燕を殺した話
「紫の兎」
友人と別れてから、川沿いの公道を沿って帰路へつく。国道の橋の下は心なしか排気ガスの匂いがして不快だ。
アスファルトに鳥の糞が沢山なのは、おそらく橋の内側に鳥の巣が多いからだろう。
自転車のチェーンが、渇いた音を三つ巻きながら、僕は帰り道を走っていた。
今日は友人の家の前でボール遊びをして、夕暮れに気付いた僕らは彼に別れを告げて、三人で帰る。いつものことだ。
けれども、今日はたまたまに、橋の下にあるものを見つけたのだ。
燕だ。
巣から落ちたのだろうか。
その日、友人と話し合って、燕は僕が保護することになった。
○
段ボールの鳥籠に囚われ久しく、今日もその燕は鳴いた。
餌は食べぬし、弱々しい。
もう、どうすればいいかわからない。
撫でてみたこともあった。柔らかな羽毛は気持ちよくて、骨格がとても小さく、何としても守らねばと思った。そう、強く誓った。
友人達も幾度かこのことを聞いた。
解決策は一向に出ない。
勿論、親も協力してくれた。
夜になればリビングの灯りでストレスを与えぬよう蓋もした。
だが、やがて鳴き声は枯れゆく。もはや、鳴けぬ程に弱っていた。
そして、ある朝。
段ボールの蓋を開け、陽の光で狭苦しい箱庭を照らす。
燕は眠っていた。
起きる気配は一切ない。
また起きることもなかった。
眠るように眠る様は、悲しかったけれど、同時に美しいとも思えた僕は、狂っていたのかもしれない。
燕は裏庭に埋めた。
手にとった大きな石を墓標にして、土の中の彼、あるいは彼女の来世が幸運であることを祈った。
どうして死んだのだろうか。
僕は間違ったことをしたのだろうか。
あとで、・・・わかったことなのだが。
燕は飛び方を覚えるために、当然巣から飛び立つ。結果としての墜落は自然だ。そうやって飛び方を覚えていく。
僕は、たまたまそこに通りかかって保護してしまったのだ。
・・・いや、醜い詭弁はよそう。
僕は燕を誘拐しただけだ。
僕はただ、燕を救おうとしただけなのにな。
善意によって悪が為されてしまった。笑える話である。
僕は正義を行ったつもりだった。
僕は無知であった。
無知は罪なのだろうか。
いや、関係ないだろう。
これは単純な僕だけの罪だ。
たしかこれは、小学校六年生の梅雨頃だったと思う。
僕は、燕を殺した。