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色に酔いそうなのね

 白い巨体を直接さわってみたい。

 でも踏み潰されないか不安だわ。

 テンション高めのわたしを今だけ封印して控えめに挨拶しちゃった。


「ドラゴンさん、おこんにちは」


 グルルゥと唸っている。

 瞳を閉じて、頭を擦りつけてくれる。

 

「あのね、あなたには感謝してます。助けてくれてありがとう」


 グルグルと喉を鳴らして甘えてくれる。

 ドラゴンさんとフレンドリーになれるなんてある意味貴重。


「そういえばドラゴンさんの寝床って、最奥の部屋だったんじゃなかったかな? お部屋を潰させて悪かったわ……」


 ドラゴンと言えば光り物を趣味で集めてるんじゃなかったっけ。

 一生懸命収集していたものを、ブレスで部屋ごと潰してしまったからにはもう二度と日の目を拝むことができないわけで。

 私は、私のためだけにドラゴンさんに攻撃をけしかけてしまった。


「ご、ごめんなさい、ドラゴンさん!」

 

 巨体にすり、と頬を寄せて何度も謝る。

 洞窟から採取できる鉱石ではどうだろう。

 エメラルド色に光る光物が沢山取れるんじゃないだろうか。そのことを告げると、顔を横に振って頭を地面にのしつけた。長くて大きい舌で顔をべろりと舐められる。

 

「ド、ドラゴンさん」

「グルルゥーン」


 ぽすぽすと尻尾を叩かれ、こちらに来いと誘導された。

 この場所は居心地よすぎる。


「ね、ドラゴンさんの名前を教えて」


 首を傾げるドラゴンさんに、私はピンときた。


「私が名前つけてもいいのかな」


 グルルゥーンと鳴いてくれるので、ルシエルと名付けてみた。

 気に入ってもらえたようで、喉をゴロゴロと鳴らしてくれる。


「あはは、ルシエルってばくすぐったいよ」


 洞窟の私が人化できるのだから、アークドラゴンで高潔な存在のルシエルだって人化できるだろう。でも私はそれを強要したりしない。ドラゴン状態のルシエルが、わたしは大好きだからね。


 うん、しばらく片瀬亜紀の状態でもぜんぜん構わないや。

 勇者や冒険者らが来た時に、洞窟化すればオッケてことで。



***



「ルッシー、こう?」

「我に跨ったまま魔力を練るな」


 馬乗りになって対面してるからって、悪女のイメージをつけないでくれ。じゃれてるだけだよ。


「女の私に魅力ないって言ったのはルッシーだよ。問題なんてナッシング」

「ご馳走が目の前にぶら下がっている状態で喰らわぬように、自制させていただけだ。本当ならむしゃぶりついてる」


 人差し指で胸元をつつかれた。

 平手を繰り出そうにも避けられる。


「なにすんのよ!」

「小ぶりな果実もまた甘かろう。瑞々しく張りのある肌に華を散らすのも男の性よ」

「人並みにはある……って、んぅっ!」


 首筋にちくりと痛みが走る。

 噛まれた、じゃなくて吸い付かれただとう。


 ルッシーに魔法を教えてもらってなんだけど実践してみるか。

 自己防衛だと主張すれば私に非はない……はず。

 

「~~変態ドラゴンめ、ヴァッファロウ!」


 三原色からマゼンタを選択。

 ヒトにはそれぞれ魔力の色があらかじめ決められている。

 わたしは洞窟性質だから土色にちなんだ色が私の持ち味だ。

 闘牛のように、真っすぐ降り注ぐ赤い矢をヴァッファロウと命名。

 赤紫色の剛速弓がルッシーを襲う前に掴まれた。


「はれ?」

「我もまた色の三原色を扱える。勇者と同じく、すべての魔法を吸収しえるだろう」 


 バッファロウはぐにゃりと崩れ、ルッシーの手の中に吸い込まれる。


「ルッシーと勇者ずるい! わたしも、わたしも~!」


 魔力がただ漏れの人差し指を口に含まれた。

 ルッシーはやることエロすぎだ。

 まだだ、ときめいちゃいけない。


「勇者は全ての色を捏ねて精製し、不必要な色を抜いて魔法を多用している。高度な魔法はアキには無理だ。繊細さに欠けている」

「ニャンだと~」

「己の矢を見てみろ、穴だらけではないか。これなら勇者の体にキズ一つもつけられぬだろう。もちろん我にもな」

「説教しながらキスするな、女たらしのルッシーめ!」


 言葉の重みにショックを受ける。

 そうだよ、あのアホ勇者は魔法云々の前にスキルで勝負してきたんだった。

 片瀬亜紀で同じ土俵に立てないことくらい分かりつつあることなのに、どうにも諦めきれなくて。


「うえ~ん、そりゃないよ。私は弱っちいだけじゃん」

「男に黙って守られている存在ではだめなのか?」


 ルッシーの切ない声にわたしは反応が遅れる。

 平常心を保たなければ、ルッシーに頂かれてしまう。

 

「せっかく魔物になったんだもん。私だって強くなりたいよ~」


 ふむ、と考える仕草をするルッシー。

 そして唐突に言った。


「アキ、洞窟レベルを上げてみるか」

「何言ってんの」

「だからレベル」


 今まで魔物を食べてきた私からしてみれば、たかが知れている。

 返事できずに唸っていると、ぐしゃりと頭を撫でられた。


「他の洞窟を取り込め」

「はぁ?」

「腹が減っているんだろう? 魔物を食べても食べても、アキの腹が満たされないのはその為だ」

「わたしは……」


 図星をつかれて狼狽えた。


「どうしたら、いいの」

「洞窟から出れないといったな」

「そーだよ。私は洞窟から出れない……と思う。出たいって思えないの。引きこもりですみませんね」

「ならば、そのまま移動しろ」 


 洞窟化した状態で動けってか。


「んな奇天烈なことできるわけないでしょ」

「近場から取り込んでいけばいい。レベルが上がるとアキにしかできないことがあるかもしれない」


 やってみる価値はある。

 時間は無限にあるし、私は動くことを覚えた。

 朝日が昇ると同時に、森林に囲まれていた洞窟に異変が起きる。

 洞窟付近の土地がぽっかかりと穴の開いた状態で見つかった。






***



「これはあれだよ、わたしって幻の大地となるやも! あのちーへいせーん~」

「知らぬ歌だが、音程が狂っているような気がするのは気のせいか?」

「き、気のせいです。ルッシーてば音感良いんだ」

「我は普通だ……そうそう、アキが音痴でも我は気にしない。感度良ければすべてよし」

「むっ! ルッシーのすけべ」


 わたし浮いてる!

 こんな巨大な洞窟をよくもまぁ、浮遊させられるわ。ルッシー何者?


「あと、幻の大地じゃなくて洞窟だ」

「どっちでもいいよ! んで、ぷかぷか浮いて私にどーしろっての」


 洞窟化のまま、着の身着のまま浮遊する。

 浮遊化のスキルはをルッシーが使ってくれていた。

 出世払いで借りを返したいというと、ツガイになってくれたら構わないと言ってくれたけど。


 流されるには早すぎる。

 というわけで保留していただいた。


「我は長命だが、ツガイのことになると悠長に待ってはいられぬ。そこのところ肝に銘じてくれ」


 壁にすりすり頬ずりされた箇所がぞわぞわする!


「あー、はいはい分かりましたよ。ねぇ、適当な洞窟なんてそんなにあるかな?」


 ルッシーはくあ、と欠伸をしながら翼をたたむ。


「慌てるな。大小合わせて1000カ所にも及ぶ。海底に潜む洞窟などもあり、そこは難儀するが洞窟レベルの上がったアキなら余裕だろう」

「マジで~~!ま、ままさかとは思うけど」

「なんだ」

「ラピュタとかいう天空城なんてのも!」

「天空洞窟に行くには高度が足りん。我にもそこまでの力はないので諦めろ」

「はぁ……? 何で! わたしそんなに重くないもん!」


 洞窟だけど。


「三原色二つ分の魔力が必要」

「それってつまり?」

「我と勇者が揃わねば天空洞窟には行けぬ」

「あはは、無茶ぶりだね~~。スルースルー」


 ルッシーのぽつりと呟いた言葉が忘れられない。

 二人の夫を持つのかと渋いたので、内部で振動を起こして嫌がらせしておいた。


 勇者とルッシーを夫に持つだと!

 体が持たんわ。

 いかれた思考は捨て去った方が得策だろう。


「んじゃま、さっそくいただきまーす!」


 アキが小さい洞窟を飲みこんだ! 

 アキの洞窟レベルが2になった!



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