bad morning
また朝が来た。
いつの間にか空が白んで、ドラゴンは消えていた。
ドラゴンの入ってこれない路地裏に逃げ込んだり、公園の遊具の中に隠れたり、見つかってケツをバーニングされたりと、おっかなびっくりなドラゴンとの死闘(笑)を一晩中繰り広げた俺は、ふらふら街を漂っていた。
今歩いてる道は国道のはずなのに、チャリ一台どころか車一台ともすれ違わない。
そこに片桐千夏が立っている。
まっすぐな姿勢で空を見上げていた。
その顔はなんだか・・・
「満足そうだな。」
「そうね・・・・・・やっと走り終えた・・・。」上を見たまま、彼女は聞こえずらい小さな声で呟いた。
「お前、もしかしてここに来るの初めてじゃない?」
「そうよ。」
「何回目?」
「何回目だろ・・・」
・・・
「あのドラゴン、なんなの?」
「ドラゴン?」
「え?うん。だからさっきのやつ。」
「・・・そう、そう見えたの・・・」
・・・
「お前って片桐だよな。」
「そうね。」
「夢じゃないよな。」
「そうみたいね。」
「さっき裏切ったよな。」
・・・
おい、なんか言え。
「・・・囮にしただけよ。」
「裏切ったんじゃねえか。」
「仲間になった覚えないわ。」
「だとしても囮はないだろ。」
「ごめんなさい。」せめてこっちを向いて謝れ。
「この世界って、なんなの?」
「わからない。」
「そういえば外はどうなってんだろ。」
「時間がゆっくり流れてう・・・」
「え?」
「外では、ゆっくいいかんあなあれてるの。」彼女は壮大なあくびをこきながら答える。女子力~
「え、じゃあ、、、てどういうことだ。」
「今から外に出ても、ほとんど何も変わってないの。」
「あ、え、じゃあ・・・どんぐらいゆっくりなの?」
「ゆっくりよ、すごく。」
ピカッ
ついに東の空に太陽が顔を出し始め、眩いばかりのその光に、俺たちは目を細めた。
「・・・もしかして、この世界、お前が作ったりした?」
「なわけ・・・いや、そうかも・・・」
「ハァ?お前マジか。」
「思いっきり走りたくなったら、ここにいつもいるの。」彼女は顔を背ける。
「でもいつも・・・・・」
いきなり片桐は仰向けに倒れた。
片桐のまるい頭がそのままの勢いでコンクリートに打ち付けられる。
と思ったら彼女の頭は透明になった地面をすり抜けて、そのまま落ちていった。
俺も落ちていった。
片桐の体は小さな泡をたてて、このせかいにとけていった。
あ、あいつに会いに行くの、忘れてた。
「んう?」
気付いたら、俺は駅の前にいた。
・・・駅だ。やったー駅だ。
・・・・・なんでだろう。全然嬉しくない。
グラリ ガシャァ
いきなり視界が傾いたのと、全身の力が抜けたのとで、俺はひどく驚いた。
どうやら自転車ごとこけていたようだ。
無理もない。
一晩中走っていたんだから。
そういえばなんだか暗いなあ。
空を見上げるとそこには満月があった。
お?
たしかさっき、ドラゴンに追いかけられて、片桐と夜明けを拝んだはずなんだけど・・・
『今から外に出てもほとんど何も変わってないの。』
あ。
唐突に今から友達に会いに行くのがめんどくさくなって、俺はスマホをポケットから取り出すと、
あれ?
スマホ、直ってんじゃん。
あ!そういやロードレーサーも!
よかった~
ていうか、さっきまでのなんだったんだ?
夢?
「違うと思う」
!?
俺の背後から声をかけたのは、小さな女の子だった。
だ、誰?
「わたし、ひかりー」
!?
な、なんだこの子。
「ひかりー。」
聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてきた。
「ひかりーどこだー。」
「まーだだよー」
「えー?どこだってー?」
「もーいーよー」
「そこか!」
「あ。」
いきなり登場したのは、俺を呼び出したあいつだった。