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雨はいつか止んで、優しさが世界を包む  作者: 佐田やすひ
第1章
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sister2

小さいころから男たらしで、高校に入るころには5人は彼氏がいた。

そんな姉だったから、はずれを引くことも多かった。

ストーカーや暴力なんてしょっちゅうだったし、警察から電話が来ていってみれば、酔い潰れて交番で寝ていたことも数回あった。

本当に身勝手な奴で、家にいることはほとんどなかった。

それでも夏休みには家族で遊園地やプールに行ったりした。

高校を卒業して就職してからも男遊びは続いて、というよりエスカレートしていった。


ある日、姉貴は家から出なくなった。

飯もろくに食べなくなって、口数も減った。

何があったのか聞いても「なんでもない」とか答えるだけで、絶対に理由は明かさなかった。

みるみるうちに姉貴は痩せていった。

目を閉じてボーッとしているときもあれば、独りで泣いていることもあった。

そんな日が続いて、やっと暖かくなってきたある日、姉貴は俺に呟いた。


「樹。」

「なに?」

「また、プールいけるといいね。」

「また夏に行けるだろ?」

「そだね」




次の日、姉貴は死んだ。

自分の部屋で、猫みたいに小さく丸まって死んだ。

全く何も考えられないままの俺を置いて、周りはいそいそと進んで行って、気が付けばお通夜の席にいた。

姉貴はなんだかほっとしたように眠っていて、悔しかった。


その夜はなかなか寝付けず、姉貴のことばかり考えていた。

死ぬ前の晩、あいつは「プールにいけるといいね」と言っていた。

自分が死ぬのをわかっていたのか。

なんで何も言ってくれなかったんだ。

いきなり死ぬことなんてないだろ。

あのバカ。


目を閉じればどうしても思い出してしまう。

あのプールには、二度といけないのか。

あの遊園地には。

レストランには。

ホテルには。

海には。




気が付けば、俺は遊園地にいた。

誰もいない遊園地。

姉貴が向こうから走ってくる。


「次あれ乗ろ!」

「え?」

「身長もういけるんでしょ!?はやく!」


いつの間にか俺は子供に戻って、遊園地を走っていた。

自分でも訳が分からないまま、姉貴に連れまわされて、気付けば朝になっていた。


分かったことは、夢ではないことと、現実でもないことだ。

俺はもう子供ではないし、姉貴はあんなに優しくない。


葬式の間も、姉貴のことを考えてるうちに別世界に行っていた。

そこは海で、俺は姉貴の後を泳いでいた。

姉貴は泳ぐのが速くて、俺は全然ついていけない。

俺がいくら叫んでも姉貴はどこまでもどこまでも先へ行ってしまう。

ついに姉貴が見えなくなってしまったとき、俺は泳ぐのがばからしくなって、止まった。

俺は思い出が映る海面を眺めながら、海の底へ沈んでいった。



目を開けると、俺の前には一人の男がいた。


「す、好きだったんだ。それだけだったんだよ・・・・・」

男は言い訳がましくそんなことを言った。

「俺じゃない。。。俺のせいじゃない。。。」


葬式が終わってからすぐ、俺も知っている姉貴の友達が話しかけてきた。

「あの・・・お姉さんとは関係あるかどうか分からないけど・・・」

「はい?」

「お姉さん、前の彼氏とうまくいってなかったみたい。」

「そうですか・・・」

「あ、ごめんね、こんなこと・・・」


それから何日かたった日、姉貴の部屋の片づけをしていた時に、姉貴のスマホが転がっているのに気が付いた。

なんとなく電源を入れて中を覗いてみると(ロックはかかっていなかった)、何十件もラインが来ていた。

それも一人から。

ラインの内容はひどいものだった。

「お前をいつも見ている。」

「また会おうよ。」

「俺たち、まだ終わってないだろ?」

「返信しろよ。」

「おい!!」

「今日もまた会いに行くから。」

「お前なんでそんなにあそこで冷たいんだよ。」


そして、葬式の日の二日前に、そのメッセージは来ていた。


「殺してやる。」


俺は葬式で話した姉貴の友達に連絡してその男の住所や連絡先を聞き出した。

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