向上する。
破壊した物質の数を入れるともはや論外の数値に渡ったが、一度だけ失態を犯した。
キッチンナイフとダガーナイフの殺傷能力の違いを数値化する実験中、つい魔が差してしまった彼は、クラスで飼育中だったウサギの耳を1/3程削ぎ落としたのだ。
その行為自体が後に問題になる事はなかったのだが、運悪く一人の女生徒に目撃されていた。
余談ではあるが、スティッチは学生時代は女生徒達にすこぶる人気があり、本人の恋愛感や性的欲求に比例せず、求愛は日常茶飯事と云った具合だった。
端麗な容姿と、知的な要素。
学問に没頭し、博識な部分と生物を愛する姿が、人間的魅力すらも“倍”増させていたのだ。
中でも取り分け動物好きな女生徒がスティッチに過度な愛情を注いでいた。
スティッチ自身は彼女をSteady(恋人)等とは思いはしなかったものの、休日には二人で昆虫採集やスケッチに出掛けたりもした。
ウサギの飼育も主に彼女と共に行っており、彼女がスティッチにぞっこんだったのは周知の事実であった。
スティッチがウサギの耳にダガーナイフを突き立て、キッチンナイフで削ぎ落とす様を目を見開いて目撃したのはその彼女である。
彼女は錯乱し、
その日自ら命を絶った。
手には1/3のウサギの耳を持ったまま、校舎の窓から身を投げたのである。
騒ぎの最中、スティッチの欲望はまたStep Up(向上)したのだった。




