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雨はいつか止んで、優しさが世界を包む  作者: 佐田やすひ
第1章
3/34

run

片桐千夏


黒髪ロング、美人、スタイル抜群。

間違いなく片思いだっただろう。

クラスではほとんど喋ったこともなかったし、共通点がなかった。

一度だけ、休み時間に机に落書きしていた時に「なにかいてるの?」と話しかけられたことがあった。

あがり症な俺は何も言い返せず、会話(?)が終了したという苦い思い出がある。

部活は陸上部で、県大会で準優勝して朝礼で表彰されていたのをよく覚えている。


そう、あいつは陸上部だった。

だから、俺が足で敵うわけなかった。

「おい!・・・・・ちょっ・・・待てよ!」

真っ暗な道を独り疾走する彼女を、俺は追いかけていた。

真っ暗な道をズンズン激走するドラゴンに、俺は追いかけられていた。

前方には初恋の人、背後にはドラゴン。

こんな状況を何というのだろう。

夢?夢だよな。夢であってほしい。


ズドン!!!


いや夢でもドラゴンに潰されたくない!

それに夢でもいいからあいつの顔がもう一度見たい。

しかしいくら呼びかけても片桐は振り向かないし、ドラゴンは俺より足が速いらしく近づいてくるのが耳で分かる。

どうしたらあいつは振り向く?

どうしたらドラゴンから逃げられる?


ズグ


肺がつぶれた。そう思った。

俺の心肺は早くも限界を迎えたらしく、みるみるうちに失速していった。

足が前に出ない。

ああ、俺の部屋が恋しい。

あの一日中やることもなくベットで寝られる、あの部屋が恋しい。

こんな生活をしてられるのも春休みの間だけだとか思ってたのにな。。。

・・・なんで俺こんなことになってんだっけ・・・

たしかあいつに呼ばれて家を出て、道に迷って・・・・・!!


「じ、自転車!」

片桐はまだ振り返らない。

「自転車があ・・・あるんだよ!!」

片桐はやっと振り向いた。

そして止まった。

こちらをじっと見つめている。

どうやら俺を待っているようだ。

しかし、すでに蚊が飛ぶぐらいのスピードにまで減速した俺を見かねて、こっちに走ってきた。

最初はリカちゃん人形ぐらいの大きさに見える距離にいた彼女は、あっという間に原寸大になった。

「自転車は!?」

「え?」

「自転車はどこって!」

第一声がそれかよ・・・

「そ、そこ曲がったとこ。」

彼女は一瞬で教えた路地に入っていった。

俺もその路地に入


ボォン


そこには木端微塵になった俺の(というか兄貴の)ロードレーサーが煙を上げて散らばっていた。

泣きたくなった。


ズシン


見上げると、そこら辺の民家なんかより3倍は背の高いドラゴンが口を開けたドヤ顔で俺を見ていた。

どうやらドラゴンの吐いた火球が俺のロードレーサーを焼いたらしい。

あまりのショックにドラゴンと一緒に口を開けて唖然とする俺をよそに、片桐は全力疾走でその場を離れていく。

あんのヤロォ・・・

間違いなく片桐には微塵の責任もないのだが、俺は片桐のせいにして、奴の後を追いかけた。


火事場の馬鹿力というのは本当にあるらしい。

30秒後には、俺は片桐の手を掴み、動きを止めていた。

「離してよ!」彼女は叫ぶ。

「やだね!」俺も叫ぶ。

「ハァ!?」

「お前さっきからなんなんだよ!この世界も!」

「私だって知らないわよあんなの!」

「じゃあなんでさっきから俺から逃げんだよ!」我ながらきもいセリフだなぁ。

「いいから離して!追いつかれる!」

「いやだっつってんだろ!」

「っ・・・。。。私、あれの倒し方を知ってるの。」

「は?」

「この先にそのための武器があるの。」

「は?」

「っ私のほうが足速いでしょ!?だからあなたはここでまってて!」

「は?」


バシッ


しまった!!

片桐は俺の手を振りほどくと、見事なスタンディングスタートを決め、俺の前から消えた。

どうすんだよ・・・


ズシン


どうするもくそもない。

俺は片桐の言っていたことにほんの少し期待しながら、いつの間にかすっかり夜になった街を走り回った。

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