暇ではないのね
真っ暗闇のなか、私という個の意識がそこに存在している。
自らの姿をはっきりと見つめることができないけれど、否定することもできないので悲嘆もしなかった。
お腹が減ったと感じると、魔物を胃袋に収めればよい。
洞窟内にいる存在を壁に閉じ込めて揉み砕く。相手が大きくても小さくても関係ない。
武装した魔物の鎧を酸で溶かせた。
正直、とてもあり難かった。
骨は要らなかったので胃袋――というより、壁からほっぽり出す。
残りカス目当ての魔物たちにはご馳走らしい。
彼らにも少しだけおすそ分けしようかという気持ちが芽生えた。
体が鈍ったかなと感じれば背伸びをすればいい。
もれなく地震付きだけど。
怒った時は噴火しても良い。
溶岩付きだけど。
あ、一回だけ怒ったことがある。
洞窟内でヒト族の冒険者たちが、魔物達との戦いで中級クラスの魔法を放った。
魔物達は屠られた。そして私の胃袋内でもプチ戦争をおっぱじめる。
岸壁を容赦なく風の魔法で抉る。
焔が魔物を焼き付くさんとする。
もれなく私も悲鳴をあげた。
よくも私の胃袋をボコったな。
――オオオオオオオー
「なんだなんだ、この不気味な音は」
「鍾乳洞の中で風が吹きすさぶと、このような音が聴こえることもありますわ」
「おい、他にも聴こえないか。たとえば、ジュワワッていうのとか……? うわぁっ! 靴の裏が溶けてきてる」
私が下手に出てるからって、動けないからって、手も出せないからって、自分のお家を壊されて黙っていられるか。
お気に入りのモノを奪われるこの気持ちを倍返しにしてやれば、私の気持ちは落ち着くだろうか。
ほぅら、さっさと逃げないとどんどん溶けちゃうぞ~。
服だけなんてそんな生易しいこと私はしない。
魔物もそんな好きじゃないけど、あんた達はもっと嫌い。
出てけ出てけ~。
「酸の海になる前にここから脱出しましょう。勇者さま!」
「あぁ」
奇妙な魔法陣を描き、仲間たちを集めたかと思うとこの場から消え去った。
なんだったんだ彼らは。逃げるのなら最初から来るなっつーの。
ふあぁ~あ。
洞窟ライフも楽じゃないってね。
することもなくなぅたし、そろそろ体操でもしましょうかね。
おいっちに、さんし。
もにっもにっ、とな。
体を動かす感覚これ大事~。
ちゃんと動いてるのか確かめる術は……あ、地震が発生してるんだから、魔物達が揺れてるのか確かめればいいのか。