十六章 UTOPIA
Utopia 『理想郷・理想的改革案』
【Loahi(ロアヒ島)】
そんな名の島がある。
正確にはまだない。
有名なリゾート地 Hawai。
1778年、キャプテン・クックによって発見されたこのハワイアン諸島は、主に19の島や環礁によって構成され、一つを除きアメリカ領土として存在する。
Hawai(ハワイ島)やO'ahu(オアフ島)等の主要な八つの島々と、北西ハワイ諸島と呼ばれる小さな島や暗礁、環礁で構成されており、
更に小さな物を合わせると100以上にものぼり、主要島以外は大半は無人島であり人は住んではいない。
このハワイ諸島は、主に火山島の集まりである。
キラウエア活火山を始めとした五つの火山で出来た島々であり、キラウエア火山では現在もまだ溶岩を流出し続けている。
このハワイ諸島に、流出する溶岩によってまた新たに誕生しようとしているのが、
Loahi(ロアヒ島)である。
まだ島として形成されていないハワイ諸島の二十番目の島。
このLoahi(ロアヒ島)よりも以前、同じく溶岩によって新たに誕生した島がある。
まだ島として形成されていないにも関わらず、既に命名されているLoahi(ロアヒ島)との違いは、
正式名称はおろか地図の上にも存在しない“名もなき島”として、諸島の数から除外されている事である。
諸外国や日本はおろか、米国でもこの島の存在は“一般”には証されていない。
まだ熱の冷めないこの島ではあるが、既に鳥類の飛来はおろか、植物の自生すら進行していた。
背広を着た数名の男達は、断崖だらけの島の上に立ち約2時間程会話し……最後はそれぞれに握手を交わした後、ヘリに乗り込んだ。
この時、二機のヘリが同時に飛び立ち、その内の一機はO'ahu(オアフ島)の上空で目撃されている。
「あ、あれApacheだよ。すげえ」
「何それ……ヘリコプター?」
「軍用の攻撃ヘリだよ。俺好きなんだ。湾岸戦争とかイラク戦争でも攻撃しまくってたやつ」
「ふうん。てか、興味ないんだけど……」
「何で軍用機なんか飛んでんだろ」
「知らない……」
日本人観光客で賑わうWaikikiでは、こんなくだらない会話がカップルの間で交わされた。
しかし、そのヘリに“アメリカ合衆国大統領”が搭乗していた等とは知る由もない。
正確には、
『AH-64G
ApacheLongbow』
このApacheと云う攻撃用ヘリは、米国だけに留まらずオランダやイギリスを始め、日本でも所有している。
『AH-64【G】』は、米国が自国の為のみに開発したApache攻撃用ヘリの最新型である。
この日、米大統領はこの軍用機の試乗を兼ねて島の視察に足を運んだ。
大統領は、居心地の悪いヘリの中で薄ら笑いを浮かべながら苦言をこぼした。
「しかしあれだね。人類の英知と云うものは恐ろしいものだ」
格段に性能を上げたヘリは差ほど騒音も酷くなく、会話はスムーズに続いた。
「このヘリの性能の向上は目覚ましい。無駄を省き良い部分のみを引き上げている」
「歴史に残る機体になるかと思います」
そう返したのは国防総省の副長官である。
「にも関わらず、これから我々が行う事は時代の逆行だとは思わないか?」
「お言葉ですがPresident(大統領)、歴史は繰り返すものです」
「しかし、無駄……と言うのもなんですが、シンプルではあります。やはり無駄は省いて行かねば……」
次に合衆国最高裁長官と国務省(他国で云う外務省)長官の二人が会話に割り込んだ。
「ところでC.I.A(Central Intelligence Agency─アメリカ中央情報局)と精通していたのは彼だね。あんな人間もいるのだな……
しかし、まさにUtopia(理想郷)だ。
私は別の意味で歴史に名を残すかもわからんな」
嬉しそうにそう語る大統領を乗せ、ヘリは静かにPearl Harbor(真珠湾)へと飛び去った。




