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三日で終わらす異世界転移  作者: 岸野 遙
一日目 ~旅立ち編~
8/60

1/10 00:18

 いや、今は考えるのやめておこう。うんうん、後で確認しよう。

 まずは当たり障りのない話題にしとこう。


「ひょっとしてジャルカさん、この国のお偉いさん?」

「ほう、なぜそう思うのかね?」


 なぜ……と来たか。うーん……


「この国への敬意や愛情と、魔王への不満が声にこもってる気がしたから。ですかね?」

「はっはっは、なるほどな。

 物を知らんわりに、スクネは意外とよく見ているやつじゃのう」


 なかなか愉快そうに笑うジャルカさん。

 言葉では肯定も否定もしていないが、質問の答えは態度が語っていた。


「じゃあ、わしからも一つ忠告しておいてやろうかの」

「なんでしょう?」

「魔王に『様』を付けないと、罰せられる。

 わしはそんな事であれこれ言わんが、公の場で口にすれば処罰されるから気を付けることじゃな」

「な……無茶苦茶だ」


 呼び名一つで処罰とか、一体どこの暴君だよ。

……異世界の暴君でしたね。


「そうじゃな、無茶苦茶じゃ。

 お主ら人間の国では、考えられないことじゃろう?」

「はい、もちろんで……す、よ……ね?」



……あれ?


 やべ。やばった?



「ふふん、このような魔族領奥深く、それも結界に守られた魔都の王城に人間が転移で現れるとはな。

 いやはや、長生きはしてみるものじゃて」

「あー、ははは……

 ですよねー、人間……その、えっと」

「夜間でばたばたしておったから、兵士どもも気づかなかったんじゃろうが。たるんでおるの」


 なんだか、言葉の端々から、すごーく『にやにや』って音が聞こえます!


「あのー、ジャルカさん?」

「何かな、スクネくん」

「ちなみに、もし万が一、人間がこの城に居るのが見つかったりしたら……どうなっちゃいますかねー、なんて。ははは」

「どうなっちゃうんじゃろうなー。

 わし、牢屋に捕まってる身の上だから、わかんないなー」

「ちょ、あんたいきなりそれかよ!」


 思わず立ち上がって鉄格子を掴むと、ジャルカさんの大笑いが聞こえた。


「はっはっは、からかっただけじゃ。

 わしは最初から匂いで人間じゃと分かっておったよ。じゃが、兵士らは気づかなかったようじゃな」

「で、気づかれたらどうなります?」

「陛下が穏健派とは言え、それは積極的に戦わないというだけじゃ。

 城内に突然入り込んだ不信な人間となれば、処刑するに決まっておるな」

「やっぱり、そうなるよなぁ」


 はぁ……

 全裸とか以前に、そもそも種族自体がやばかった。

 というか、人類圏じゃなく魔族領に転移させられた時点で、詰んでたってわけじゃねーか。


「こりゃ、なんとしてでも脱獄するしかないな」

「確かにここの牢は軽犯罪者用、そこまで脱獄は難しくないと思うが……人間が丸腰で、どうする気かの?」

「丸腰どころか、転移してきた時から丸裸なもんでね。

 所持品は、兵士さんがくれた毛布一枚だけだよ」


 借りてるだけだけど。いいさ、この毛布はもうオレのものだ!

 でないとフルチンりたーんずだからな!


「それに、脱獄しないと死ぬしかないんだったら、脱獄するよ」

「なるほど……確かに、それはその通りじゃな」


 多分頷いてるジャルカさん。

……念のため、聞いてみようかな。


「聞いておきたいんだけど、ジャルカさんは脱獄とかしたい?」

「わしはもう長生きしたし、ここから無理に脱獄してまで為したいこともないのじゃよ」

「ふぅん……」

「好きなことを出来ず、狂った魔王を警戒し、言葉に気を使い、暗い空気の中で毎日を生きるくらいならば。

 このままここで静かに余生を過ごし、たまの来客と会話を楽しみ、ひっそりと終わるのも悪くないかと思っておるよ」


 ジャルカさんのやりたいことと、窮屈な現状……か。


 この人は魔族だ。でも、悪人じゃないと思ってる。

 人間じゃないんだから、悪人と言うか悪魔か? まぁいいや。


「例えば、だけどさ」

「うん?」

「姫様の声を治せるとしたら、脱獄する?」

「―――なんじゃと?」


 妥協できない、魔王に忠誠を誓えない、だけどこの国のことは大好きなんだとしたら。

 この人は、仲間とまではいかなくても、協力はできるんじゃないだろうか。


「ジャルカさんが協力して、オレと一緒に脱獄し、オレを手伝う。

 そしたらオレがなんとかして、姫様がまたしゃべれるようになる。

 なんていう取引は、どうかな?」

「馬鹿な、魔王の呪いを人間のお前が解くというのか!?」


 実際にもう、解いたようなもん……なのかな?

 オレが解いたわけじゃないかもしれない。でも、オレが来たせいで解けたのかもしれない。理由はまだ分からない。


 結果として姫様がまたしゃべれるようになったなら、この取引は成立でいいはずだ。オレ自身が解くとは言ってないからな。

 あの悲鳴の後、しゃべれているのか、またしゃべれないのかは分からないけれど。

 ジャルカさんの協力を取り付けられるなら、このくらいの約束は安いもんだ。多分。


「必ず治せる、という保証も自信もないよ。

 だけど、全く効果がないとか、全然しゃべれないとか、そういう結果にはならない。これは自信がある」


 だって、すでに一回叫ばれてるもんね!

 効き目ゼロじゃないことは、もう確定してるもんね!


「嘘偽りはないようじゃな」

「うん」


 だからオレは、自信を持って頷いた。

 この人を、こんなとこで死なせるのはもったいない気がするんだ。

 それは第一村人としての思い入れがある、ってだけなのかもしれないけれど。

 それでも、いいじゃないか。いいと思うようにやれば。


「―――良かろう。

 人間のスクネよ、その取引に乗ってやろうではないか」


 ジャルカさんが、オレの言葉を受け入れてくれた。


「約束を違えず、姫様の声を取り戻すために尽力するが良い。

 無事に姫様の声を取り戻せたなら、我が力の全てをお前に託そうぞ!」


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