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9月のお役目

作者: 暴走紅茶

私の家、長野県の山奥にある神取家には少し変わった稼業がある。その稼業は、毎年9月を越えると始動する。9月――秋初め(あきぞめ)の季節、まだまだ青々とした木々が目立つこの季節に、到来し始めるある魔神を狩る事が、私の家の業。

 今年は少し早かった9月の20日。中秋の名月が過ぎて直ぐの日だった。今週の初めから降り続いていた雨がどんどんと酷くなった。ニュースの気象予報コーナーに出てくる女子アナウンサーが、なんだかいつもよりも解説に熱が入れている様に感じるのは気のせいか。

 その為に今年は早めに我が家に伝わる、最も重要な儀式、『鞘祓い(さやばらい)の儀』が行われた。ヤツが来ると分かった9月20日の黄昏時たそがれどき、マジックアワーとも呼ばれる逢魔ヶおうまがときに儀式は行われる。この時間が一番、地を這う霊脈れいみゃくが活性化し、大気中に漂う霊気の濃度が高くなるため、この時間が選ばれるのだという。まあ、私も今年からこの討伐作戦に参加するのだし、まだ余り詳しくはないのだが。

 神取家の人間は、18歳を越えると、ヤツの討伐義務が課せられる。これは国からも補助金が下りる、公的な行いなのだ。私も5月に晴れて18歳になった事で、この儀式に参加し、討伐のメンバーに加えられる事になった。このお役目から逃れるには、何処かへ嫁ぐしかない。つまり、万年独り身だと、ずっと長野の山奥で、毎年毎年ヤツに剣の切っ先を向けなくてはならないのだ。そんな時代遅れな事、ごめんである。願わくば、私の王子様よ。私を助けてはくれないか。いやいやそんなことより、いまは儀式に集中しなくては。でも、ふぁあああ眠い。

 儀式の内容としては、大して難しいものでもない。正装である狩衣を着て、伝家の宝刀。文字通り、我が家に先祖代々伝わる剣を受け取るというだけのもの。それも、受け取るのは2歳年上の兄ちゃんだから、私なんて、隣に並んで頭を垂れるだけ。18歳を越えたら参加しなくてはならないという事を裏付ける為だけに、人数合わせの為だけに、それだけの為に参列させられているとしか思えない。

 午後5時に始まったこの儀式も、午後6時半を回ったころからすっかりと暗くなってきた。秋の日はつるべ落としと言うが、もう、そんなに日が短くなって居たのか。暗くなると、かがり火が焚かれ始める。かがり火に照らされてみんなの顔が、いつもよりもオレンジ色に見える。流石に火にあぶられていると、熱い。じっとりと汗をかいているのが、分かる。この儀式を取り仕切っているお爺ちゃんの祝詞も、あと4分の1といったところか。早く終わらないかな……。

 結局終わったのは、午後7時を回った頃だった。やること自体は大して大変でも無いのだが、祝詞が長いし、剣を受け取った後の剣舞も長い。もっと素早く振り回せばいいのに。まどろっこしく、一挙一動をもったりと動かすことに何のメリットがあるというのか。ただただ見せられているこっちにはデメリットしかない。きっとこれを捧げられている神様も、そう思っているに違いない。

 それに、こういう儀式がある日は決まって精進料理だ。肉、肉が食べたい。育ち盛りの女子高生は肉が食いたいんだ。タンパク質をよこせ! どこを見ても、野菜、野菜、豆、豆、野菜。堪え忍んだご褒美がこれとは、なかなかにどうして、宗教というものはストイックに出来ている。凄いとは思うけど、自分に降ってくるとなると話は変わってくる。

 自室に戻り、ベッドに転がり込む。窓から見える景色は、儀式が終わって直ぐに降ってきた雨の水滴に邪魔されて、上手く見渡すことが出来ない。こんな大雨の中ヤツと戦うなんて、嫌すぎる。ウォータープルーフも負けそうだ。

 

 とうとう9月の25日、ゆっくりと北上してきたヤツがこの長野の山奥近くまでやって来た。

 ヤツ――一般人からは『台風』と呼ばれる魔神『台頭する風魔』は、古くの昔から、日本を襲ってきた。古来の日本では『野分』とも呼ばれていたヤツは本当に懲りずに何度もやって来る。完全に討伐する事は無理に等しいので、日本から遠ざける事を目的に作戦が練られる。というのも、なにぶんヤツはデカい。デカすぎる。デカすぎて目しか見えない。一般人が台風の目と呼んでいるのがヤツの目であり、弱点なのだ。私ですら、18年、討伐作戦を遠目に見てきた私でさえ、ヤツの全貌を目の当たりにしたことはない。それほどまでにヤツはデカいのだ。それに、風雨を連れてくる。それがヤツ最大の攻撃であり、私達からしても一番やっかいな攻撃なのだ。

 だが、この山で日本から遠ざけなければ、この山は最後の砦なのだ。

「おーーい! 桜子!! 出立の時間だぞ~~」

お父さんが呼んでいる。行かなくちゃ。化粧は諦めた。今日はすっぴんぴんだ。どすっぴん。友達にも彼氏にも会えない。会いたくない。そもそも彼氏居ないけど。

 時代錯誤な狩衣。だが、防水加工済み。という、なんだか良く分からない格好をした一軍が、ワゴン車に乗り、山の頂上にある祭壇へ向かう。祭壇へ向かう前に、その手前に構えている神社で参拝をすます。だが、さらにその前に神社へ入るために禊ぎを行わなければならない。それは、昔ながらの水を被るという方法だが、雨が降っているのにも関わらず、更に濡れるという行為がそもそも理解出来ない。わざわざ狩衣まで防水加工している意味はどこにあるというのだろうか。こういった、時代に合わせているのか、昔ながらの方法に乗っ取っているのか分からない中途半端さが、私は許せない。

 そんなこんなをやり終え、神社に祝詞も捧げ、いざ祭壇へ向かう。実際に対峙するのは、兄ちゃんなので、私は祭壇の前で祝詞を上げる係りだ。流石にここまで来てしまっては、だだをこねてても始まらない。私は一心不乱に祝詞を上げる。風雨の魔神、『水気』の魔神なので、陰陽五行説いんようごぎょうせつに乗っ取り、相生そうしょうの関係にある『木気』の装備に身を包んだ兄ちゃんが、兄ちゃんだけ受けてる呪術訓練に従い、宙に浮き、ヤツの目に向かって行く。

 数時間に及んだ戦闘の後、ヤツが後退を始めた。今回も無事に事なきを得たのだ。もし、ここで食い止められないと、どんどんヤツは勢力を増していき、日本列島から遠ざかろうとせず、更なる被害を出してしまう。ここで私達一家が食い止めない事には、日本がどうなってしまうか……。考えるだけでも恐ろしい。

 帰りの車で流れるラジオのニュースキャスターが台風が日本列島から去って行った事を告げている。ほとんどの人類は私達の存在を知らない。でも、私達はこの時期、毎年毎回ヤツを、台風を討伐していく。きっと、次もその次も……私の家が絶えるときが、日本の終わりの時なのかも知れない。

 家に帰り着き、着替えを済ませ、いつもみたいにベッドに転がり込む。そして、スマートフォンのニュースアプリを開く。トップニュースは『今週末またもや台風接近か?』私はため息を禁じ得なかった。

これは何なんでしょうね。思いつきで書きました。思いつきを描きました。

きっと、こういう人が居てくれるから、日本は平穏無事なのでしょうね。

気が向いたら、ご先祖様のお話とかも書きたいな~。書かないだろうな~。

それよりも何よりも、大学を完全休校にさせられない台風など来るな!

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