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お腹が空いたのね


 あんまりたくさん食べると魔物が逃げちゃうもんだから、一度に大量に食べることはしない。この慎ましい食生活にも、いつかは終止符が打たれると良いのだけれど。


 モリモリモリ。

 ブルドックアーマーなる魔物戦士を食べたら力が付いた。

 え、なんで名称を知ってるのかって。

 食べたらステータスウィンドウなるものが見えるようになるからだ。私には無用の長物だと思っている。


 えと、それよりも今日は聞いてほしいことがある。

 人間達が力比べしにこの洞窟にやってきたっぽいよ。


 冒険者らしき男をモリモリ食べて情報を洗いざらい貪れば、こんなミッションがウィンドウに出た。

“前人未到の洞窟を踏破せよ” ミッションレベルはC。

 明らかに侮られてる。本気で悔しい。


 たぶん、この前追っ払った人間たちのせいだ。

 あそこの洞窟マジやばい~とかあることないこと言いふらしたんじゃないか。それにしてはCておかしいと思う。

 あぁもう、ほんと、人間て蟻並みよ。あんまりおいたが過ぎると全てを飲み込む蟻地獄をお見舞いしてやるんだから。

 

 酸の海と蟻地獄があれば、洞窟内に生きとし生きる全てのものは抗う術などないけどね。

 でも魔法を使われると厄介か。

 勇者とやらが使った移動系の魔法を使われると、私には手出しができないからねぇ。


 ふーむ。

 危険を感じた人間に外から爆破されるとしんどい。

 入り口破壊で私的にはどうかといえば、新たな食糧エサが入ってくれないと飢餓に陥る羽目になる。


 あれから数日たったし、怒気も幾分かマシになったのに。

 人間て奴らはバカばっかりだ。過去の私も人間だったのは棚に置いといてと。


 少しだけ、ほんのすこ~しだけ、彼らの茶番に付き合ってやろうか。最後に笑うのは私だけどね。

 というわけで、しばらく大人しくしていましょ。






****




「デイル、この洞窟に大人数で挑むというのは正気か」

「あぁ。どうしても攻略法が欲しい」


 俺の名はデイル・ロートン。

 先日も俺は仲間らとこの地にやってきた。

 そのときは不名誉なことに一度、命からがら逃げだすことに成功した。


 勇者でもあるこの俺が洞窟ごときに敗北――

 培った自信が粉々に砕けていくのを感じた。

 

 俺は勇者だぞ。

 負けなんて認められるか。

 なけなしのプライドを捨てて、ギルドに依頼を頼んだ。

 洞窟攻略のために人がたくさんいるのだ。


 何かあれば対処できる。

 一人が被害にあったときに、一人は先へ進めるんじゃないかという甘い考え。

 大がかりのトラップでなければ、今までそれで進めてこれた。

 

 何より俺には回復魔法と移動系の魔法が使える。

 半死の仲間を助けたのも一度や二度じゃない。

 自分の発言に多数の人が従ってくれるとわかっていたからこそ、総勢30名の冒険者をこの洞窟へと引き連れてこれた。


「暗いな。滑りやすいし、みんな注意してくれ」


 壁も足元もぬるぬるしている。

 それらを含めて注意すると、さっそく滑っている冒険者がいた。


「リーダー面して俺らに命令するな!」

「リーダーとして言ってるんじゃない。みな、慎重に進んでくれ」

「へいへい、勇者さまはこの洞窟が怖いってよ」

「ぎゃはははっ! 怖いならお家で待ってなよ~」

「貴様、デイルは勇者だぞ」

「言わせておけばいい。マークスティン、お前もこの場所の怖さを知ってるだろう」 

「まぁな」


 名もない洞窟、鍾乳洞独特の水の音と幻想的な碧色の光ゴケ。

 

 この洞窟だけは所有者のつかない特殊な場所。

 土地を保有している名ばかりの辺境伯と、周辺に住む村人はこの洞窟に恐れを抱いて中に入ることを拒んでいる。

 

 情報通り、この洞窟の最奥に辿り着いたものは誰もいないことから主を待つ無人の洞窟とまで噂された。

 洞窟の最奥に辿り着けたものこそ、この洞窟を保有する資格があり、また名を付ける権限を持つ。

 俺はどうしてもこの洞窟が欲しかった。

   

 スキルを使い、暗闇を照らす。

 碧色だけを頼りに進むのは得策ではない。

 ぬめった場所で谷底に落ち死にたくはない。

 

「おぉ、助かる」

「んじゃお先にな、坊や」


 重装備の男たちが我先にと先へ進む。 

 すると悲鳴が聞こえた。


「どうした」

「スケルトンアーマーだ」


 冒険者の成れの果て。

 骨で構成された死霊が自らの剣で襲い掛かってきた。

 他の奴らは防戦一方、しかし俺には動きが鈍く見える。


 袈裟切りすると防具が外れた。

 もともとそこまで強い守備力を持ってなかったらしい。


 二度三度と剣閃を見舞うと、数匹のスケルトンアーマーの足元を掬うことに成功した。

 あとはそれぞれが攻撃に転じる。


 ゴシャッ!


「さすがデイル。数匹相手にしても関係ねぇのな」

「マークスティンの斧さばきも中々のモノだと思うよ。一振りでクリティカルヒットなんて早々出るもんじゃない」


 田舎から出てきた一介の冒険者にしては強い。

 そして場の空気を一瞬にして読み込む能力は、戦慣れしていない俺には貴重な存在だ。


 幾ら勇者で、精霊の加護持ちだとしても、突発的な何かに遭遇すると困惑だってする。

 冷静に分析できる仲間がいるととても助かることから、マークスティンは常時パーティに入ってもらっていた。


「おいおい、スケルトンアーマーなら俺らすぐ、ゴールできんじゃない?」

「そ、そうだよな。もたもたしてられねぇ!」

「あっ、おいこら!」

 

 硬い敵なら足元を崩して集中的に攻撃する。

 俺の攻撃法を真似て冒険者らは先へ先へと潜っていく。


 最奥につくと黄金に輝く宝石類が所せましと置いてあった。

 間違いない、これは罠を仕掛けている。

 どんな罠かと問われれば皆目見当もつかないが、いま近づくのは得策ではない。

 何かの危険信号が俺の脳内に告げていた。



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