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JUNK LAND【→】  作者: 笑夜
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十五章 JOKER





Joker 『手にしたカード』









【カルフォルニア大学サンタバーバラ校】



ロサンゼルスの北西約85マイルに位置する、カルフォルニア州サンタバーバラ市にある共学州立大学である。


サンタバーバラはサーフィンやダイビング等の名所であり、大西洋沿岸にあるCampusは開放的な空間である。



スティッチは人間の心理に隙の出来る、より開放的な空間を求めた。


リゾート色が強く、大勢の観光目的の人間が訪れる事もこのサンタバーバラの街を選んだ理由だった。





幸い、カルフォルニア大学の中でもサンタバーバラ校は、カブリ理論物理学研究所を擁しており物理学の研究に優れていた。


表面上、物理・生物学を学ぶ姿勢にあったスティッチにとってはそれだけの理由でも両親の説得は容易であった。



ノーラの間接的殺害を機に心理学に興味を抱いたスティッチは、物理学を学ぶと偽り大学では精神構造を中心に学んだ。


医学系は同じカリフォルニア大学でも、地元ロサンゼルス校が有名ではあるが、彼にとっては大都会は“仕事”がしにくかったのである。



クレアに再び出会ったのは、この風光明媚な勝景地であった。






クレアは人生を謳歌しきれず悶々とした日々を送っていた。



ノーラの死を見届けた後退学届けを提出した彼女は、只己に去来した“陰”を持て余していた。


集団生活の中で受けてきた“疎外感”にはうんざりしていたクレアにとっては“退学”は後悔をさせるものではなかった。


しかし人を陥れ、手に入れた初めての“優越感”だけは胸と頭から離れる事なくくすぶる生活であった。





偶然と突如去来した“陰”によって味わう事が出来た“優越感”ではあったが、クレアには意図的に手に入れる事等出来ない代物であった。


敗者の側の者がただ一度だけ、逆転の起死回生の勝利を手にしただけだ。


益々意気消沈するクレアを見て、両親は困惑した。


無論、彼女の心の“魔”に気付く事はない。


両親にとっては、生まれ時から背負わせてしまった愛する我が子への負担。


それをカバー出来る心を備えさせようと試みた努力が実を結ばなかったのだと理解した。





引き籠もりながらクレアが考えていたのは、いつもスティッチの事であった。


スティッチを最後に見た時のあの異様な雰囲気。


それはクレアが知っているスティッチではなかったからである。


好青年を絵に描いたようなスティッチが発していた“狂”のオーラ。


ノーラへの仕返しと、その後の事態に掻き消されていたが、あの時のスティッチの刺さるような目つきを思うとゾクゾクと電気が走るのだ。


まるで全身が狂気であり凶器に見えたあの時のスティッチが、クレアにとって一番魅力的に思えていた。






妙な感覚で思い悩むクレアに対して、その本来の過程を知らない両親もまた胸を痛めた。


「あの娘はきっと容姿で酷い苛めにあってたのよ。人生を悲観させたくないわ」


「一度皆で旅行でもしよう。気晴らしになるかはわからんが、私達が居れば大丈夫だ」


もとの心の美しい、大らかな人間に戻ってほしい父と母は、強引に娘を連れ出す手筈を整えた。




引き籠もりから三年。




「クレア。サンタバーバラのCottage(小別荘)を借りたんだ。しばらくゆっくりしないか?」






クレアは億劫でしかたがなかった。


意義なく過ごす数年の間、空っぽになるまで精気を吐き出した体にはリゾート地での生活等に何の魅力も感じない。


娘を思いやるあまりに誤解を解く事の出来ない両親は、開放的な空間で必ず心を開いてくれるものだと信じていた。




無理矢理車のシートに座らせ向かった街。


そこでクレアは幸福と不幸をもたらされる事となる。







クレアの休養は退屈なだけであった。



チャンネル諸島を巡り、サンタマリアの街に出掛けたりしながら過ごしたが、本来観光等に何の興味も感じない。


ダイバー達を見掛ける度に『海の底』に魅力は感じたが、決して本来の趣旨を理解したものでもない。


ただ深海に沈んで人生をやり直したかっただけである。


「こんな時期に海へ潜るなんて寒くないのかしら……」


侮辱と裏切り、疎外と劣等、そして“狂気”への関心と非力な自分に取り憑かれたクレアは、死こそ選びはしなかったものの、既に人生を放棄していたのである。





すっかり体力も思考能力も低下したクレアには、アメリカ西海岸の温暖な気候すら肌寒く感じた。


心が荒んでいたせいもある。


ぶらりと通りがかった有名な大学。


そのCampusに集う若者達は皆、薄着で気持ち良さげに談話に勤しんでいた。



「私にもあんなCampus Lifeを送る人生もあったのかしら……」



羨ましくもあり、嫉妬に腹立たしくもあるその光景を眺めながら、



「あんな事がなくたって私には無理ね。せめて美しければ……」



そう皮肉っては毎日足繁くその場所に通い、同年代の男女の様を観察するのが日課になった。





クレアを先に見つけたのはスティッチだった。


正確にはスティッチの広い交友関係の中ですぐにクレアの事が噂に挙がっていたからである。



「スティッチ。酷く醜い女が毎日Campusにお散歩に来てるぜ」


「ここの生徒じゃないのかい?」


「ああ、多分違うよ。夕方に来てはウロウロして帰ってくんだ」







スティッチにはどうでも良い事であった。


皮肉な事に、様々な教養を身に付け、精神構造を学び、人の醜さや脆さを理解するスティッチにとって、“容姿”の優劣等とるに足らない事であり、一種の『仮面』程にしか感じていなかったからである。


(全くこいつらの知能の偏りには呆れる……)


そこに居るのが“美女”であるなら、こぞってAppeal(懇願)しに行くであろう事がわかっていたからだ。


(いずれにしても、仮面には興味はないんだよ)


そう思いながらも連れられて目にした女に強い“縁”を感じざるを得なかった。





スティッチの脳裏に浮かんだのはあの日の出来事。




窓から身を投げたノーラとクレアのグラウンドでの光景ではない。


スティッチはノーラの顛末等見てもいないのだから……



スティッチが思い出したのは、クレアがわざわざノーラの痴態を自分の下へ晒しに来たあの日のクレアの様相であった。






クレアはと云うと、スティッチから声を掛けられ振り向いたその時、驚く程冷静な自分がそこに居た。


まるで引き寄せられたかの様な錯覚は、クレアの思考を単純なものに変えたのだ。


(この為に私はこのCampusに惹きつけられていたんだ……


この為に父はこの地へ誘ったんだ……


この為に……


この為に…これは運命だわ……)



「クレア、久し振りだね。また会えて嬉しいよ。いつも君を思い出していたんだ……」



クレアの荒んでいた心が一気に開放された瞬間だった。





それからは夢のような日々がクレアを待っていた。


待ち合わせはいつも放課後のCampus。


進学をあきらめていた彼女であったが、スティッチの話は“実”に溢れ、学問よりずっとクレアに教養を与えた。


語らいは何もスティッチの知識ばかりではなく、ユーモアもクレアを飽きさせる事はなかった。


休日には様々な場所に出掛け、まるで始めて見る景色のようにクレアには感じられた。





State Street(ステートストリート)と呼ばれるメインストリートを手を繋ぎながら歩き、ショッピングセンターでは洋服を選んだ。


勿論スティッチが気に入る物を……



通りの一番端まで何気ない会話をしながら歩き、Stearns Wharf(スターンズウォーフ)と呼ばれる古い埠頭でのホエールウォッチングには胸が躍った。


スティッチは常に優しくクレアを導き、クレアはまるで最愛のパートナーを得た様な気持ちになっていた。






Old Court House(オールドコートハウス)の時計台の下で交わしたKissは、クレアにとってはFirst Kissであった。


テラスの幻想的な雰囲気の中で余韻に浸りながらスティッチの話を聞いていたクレアは、話の内容等もはや上の空であった。


「ここは全米で一番美しいとされる裁判所なんだ。人を裁いて罰を言い渡す場所が美しいなんて、随分滑稽だと思わないかい?」


「そうね。その通りだと思うわ」


「ここではコンサートなんかもするんだ。所詮、罪も罰も被害も加害も、他人の事なんてすぐに忘れてしまえるんだよ。人の心理なんて軽いものさ……」


クレアは上の空で……しかし相槌は忘れなかった。


「俺がもし罪を犯したなら、こんな美しい場所で裁かれるなんてごめんだ」




やはりクレアは差ほど理解出来ないままに静かに、大きく頷いた。





あまりの幸せに、クレアには忘れてしまっていた事が三つあった。



一つはスティッチからあの突き刺すような鋭利な雰囲気が消えてしまっている事。


一つはノーラとの出来事。


一つは何故スティッチ程の男性が自分のような人間とこんなに親しい関係になったのかと云う事。


クレアがスティッチと再会してからと云うもの、本来働かなければならない“思考能力”や“五感”は、全て喜びの感情に掻き消されていた。



一つ目と二つ目の課題に無意識に気付き、同時に解決したのは始めて体を重ねた時であった。







見違える程に精気を取り戻した娘を見て、クレアの両親は自分達のとった行動が正しかったのだと確信していた。


娘の笑顔を数年振りに見た二人には、クレアの申し出を却下する事等不可能であった。



「パパ、ママ、ここに連れて来てくれた事に感謝するわ。私は今はまだこの街から離れたくないの。お願いだからここに残らせて……」






両親のBusiness(仕事)の都合上、サンフランシスコへと帰らねばならない時が来た際、クレアが熱心に頼んだ申し出である。


両親がCottage(貸別荘)を解約して借りたApartment(貸室)。


海の見渡せる窓と、備え付けられてあったSofa(ソファ)が最高の部屋をクレアは選んだ。




クレアが処女を捨てたのはその部屋のBed(ベッド)の上であった。






クレアは借りたばかりの新居にスティッチを招き、手料理でもてなした。


まだ家具の揃わないガランとした部屋ではあったが、お気に入りのSofa(ソファ)に腰掛けながらするおしゃべりにクレアは時を忘れた。


開け放した窓から夜空を見上げていた時、ふいにスティッチはクレアの唇を奪い、クレアの視界は星空でなくスティッチの瞳でいっぱいになった。






ロマンティックな雰囲気ではあったものの、過去に経験のない時間帯。


Kissの合図でクレアは気が付いた。



(ああ……、こんなに突然始まるのね……私を女に変えてくれるのがスティッチだなんて。私は最高のCard(カード)を引いたんだわ……)



Sofa(ソファ)からBed(ベッド)へ連れられたクレアは僅かに震える体を隠しながら目を閉じた。


スティッチの指が触れた時、震える体を隠す事は出来なくなった。




全てが終わった後、クレアは思わず泣いてしまっていた。


激しい痛み──


「痛かっただろ?ごめん、クレア……」


確かに……痛みはあった。


しかし、これまでに受けてきた心の痛みと比べるとどうだ。


その計り知れない程の違いと、あまりの幸福に流した涙であった。



スティッチはその涙を優しく舐めた。






余韻とスティッチの鼓動を楽しみながら、スティッチが“果てる”瞬間をクレアは振り返っていた。


(最後のあの瞬間……、間違い無く彼はあの時の雰囲気を纏っていたわ。スティッチの中に居る狂気は消えてなんかない)


クレアの心に隠れ住む“陰”がスティッチに共鳴するかのように、スティッチは話し始めた。




「クレア、俺は後悔してるんだ……」





「君はノーラの事……知ってるよね」


クレアは落ち着いて聞き返した。


「貴方との恋愛の事?それとも、もうこの世に居ないと云う事かしら」


スティッチは胸元にクレアの頭を置きながら、視線だけを下げて言った。


「死んだ事は知ってたんだね。君がSchool(学校)を去った前後の事だったかな……」





(知ってるわよ。私が仕向けたも同然なんだから……スティッチは知る由もないんだけど)


クレアは当然ながら自分が仕掛けた“罠”でノーラが死を選んだと思っていた。


無論、それ自体スティッチの知らない所で目撃して知らない所でノーラに伝えたのだから。


スティッチはノーラの死にクレアが関与している事は当時は見てはいなかった。







一方のスティッチは、その一度の応答でおよその推測を立てていた。


(なる程……クレアは何らかの形で関与していたんだな……)


スティッチがノーラとクレアの二人を題材に思考を働かす時、材料は四つある。


一つはRape事件の設定。


一つはその後の友好関係。


一つはクレアがわざわざ話に来たノーラの性癖の話。


そして今の応答である。



流れとクレアの返答を受け、クレアがノーラの死に対して怒りや悲しみの感情を抱いていない事を確認すると、次に確かめるべき内容を絞った。



「ところで……どうやって知ったんだい?」





スティッチのこれまでの人生は、常に“演じる”事であった。


自分の脳にこびりついた“狂気”を他者に感じ取られる事のないよう、いつも常人のふりをする事。


一人で居る時以外全て演じ続けていた彼にとって、人を愛する“振り”等容易なのだ。


そしてまた、人の感情を誘導して行く術も熟知していた。


愛情を手中に収めたスティッチは、クレアがノーラの消し去りたい恥辱を公言しに来た心の“闇”を引き出す為に、ノーラが答えるよりも前に話し出した。



「俺には実は秘密があるんだ……」







愛する者の“後悔”と“秘密”。

このWord(単語)を聞き流す人間は居ない。


「俺はね、クレア。ノーラを追い詰めてしまったんだよ」


「追い詰めた……?」


「秘密を聞いても嫌わないでくれるかい?」


「勿論よ、スティッチ。話して……。」


(知ってるわよ、スティッチ。皆知ってるのよ)



「ノーラは飛び降りで死んだんだけどね。実は俺が殺したんだ……」





思いがけない言葉にクレアは一瞬顔を上げ、驚いたように聞き返した。


「え?スティッチ、貴方が何ですって?殺した?」


確かにクレアはスティッチの狂気の様を目にしていた。


更にその場へノーラを誘導し、望み通りの悲鳴を確認した後、予想を超える成果を手に入れた。


しかし、一部始終を目視していた訳ではない。


クレアはスティッチの言葉に動揺の色を見せた。


スティッチは当然“嘘”を付いた訳であるが、クレアの“動揺”を見逃す事はなかった。



(クレア……、あの日のノーラの死に関わっているんだね。恐らくは近くに居て確認したんだろう)






Card Game(カードゲーム)は化かし合いである。


スティッチは自分のCard(カード)を切り出した。


クレアの手札を確認するや否や、イカサマ混じりにクレアに手渡そうとしているCard(カード)



それはまさしく、“Joker”。



手渡されたクレア自身も気が付かない内に、こっそりとクレアに手渡したCard(カード)だった。


クレアの手札は既にスティッチには透けて見えていた。


“スティッチへの愛情”“ノーラへの憎悪”“ノーラの死の関与”“心の闇”。




スティッチは静かに告白を続けた。


「俺にはね。クレア……特殊な願望があるんだ。……願望と云うか、Desire(欲望)なんだけど」






その時、始めてにして唯一、スティッチは自らの口で自身の狂気を言葉にした。


数多くの教養を身に付け、語る理由すら明確であったにも関わらず、スティッチ本人も少々戸惑いながら。



(何と伝え難い感覚なのだろう……)



この感覚を他者に理解させる事の難しさと無意味さを改めて知るのではあるが……、しかし取り立てて本質を理解させたい訳ではない。



スティッチは自分の“癖”を語る事で、クレアに見えない“鎖”をかけて行った。






スティッチの告白を聞いたクレアは、一瞬僅かに驚愕したのは事実。


しかしすぐさまそれは尊敬と、更なる愛情に変わった。


「ああ、スティッチ……。私にそんなDelicate(繊細)な秘密を打ち明けてくれたのね。」


(そして、それがアナタの底知れないAura(オーラ ─独特の雰囲気)の源だったのね……)


クレアは、その異常な欲望の為に敢えて自分を高めていくスティッチに憧れた。


そして、彼の内面を知る事でより深い部分でスティッチを愛おしく感じたのだった。





人が人に魅力を感じる時、その理由を明確に答えられる者がどれ程いるのだろうか。


得体の知れない、どこか突出した部分を本能で察知し、それを脳が様々な感情に置き換える。


環境や場面、タイミングや外的な働きかけで、振り分けられる感情も変わるのである。


スティッチはクレアの過去の言動を材料として考慮し、敢えて自分の“Egoism(エゴイズム)”をさらけ出して見せる事でクレアの心をControl(制御)したのである。






この、本来なら絶対的な嫌悪の対象になるであろうスティッチの“Egoism(エゴイズム)”。


しかしクレアの脳は、それすらも“魅力”と解釈した。


ノーラとのいきさつが無ければ、眩しいばかりの魅力にしか反応しなかったであろう。


しかし今、自らも心に芽生えさせている異常な“闇”。


その闇に放り込まれたスティッチの“真実”の姿は、クレアの全てすら覆い尽くす程黒く深かった。


蒼白なまでのスティッチのImage(イメージ)の中の一点の暗黒。


愛しい男のその闇の実態と深さを、処女を捧げたその時に、胸の中に抱かれながら打ち明けられたクレアは、その闇の底に堕ちていた。



いや、スティッチが堕としたのだ。





「ところでクレア……さっきの質問だ。」


スティッチはクレアの肩をより強く抱きしめながら、低く小さな声で再び聞いた。


「君はどうしてノーラの事故を知ったんだい?」


この問いに、もはやクレアは戸惑う事はなかった。


いや、寧ろ共感して貰えると感じる事が嬉しかった。


スティッチの告白に比べれば、とるに足らない事だと思えた。


打ち明ける事に喜びを覚えながら、あの日の出来事とそれに纏わる全てをスティッチに話して聞かせた。



まるで自慢話でもするかのように……







「やあ、スティッチ。相変わらずHandsome(ハンサム)だな。今日も彼女とDate(デート)かい?」


「茶化すなよ、BJ。可笑しいかい?」


「可笑しいなんて思っちゃいないさ。寧ろ君らしいよ」



スティッチとクレアの急接近は、College(大学)の間でもちょっとした逸話であった。


クレアが放課後のCampus(キャンパス)で、一人スティッチを待っていると、幾人もの生徒が彼女を横目に通り過ぎて行った。


その“目”の色の様々をクレアは楽しんでいた。


冷やかしの目。


興味の目。


好奇の目。


そして嫉妬の目……





スティッチと分かち合う深い闇と快感の行為。


それがクレアには何にも代え難い“優越感”であり“鎧”になって彼女を護っていた。


後々、College(大学)卒業後も続く、この“優越”と“快感”は、彼女がスティッチのPartner(パートナー)であり続ける証なのだ。


クレアはただ、スティッチの為に“存在”する。




“存在”する『存在』。







生まれてからの悲壮感と劣等感。


受けてきた様々な侮辱。


“Mely”と呼ばれた自分。


Rape(レイプ)事件の屈辱。


ノーラと云う親友。


幼稚な復讐の全て。



自分の全てをスティッチに話したあの夜、スティッチはノーラにこう言った。


「俺の為に力を貸してほしいんだ」


「何だってするわ、スティッチ。アナタの為なら……アナタが望むなら何だって。私が必要なのね。」




「ああ……You are needed.(必要だ)」





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