二二章 NIGHT IN GALE:3
NIGHT IN GALE 3
『憂鬱のサー』
よりによって数日の間に二度もの、早朝の電話にサーは思った。
(不機嫌になる内容は頼むから止めてくれよ……)
サーのこの願いは虚しくも中を舞い、部下もまた、察した口調で実に言いにくそうに情報のみを伝えた。
「実は……クレアが現れましてですね……。場所は、L.A.です……」
その内容にまたしても素晴らしい寝起きを見せたサーは、すかさず質問で返した。
「現れた?!生きてるみたいな口振りじゃあないか。“発見された”の間違いじゃないのか?遺体だろ?」
「いえ……本人です。……生きてます」
サーの手は、首筋ではなく頭をかきむしっていた。
クレアが“発見”されたのは、自身の実家であった。
サーは深い溜め息をついた。
見つけたのは両親。
所謂、クレアは単純に帰宅しただけである。
特殊捜査官を長年勤めたサーにとっての正義とは、市民の安否よりも犯人の逮捕であった。
このねじ曲がった正義感は、クレアの無事よりスティッチと事件の関連が途絶える事に苛立ちを隠す事が出来なかった。
その苛立ちは、クレアに会って更に強い物となった。
無論、両親にとっては何事もなく無事で居てくれればそれに越した事はない。
しかし、スチュアート宅へ赴いた時に見せた父親と母親の満面の笑顔は、手掛かりの遮断を意味する。
更に当の本人は、まるで他人事の様な顔でサーを出迎えた。
サーは苦虫を噛みながら、心にもない言葉を述べる羽目になったのである。
「いやいや、本当に無事で何よりですな。本当に……いや、実に幸運だ」
眉間に入った皺にもお構い無しで、クレアの父と母は上機嫌で答えた。
「ありがとうございます。どうもお手数おかけしてしまって。まったくうちの娘は呑気で……ええ、ええ、何よりでしたよ」
(手数どころの話じゃあないんだ。脳天気な奴らめ。呑気はあんた達も同じだ……)
追い討ちをかける様にクレアが口を開いた。
それも馬鹿にでもする様な口調で……冷めた目つきで。
「ところでミスター。私の不在でスティッチに疑いが掛かってたんですって?」
サーは傷口にでも触れられたような気になった。
誤魔化すように必死で造り笑いをしながら、
「いえね。任意でお話をお聞きしただけでして……」
そう言って頭の汗を拭った。
「FBIも焼きが回ったのかしら?隠れてもいない私を見つける事も出来ず、解決出来ない事件と勝手に結び付けた上に関係の全くないスティッチを尋問するなんて……」
死んでいて貰いたかった小娘がのうのうとした顔で家に戻り、見下したような表情で語る言葉に、サーは頭に血が登るのがはっきりとわかった。
(自分達に関係なけりゃ、どれだけ大きな事件でも知った事じゃない様な顔しやがって……お前が死んでたらさぞ両親は泣き喚いただろうよ)
「いや、何もないに越した事はないのですよ。解決は遅れますがね……」
本音と建て前を使い分ける事の出来る年齢である事が、サーにはかえって息苦しさを感じさせる。
最後はふてぶてしさを露わにしながら帰ろうとするサーに、クレアは容赦なく付け足した。
「早く“真犯人”を見つけて下さいな。怖くて表を歩けたものじゃないわ。お願いね」
サーはこの言葉に一度は振り返ったものの、特に何も言えずに表に留めてあった車に乗車した。
クレアもまた、それを見送りながら心の中で呟いた。
(もしあなたに娘が居るなら気を付けたほうがいいわ……)




