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雨はいつか止んで、優しさが世界を包む  作者: 佐田やすひ
第1章
6/34

girl

小さい頃から、本当の私はいなかった。

いや、自分の中に引っ込めていた。

最後に出したのはいつだったか、もう覚えていない。

他人の言うことに従順で、ある程度話を合わせたら、みんなには構ってもらえた。

でもそんなのどうでもよかった。

中学に入るとみんな恋愛やおしゃれ、成績などと、めんどくさいことに興味を持ち始めた。

私もやらないと舐められるから、全部やった。

テキトーな人気のある男子とトモダチになって、テキトーに仲良くなって、テキトーに服買って、テキトーに遊んで、テキトーに勉強して、テキトーに頑張って学年一位とって・・・

アホらし・・・

男もつまんなかったし、女もつまんなかったし、服もどーでもよかったし、勉強も簡単すぎた。

つまんないつまんないつまんない・・・


んあっ


今授業中?

・・・寝てたか・・・

周りを見て、今の授業の範囲を確認する。

なんだ、まだここか・・・

もう一眠りしようか・・・


ん?


視界の端に、冴えない男子が映る。

その男子は、一心不乱に机に落書きしていた。

・・・確か菊池大樹。

部活は吹奏楽部で、成績とルックスと身長は中の上だったっけ。

数分後にチャイムが鳴るまで、ぼーっと菊池を見ていた。


「なにかいてるの?」

無意識に話しかけていた。

「えっ・・・」

・・・つまんな・・・・・

あくびをしそうになりながら、席に戻る。

「ねえねえ千夏ー菊池なんかに興味あんのー?」

聞こえる声で言うなっての・・・

「ううん?ちょっと気になっただけー。」




中学最後の夏に、爆発して、妄想世界に入った。

思いっきり街を駆けた。

その街には私だけがいて、私の思い通りに全てがなった。

こんな気分になったの、何年ぶりだろう。

気持ちいい。

空も飛べる。

鳥になれる。

いつでも食べられる。

なんでも出せる。

いつでも寝られる。

猫になれる。

できる。

なれる。

いける。


「あ、千夏ばっかずるい〜。」

はっ?

「千夏ー俺らと遊ぼうぜー」

誰だよお前ら。

「千夏じゃーん?」

消えろ。

「千夏ー」「千夏ー」「千夏ー」「千夏ー」「千夏ー」「千夏ー」「千夏ー」「千夏ー」

「千夏ー」「千夏ー」「千夏ー」「千夏ー」




「消えろって言ってんだろーーーーーー!!!!!!」




私は逃げた。

いつの間にか飛べなくなっていた。

走ることしか出来なかった。

何にもわからなかった。


消えたくなった。




また朝が来た。


はぁーねむだる。

寝返りを打とうとすると、体に激痛が走った。

う!?体痛ったー・・・

そーだ、昨日、ドラゴンから逃げ回ったんだった。

え?いや一昨日か?

あ、妄想世界に一晩中いただけだから、結局昨日かー。


なんとか寝返りをうつと、そこにはどアップの猫の顔があった。

「ンだおら?」

俺は、猫に向かってガンを飛ばす。

「ふあぁぁ」

猫はもの凄いあくびをしながら、前足を前に出した。

伸びてきた前足から出てきた鋭い爪が、俺のデコに刺さる。


しばらく猫とニャゴついていると、母親が部屋に入ってきた。


「ちゃんと樹くんにお礼言っときなさいよ。」

「何が?」

「あんた昨日、いつきくんにおぶわれて帰って来たのよ?自転車も漕いできてくれたの。覚えてないの?」

「マジで?」

「一日中ぐーたらしてると思ったら、夜中におんぶされて帰ってくんだもんね、ほんと訳わかんないわー」

そ、そうか。

あの後あいつにおぶわれて帰って来たのか。

「ちゃんとお礼言っときなさいよ!」

「へいへい。」

クソネミィ〜

俺はスマホを取ると、あいつにお礼の電話を入れようとした。

しかしよくよく考えると、あいつの膝蹴りでおあいこだな、うん。

電話するのはやめて、代わりにメールすることにした。

すると、樹から一通のメールが来ていた。

メールにはいくつかのURLが貼られていた。

一つ目のURLを開く。


そのサイトは樹の言っていた妄想空間に関する掲示板で、樹の言っていた以外にもいろいろな情報が並んでいた。

どうやら妄想空間を作り出せるのは一万人に一人くらいで、そのうち寄生型は1%ほどしかいないらしい(どうやって統計とったんだろ・・・)。

ちなみに、そういう人は結構昔からいたらしく、昔はただ単にちょっとおかしい人みたいにいわれていたそうだ。

寄生型は非常に厄介で、所構わず他人の空間に入ってしまうらしい。

人の多いところでは特にひどいらしく、一日に十回以上入ってしまったという声もあった。

他人の空間では他人の妄想が現実になるので、寄生型からすると苦痛であることがほとんどだとか。

しかも寄生型は妄想力なるものが弱く、人の空間に深く干渉できないらしい。

まあ確かに、片桐の空間では一晩中ドラゴンと追いかけっこだったもんなあ。

ところがどっこい、対する自発型は、個人差はあれども好きな時に好きな空間をつくったりできるらしいぞ!?

自発型の大半は妄想空間ですきなことヤりほうだいしてるとか言ってやがる。

こんなの差別だ。

俺だって妄想空間作りたい。

授業中とか暇な時、妄想しまくりたい!

片桐とアンなことやこんなことしたい!

ん?!なになに?

寄生型も何年かすれば自発型になれることが多い?!

何年かって何年だよ!

俺はいつになったら一人前になれるんだよ!!

いつになったら童貞卒業できんだよ!!!


ブー


ああ!?

おお樹か。

「あーもしもし?」

「おお、目ぇ覚めたか。」

「お陰様でグッスリだったよ。」

「そりゃよかったな。それより」ああ、こいつ気付いてないな。

「俺の送った掲示板、見たか?」

「おお。悲劇的だったぜ。」

「そりゃよかったな。まあ、俺は自発型なんだけどな。」

「・・・切っていい?」

「や待て。これは掲示板にも乗ってなかったんだけどな、忠告なんだけど・・・」

「なんだよ。」

「妄想空間で、人殺しがあった、らしい。」

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