十八章 KURO O
KURO O 『奇才の黒幕』
天才とは、生まれ持った“天性”の“才能”を効率的に活かした産物である。
俗に、1%の“閃き”と、99%の“努力”であるとよく言われるが、その1%の“閃き”こそが天性であり、凡人には携えない程貴重なのである。
幼少期にして既に“善”と“悪”の図式に興味を抱いた黒男は、極端なまでに悪を憎み、いつしかそれそのものが生きる上においての“糧”になっていった。
才能の片鱗を覗かせるきっかけを作った『母子殺害事件』は、黒男が成人して才能を発揮出来るようになるまで、解決を見ないままにある種の『目標』となって存在した。
黒男が持つ『正義感』と云う才能は、異質な形で成長した。
およそ善悪の区別が分からない年齢で開花した才能は、ある種の付加価値をもたらせていた。
その“才能”を有意義に使用する為に“必要”な付加価値。
彼は極めて稀な程の、異常な知能指数(IQ)を授かっていた。
本来ならば、天才であるが故の才能の開花であるが、黒男の考えは違った。
「この才能(正義感)を実行に移す為に授かった道具(IQ)だ」
事実黒男はその知能指数と“もう一つの武器”を、『正義』の為だけに使用した。
黒男の特異な部分は、生まれながらに授かった能力を“常人”として持ち続けられる所にあった。
『ナントカと天才は紙一重』
アンバランスに偏った才能の持ち主は、価値観も非常識な場合が多い。
道徳的にも法的にも常識が薄く、故に“善悪”の判断力すら欠如している者も多く、“奇行”も数知れない。
アルキメデスは行水中に『アルキメデスの原理』を発見し、裸で町中を走り回り、
ゴッホは自画像の執筆中、
「自分の耳が邪魔だ」と言って、自ら耳を切り落とし、
ジェームズ・ブラウンはコカインを使用中にトイレ(便器)にマシンガンを乱射し、二年間刑務所での生活を送った。
黒男は類い希な頭脳を持ちながら、奇抜さを全て内に秘め、善悪は確固として自己流で理解し、様々な“ナントカ”を頭脳と心の中で処理する力を持っていた。
特に、彼のずば抜けた能力の中で特異体質だったのは、“もう一つの武器”である『サヴァン症候群』の体質である。
日本において有名なのは、画家“山下 清”であるが、
主に知的障害や自閉性障害のある者の中で、常人には及びも付かない能力を発揮する者の“症状”を指すもので、
全世界にも数十名程度しか存在しないと言われている。
黒男は常人の常識や価値観を持ち、一般的な障害を持たずして、そう云った能力と高いIQを備えていた。
ある種の“奇形”とも取れる天才……
黒男は十代にして、
【ランド研究所(RAND Corporation)】に席を置く。
カルフォルニア州ロサンゼルス群。
Santa Monicaに本部を置くこの研究所は、アメリカ軍や政府機関、民間からの調査分析を請け負う事を目的として設立された総合シンクタンクである。
シンクタンクとは、諸分野に関する“政策立案”“政策提言”を主たる業務とする研究機関で、
研究開発(Research ANd Development)の頭文字を取って【R.A.N.D】と名付けられた。
黒男はここで、とある“国策”を打ち出した。
日本の司法への理想的な“内政干渉”である。
主として非営利団体であるシンクタンクではあるが、非常識な国益の獲得をちらつかせたこの“国策発案”は即刻政府に対応させるに至り、黒男とCIA(中央情報局)の接見を可能にさせた。
カルフォルニアは黒男の“仮想理想郷”の野望にも似た“正義”を現実に近付けた場所である。
そして黒男はこのカルフォルニア州のロサンゼルスにおいて、スティッチと云う男に出会う。
出会った瞬間、黒男もまた同じような“匂い”をスティッチに感じていた。
以後、互いに連絡を取り合い、運命にも似た“接点”を共有する事になる。
中学在学中に、既に有り余る『正義感』を極論の域まで高めていた黒男。
諸悪の根源は人類の知能の産物である。
だからこそ“発展”と“崩壊”を比例させるのだと……
その時に授業で書いた作文は、彼にとってはちょっとした悪戯心であったが、担任の教師を驚愕させた。
危険視される程のその作文……、いや“作品”は“作品”として取り上げられ、各メディアをたらい回しにされた。
それが遠く海を隔てた場所に居るスティッチの目に触れていた等、13歳の黒男には知る由もなく、また、知る必要すらなかった。
中学時代の16歳にして、既に高認(高等学校卒業程度認定試験)を得てHarvardCollege(ハーバード大学)に入学を果たし渡米。
その頃には自身の中で『絶対悪』の削除のシナリオを描き出す。
時を同じくして偽造結婚を画策し、敢えて成人した女性をターゲットに選び正当な婚姻を遂げた。
それによって収入源の他、居住地を得、三年後の19歳にして“アメリカ国籍”と“市民権”を獲得するのである。
本来他国籍を取得した場合、日本国への国籍抹消が必要である。
しかし“任意申請”である事と、行政の他国との情報交換の仕組みがない事を既に知っていた彼は、日本・アメリカの多国籍を手にする。
後に呼ばれる事になる愛称。
アメリカ人のB(lack).J(ack)【黒い男】と、日本人の黒男。
この“二人”の同一人物は着実に賢明に自らの道を歩んで行った。
HarvardCollege(ハーバード大学)への入学は、国籍取得とその作業上の利便性、そしていち早い学歴修得が目的であった。
そして18歳にして卒業資格を得ながら、ランド研究所へと赴いたのである。
海を隔てた先にある日本。
無論、一番日本から近いアメリカは“グァム”であるが、黒男にとっての“島”への対象は、“国”ではなく“土地”である。
「領土なんてもったいない……。あの島が“国”だって?もっと有効な使い方があるだろうに……」
黒男は新たに誕生しつつある、“国”になっていない“土地”を目前にすえながら、広く行く道のないカルフォルニアの海から理想を見るのである。
その先にいずれ、Utopia(理想郷)が出来る事を頭に置いて……
黒男が発案した奇抜で突飛な国策案は、もはや外交の域を逸脱していた。
単なる国家規模の大ビジネスである。
しかし黒男の目的はビジネスにあらず、単に“理想郷”設立の為の起爆剤程度にしか考えてはいなかった。
ともあれ、CIA(中央情報局)と共に外交に携わるきっかけを巧みに使用し、果ては日本の政府の喉元にまで詰め寄る事に成功する。
法務大臣を手中に納めるのも差ほど苦労はなかった。
米国への国策立案とはまた違う形での、提案を勧めた。
完全に黒男を軸に、世界でも類を見ない試みが前進しだしたのである。
そして黒男は時折、
スティッチと互いに感じる同じ匂いの下、顔を合わせ酒を酌み交わした。
どちらも口数は多くなく、言葉の節々にある“微妙”を互いに感じる事が出来た。
理解しあえる存在と云うのは、そうそう存在するものではない。
もし二人が同じ趣旨、同じベクトルの本能を持っていたならば、絶対的なPartner(相棒)になっていたであろう。
時にスティッチは、黒男のランド研究所への加入理由が、Connectionの獲得が目的であり、確信的な何がしかの為の“準備”なのだと察知した。
時に黒男は、時折同伴する“クレア”という女性の容姿と求愛振り、そしてスティッチのSubliminal(サブリミナル─潜在意識な印象づけ)にも似た扱いを見て、何がしかの“利用”目的である事を察知した。
しかし互いに多くは語らない。
根元は同じくしながら成長を遂げて行く彼等二人。
しかし全く別の枝葉を広げて行くのである。
一人は破壊の為の美学の道を……
一人は正義の為の悪の排除を……
大木がその根から大きな“幅”を広げる様に……




