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JUNK LAND【→】  作者: 笑夜
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二二章 NIGHT IN GALE:1





NIGHT IN GALE 『No.7 ─Seven─ 』









日本での事件からおよそ一年後……

アメリカで一人の女性の捜索願いが出された。


届け出たのは、

アルバート・スチュアート。


記載された当事者の名は、

クラウディア・スチュアート。


アルバート氏はクレアの父である。


クレアは、半年程前から両親との連絡が途絶えていた。





ちょうどクレアが行方を絶った頃の日付で、サンタバーバラにあるクレアのApartment(貸家)の賃貸契約は解約されていた。


親しい友人の居なかったクレアの情報は限り無く少なかったが、隣室の住人からは

「時折、数日間留守が続いていた」と言う証言が挙がっている。



この捜索願いには、FBI(連邦捜査局)が動いていた。


理由はとある関連にある。






─ワシントンD.C.



パズル・パレス(FBI本部の別名)で、せっかちに煙草をふかす男に部下の一人が言った。


「サー、彼女のApartment(貸家)に出入りしていた男の身元がわかりました。


“スティッチ U ブラッドマン”


そいつも最近賃貸契約を解約してます」


「やっと小マシな情報だな……やれやれ」


仕事をしようにもアテのない状況に苛ついた末の回答である。




“ソウサー・エキストラ”



部下からは“サー”と呼ばれている男。

その理由は二つある。


一つは“ソウサー”から取ったNickName(ニックネーム)であり、


もう一つは、彼が部下達にとっては“sir(目上の男性への敬称)”と呼ぶべき存在であったからだ。



サーは部下の報告を聞いて髪を掻き上げた後、首筋を強く揉みながら言った。


「そっちの男を先に調べた方が早そうだな……」


部下達は自分達の推測が正しい事を確証した。


サーの感は頼るべき“証拠”の一つであり、その感が冴えている時に首筋をマッサージする癖があるからである。




事は七年以上前。


カルフォルニア大学のサンタバーバラ高での一人の女生徒の自殺にまで遡る。


前日まで微塵も気配がなかったとされる女生徒が、ある日突然ハサミで手首を切り自宅のLiving Room(リビングルーム)で死んでいるのが発見された。


発見時、彼女の周りには頭髪が散乱しており、彼女自身が無造作に切った様が残されていた。


当時、遺書もなく自殺理由は不明であったが、他殺の疑いはなく何らかの強度な精神的ショックからヒステリックが起こり、突発性自殺を遂行したとして処理された。






余談ではあるが、以後五年間でアメリカ全土ではおよそ十五万〜二十万件の自殺者が存在する。


サンタバーバラでの女生徒の自殺は、この年間約三万件を越すであろう自殺者の数字の中の“たった”一件である。


実はこのサンタバーバラでの自殺を機に、全く同じ“きっかけ”で自ら命を絶った人間が八名存在する。


五年の歳月。十五万件以上の自殺者の中の僅か八件。


勿論、この八件を関連付ける者は誰一人として居なかった。




因みにアメリカ全土における殺人事件の件数は、年間一万八千件を越す。


犯罪大国アメリカ──


クレア失踪と同年、アメリカでは一人の男の名が連呼されていた。


その人物の名は、

『ジャック・ザ・リパー』


ジャック・ザ・リッパーとも、切り裂きジャックとも言われるあまりに有名な人物である。



1888年8月末からおよそ二ヶ月間、ロンドンのイースト・エンド、ホワイトチャペル地区において、複数名の娼婦を殺害したとされる“連続猟奇殺人犯”で、現在でも解決には至っていない。






何人もの容疑者を出しながら、未解決のまま現在に至るこの名前が、この年再びメディアを騒がせたのにも理由がある。



犯行動機の不特定な“若い女性”の遺体が相次いで発見されたからだ。


犯人の逮捕には至っていなかった。


被害者に共通した因果関係はなく、犯行現場も全く関連性のないこの数件の殺人事件には、二点だけ共通点があった。


猟奇殺人に良く見られる、“性的暴行”を全く受けていない事。


そして、額に“7”の文字が共通して刻まれている事であった。


各メディアはこの事件を大いに取り上げ、


『切り裂きジャック再来』の見出しで関心を煽り、大衆は過去の謎の人物への恐怖の逸話と、話題性に関心を持った。




この連続殺人においての関連性は、逆に捜査を撹乱した。


もともと、“快楽殺人”は“連続殺人”に結びつき易く、解決に至るに時間を要するケースが多い。


犯罪が連続して続けば逮捕率は高くなるが、快楽殺人は違う。


解決の重要素である被害者との“接点”をぼかすからである。


更にアメリカの広大な国土で無差別に行われる犯行は、遺体の始末の場所にも困らず、結果として捜査が途切れてしまうケースが多い。


1936年、この特徴を活かし、グリーンリバーの殺人鬼と言われた『ヘンリー・リー・ルーガス』と云う男は、全米十七州で三百人以上を連続して殺害したと言われている。






更に今回の事件においては、連続殺人が性的要素を含んだ“快楽殺人”ではない事と、額の“7”の文字がさらに撹乱を促した。


一部では、撹乱目的で意味の無い数字であると云う声も挙がっていた。



サーはサンタバーバラに在住していたクレアの失踪も、この連続殺人と何らかの関係があると見ていた。


そしてFBIは浮かび上がった一人の男、“スティッチ”の名に的を絞った捜査に踏み切ったのである。





失踪したクレアとスティッチと云う男が在住していたカルフォルニア州において、僅かに他州よりも殺害件数が多い事がわかった。


そして、各州で起こった動機不定の自殺者の内、数名が過去五年間の内にカルフォルニアへ訪れていると調べがついたのである。


これを受け、カルフォルニア州サンタバーバラを中心にクレアの身元調査と“遺体捜索”が同時に開始された。


「クレアはもう既に命はないよ。遺体捜索に力を入れろ。両親には気の毒な話だがな……」


更にサーは部下達を睨み付け、力を込めて言った。


「スティッチと云う男は重要参考人としてとっ捕まえて来い!」



「Yes. sir!」







サーの読みは部下達も信頼していたが、クレアに関しては遺体は勿論、所在も掴めず依然として消息を絶ったままであった。


しかし、同一人物による犯行であろう事件はその後も相次ぎ、その数は既に十名を数えていた。


メディアは、この止まらない連続殺人と不可思議な“7”と云う数字を絡めて連日のように話題を集めた。



あくまでも“重要参考人”の域を脱しないスティッチが、その身柄を確保されたのは、十人目の被害者が出た僅か一週間後の事であった。






サーの下に報告があったのはスティッチ確保翌日の早朝。


朝の苦手なサーは不機嫌さを露わにしながら電話を受けたが、その内容は眠気を覚ますには余りある吉報であった。


「サー!スティッチの身柄が確保されました。ベガスです。」


部下の声色には明らかな動揺があった。


サーもまた、想像していなかった急報に一瞬動転した。


世間にはまだ公表出来ないこの男こそ、サーの勘は既に頭の中で“容疑者”として見ていたからである。


「街中で呆気なく発見したそうでして……」


「俺が出向く。チケットを……」


サーは意気込んだ。


クレアの居所を知る手掛かりの為ではない。殺人事件の犯人として対峙する為である。





ラスベガスに到着したサーを驚かせたのは、あまりのスティッチの平静振りであった。


確保とは名ばかりの任意の取り調べ。


「クレアの失踪について知っている情報を教えて欲しい」


そう話したサーにスティッチは笑顔で言った。


「なる程……、連続殺人の仮容疑者って訳ですか?」


先を越されたサーは、


(回りくどい問答は不要だな……)


そう考えを改めた。


このSpeedy(素早い)な切り替えこそが、犯罪大国アメリカで特殊捜査を担う組織の上官である所以なのだった。






「わかってるじゃないか。クレアが発見されれば更に容疑者に近づくんじゃないのかな?」


煽るように決めつけの姿勢を見せつけながら、それでいてその眼は寸分の動揺も見逃さない光を発していた。


その刹那……、スティッチの目は泳ぎ、煙草に火を付けながらこう言った。


「任意でこんな所に連れて来た上に、証拠も確証もなしにそんな事言うなんて、名誉の毀損だな、全く……」


この瞬間を捉えたサーは確信する。


(決まりだな……)






そして更に余裕を見せつけながら、


「いやいや、これは失礼した。勿論お帰り頂けますよ。また“任意で”お越し頂けると助かりますなあ。クレアを一刻も早く“見付ける”為に、ご協力お願いしますよ」


気を悪くしたのをあからさまにするスティッチは挑発するように微笑みながら、煙草の煙をサーに向けて吐き出した。


「ところでMr.(ミスター)。このアメリカでは年間何件の殺人事件があるかご存知ですか?」


スティッチの意味ありげな質問にも動揺を見せる事なく、また当たり前のように答えた。


「勿論だが、何かね?」






「その中のたった数名の事件の関与を、クレアの失踪と結びつけるのは早計すぎやしませんか?」


サーは鼻をクスリとすすりながら答えた。


「いやあ、スティッチ君。数名じゃなく、十数名だ。クレアがその数に入ってなければいいがね……」


「クレアがどこに居るかなんて知りません……が、Seven(7)だって?事件への関連も証拠がなけりゃ、そんな数字にえんもゆかりもないですよ」


薄ら笑いを浮かべるスティッチにサーは被せるように聞いた。


「まあまあ、クレアも含めて本当にこちらが証拠すら掴めない訳ですからな。しかしそれこそがLucky(幸運)なだけかも知れんよ。Lucky Seven(7)に縁があったりしないかい?」





サーは穏やかさを欠いたスティッチの肩を抱きながら見送りを済ませた後、部下達に指示した。



「四六時中、目を離すなよ。」



(少しづつ、神経を振動させながら道を作ってやる。何人犯罪者を見てきたと思ってんだ)



クレアには是非とも十一番目の遺体として“見つかって”貰いたい。


内心そう思うサーの願いはその後あっさりと裏切られた。







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