序章
本作には性的な表現、暴力的な表現が含まれます。
趣旨は別に存在しますが、不快感を感じる恐れがある方は読書をお控え下さい。
序章 『真崎の任』
哀願する声はただのうめきでしかない。
辛うじて涙を流しているのはわかる。
事が実行されると共に、そのうめきは低温を強め、響く様にこだました後は嗚咽に変わるのだ。
その男の“男”である部分が床に転がり、弱々しく縮んでいた。
真崎は男の“それ”を、根本から3cm離れた所で切断したのだ。
無論医師による処置は施される訳だが、彼の役割は『絶つ』事にある。
どれだけ治癒力が活発に機能し、細胞が再生しても、僅かに残る根本意外は“無い”状態にする事にも意味がある。
男である事と、処されたという事を忘れさせない為だ。
真崎はいつも思う。
自分は生き方を間違えたと……。
“隔離”された部屋の場所の存在は、受刑確定者ですら知る由もなかった。
国家機密としては上位に位置するこの小部屋が、真崎にとっての“仕事場”である。
真崎自身は、この部屋の秘密よりも更に上位に位置する最高機密の存在すらも認知している。
一度自らの“目”で垣間見た事があるのである。
受刑確定者達は、存在を知らない事が唯一の救いではないかと真崎は思っていた。
羨ましくもあるが、存在を知る彼が他言する事はもちろんない。
機密とはそう云う物である。
真崎に今夜も眠れない夜が訪れる。
彼は耳を手で覆いながら、小さくうずくまった。




