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JUNK LAND【→】  作者: 笑夜
22/39

二十章 LOOP:2





LOOP.2


『依存、嗜癖、否認、妄想、罪、罰』








吉行は、


詩織の中に宿る命が彼を見違えるまでに変貌させていた。


途端に現実と真実を“感じられる”きっかけになった小さな命。


狡猾で器用な男の殻を脱いだ時、益々良い男として詩織を惹きつけていた。



「詩織、体調が悪いんじゃあないか?顔色が冴えないけど……気分のいい時に話があるんだ」


「大丈夫だよ。つわりも酷くないし……」


詩織は依存する身体の制御が利かぬまま、ずるずると泥沼に足を取られていた。


性欲と薬物の依存と云う悪魔が、無知なお嬢様の心に恐怖と欲求を交互に与えるのである。



「詩織、式を先に挙げよう。結婚して家庭の“形”を築くんだ」






詩織は、依存を断ち切ると心に決めて正人と待ち合わせ、帰りの車中に後悔すると云う行為を何度も繰り返していた。


頭ではわかっているのだ。

しかし、麻薬とSEXと云う二つの依存が離脱症状を引き起こす。


しかし、吉行からのプロポーズは彼女の最も待ち望んでいた言葉である。


何度も心の中で繰り返した、

「まだ間に合う」と云う“否認”。


この呪文を払拭し、再度堅い決意の下正人にメールを送った。


自らが選ぶのは、欲求ではなく愛情なのだと……


身体の疼きを自らで鎮め、吉行とまだ産まれぬ子供の写真を胸に……





車に正人を乗せた詩織は、五回目の点滅が過ぎても車のアクセルを踏まなかった。


「行かないの?」


いつもと違う詩織に向かって正人がそう聞いた時、詩織は大きく深呼吸して口を開いた。


「あのね……」


詩織の次の言葉が発せられる前に、先に言葉を伝えたのは正人であった。



「詩織さん……、妊娠してんじゃね?」



突発的に発せられたその言葉に驚いた詩織は正人の顔に目を移した。


その顔は僅かに笑みを浮かべ、詩織の腹部を舐めるように見ていた。






驚く詩織に、正人は言葉を続けた。


「少し前から思ってたんだ。詩織さん、スタイルいいじゃん。何回裸を見てきたと思ってんの?」


そう言う正人の顔はすでに笑い顔に変わっていた。


「知ってたんだ……」


「薄々……ね。今日の雰囲気で確信したよ。話があるって言ってたのもこの事でしょ?」


まるで、詩織の“心構え”等軽視するかのように話す正人。


(私との関係が終わる事に、何の問題もないんだろうか……)





実際、詩織からの援助がなくなってしまえば、正人は途端に破綻し、その後に待っているのは悲惨な生活しかない。




それは正人にはわかっていた。




そして詩織がそうであったように……、


正人にとっても彼女は“道具”でしかないのである。






「ところで詩織さん。雰囲気からして、別れ話をしにきたんでしょ?」


あっけらかんとした口調の正人。


「そうよ。私には愛している人がいるの。その人とその人の子供と、幸せな人生を歩むのよ」


「必要なくなったら俺はポイ捨てですか?」


正人はそう言うとニヤリと笑い、こう続けた。


「因みに詩織さん、子供は愛情から出来ると思ってんじゃない?そうでしょ。」


「どういう事?」



「子供は“行為”で出来るんだから……、それって“俺”の子かも知れないんですけど……」





当然──


この当たり前にして最低限の“可能性”。

それを“無いもの”としていたのが詩織の最大の緩さであった。



卵子と精子が受精をして……



こんな事は勿論詩織は知ってはいた。


が、幼い頃から恋に恋してきた詩織は、それが愛する人の子供であると信じて疑わなかったのである。


この妄想にも似た思い込みは、愛情にすら“依存”する詩織から常識を奪っていた。







「ちょっと待って!だって私はアナタの事なんて愛してないわ。愛してる人がいるのよ。その人との子供に決まってるでしょ」


まるで自分に言い聞かせるように話す詩織の言葉に、正人は鼻で笑いながら答えた。


「でも、愛なんかなくたって、嫌って程思い当たる節があるんだけど、俺だけかな……」


現実と自分の甘さと安易な考えに、黙ったまま言葉をなくす詩織に正人は言った。


「とりあえず、今後の事もあるしちゃんと話そうよ。いつもの所で……」


そして前方を指差し、車の発進を即した。


詩織は言われるがままにアクセルを踏み、“いつもの場所”へ向かった。





詩織の安易な認識による悪夢はその部屋でも終わらなかった。


いや、快楽と云う報酬に目が眩んだ時点から悪夢は始まっていたのである。



力の抜けた詩織の服を脱がせ、ベッドに寝かせた正人は優しい口調で言った。



「産めばいいじゃん……」



詩織は静かに正人を見た。










正人は頭の良い男ではない。


いや、まだ社会そのものの経験も少ない“半端”な青年であった。


だからこそ発言出来る“軽い”発想が詩織に響くのである。



そしてまたそれが正人の考えうる最大の悪あがきであった。



「俺の子供でもその人の子供として産めばいいじゃん。黙ってたらいいでしょ、俺も……、ア、ナ、タ、も……」






詩織の胸と、堅かった決意はまた揉みしだかれ……、


真っ白になった頭と、濡れた瞳と身体だけがそこに横たわっていた。



無知と軽率は時として大きな罪──



しかし、その罰は始まったばかりだった。


正人はその詩織の身体に、またしても抜けられない身体の快感と薬の快楽を与えながら……


「俺は金さえあればいいから……、俺の子じゃなければいいね」



耳元でそう囁いた。





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