1/10 18:19
恐ろしい魔物が!
来た見た勝った。
木々に遮られて夕日の届かぬ森は、暗い。
足場はよく見えず、平らな地面は根や草に乱され、また樹上や集団の敵影への認識もままならぬ。
だが、その程度のことは問題にはならない。振り下ろされる丸太のような棍棒を、一歩踏み込み根元で斬り飛ばし。
返す刃で胴を一閃、ゴブリンは二つに分かたれて地面に落ちた。
「見事」
「ゴブリン程度なら、どうやら全く問題ないようだな」
「次、移動」
「わかった。案内してくれ」
森の中をろあろあ遠吠えで鳴き交わし、スコートさんの案内に従って三人で駆ける。
次の標的は、どうやら大蛇の群れらしい。
オレはエルフの長剣を両手で構え、飛び掛かってる蛇の一匹を真っ二つに下ろした。
エルフによる力定めの対象はオレ一人。他の3人には、今のうちに少しでも睡眠をとってもらっている。
スキルを自由に割り振れず、三日鉄人が取れてないからなぁ。
そもそも、勇衛とアレットは最後まで手伝ってくれるのか不明だし。
イグレーナは、確定メンバー扱いでいいよな? デンジャラ部分を除けば、他の二人より性格可愛いし。
ともあれ、三人は村で休息中。オレは一人、オレ自身と三人のレベル上げのために森で狩りに勤しんでいた。
さて、大会予選を終え、現在のオレのステータスはこんな感じである。
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■ 詳細ステータス
● 基本情報
名前 : 北村 宿禰
職業 : 脳筋 【脳まで筋肉】
レベル: 37 【腹が大分出た】
性別 : 男
年齢 : 20歳
● 能力値
筋力: 1480 【化け物】
体力: 1332
敏捷: 1480
器用: 1480
知力: 562 【馬鹿よね…】
精神: 703
魅力: 648
幸運: 185 【幸せなれない】
● スキル
10 SPボーナス
10 経験値ボーナス
1 経験値共有
1 三日鉄人
1 破邪結界
1 Sテータスラッシュ
10 剣術
5 大剣術
5 武術
5 命中
5 回避
5 防御
10 戦人
5 頑強
5 豪傑
10 瞬影
3 賢人
5 祝福
2 自然治癒
2 生命力増加
5 異常耐性
5 精神耐性
3 痛覚軽減
10 危険感知
5 気配感知
3 魔力感知
3 気操作
2 文字理解
10 鑑定
10 隠蔽
3 偽装
2 軽業
4 交渉
4 度胸
2 赤魔術
2 青魔術
2 黄魔術
2 緑魔術
5 白魔術
2 黒魔術
3 生活魔術
3 錬金術
2 空間魔術
3 高速詠唱
2 無詠唱
3 高速回復
3 魔力増加
残りスキルポイント : 120
● 称号
武術大会予選優勝 異世界人 科学術師 脱・裸族 勇者の無精卵 脳筋 エルフの友 ゴブリンキラー 天使に兄と呼ばせる変態 玉鋼入りの変態 変態の師匠
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大会予選のおかげか、ディルエニアについた時からレベルも2つ上がっており『経験値共有』のスキルを取得した。
これも勇者固有らしく、効果は取得経験値がパーティ人数で頭割りされないというもの。
現状の4人パーティであれば、単純に経験値四倍だな。100ポイントは高かったが、それ以上にコスパのよいスキルでした。
残り120ポイントは、マップ系を取るか、視力系を取るか、属性耐性を取るか……という感じで、状況次第の予定です。
場合によっては、若返りを取るかもしれないしね。
ち、違うよ? 頭髪が寂しく不安だからじゃないよ、まだオレは若いからね?
こほん。ふさふさなオレとしては、数年分の老いを打ち消したいからスキルを取るわけじゃない。
スキル名称は『若返り』だが、効果は『一日一回、一時的に過去の特定の瞬間の自分の状態になる』というもの。
これを使えば前回自爆する前の状態にだってなれるはずだ。それよりも、前の状態にだって。
「スっくん、早い」
「いや、その端的な発言はちょっと……」
「?」
「何でもないです。次に案内してください」
条件反射的に返してしまったが、相手は男エルフ。ダメージを負う程ではない!
という訳で、いつの間にか大蛇の群れを倒していたオレは、スコートさんと、黙して語らぬお目付け役さんを伴い、さらなる獲物を求めて森を進んだ。
お目付け役さんは男性です。念のため。
さて、魔物を倒す、レベルを上げるわけなんだが。
現状、武器戦闘にスキルのようなものはない。
ゲーム的に言うと、昔のRPGの戦士系よろしく『たたかう』しかないわけだ。
まさしく脳筋。図らずも、ステータス画面に書かれた失礼なコメント通りになってしまいました。
だけど、剣術や大剣術スキルのおかげか、剣を持った腕は鋭く振り抜かれ、意識せずとも戦うために身体が自然に動く。
横薙ぎ一発で、敵の攻撃を打ち払って尻尾を真っ二つとか。
回り込んで斬り下ろすだけで、敵の首が落ちるとか。
剣を使って敵を一刀両断するオレ、かっけー。脳筋なんかじゃない、これは戦士の芸術的な生き様である。前衛だけに。
魔術を扱えるのは楽しいし最初は色々使ってみたけど、(体感で)MPも食うし一体倒すだけでも剣より遥かに時間がかかった。
現時点では魔術スキルはほとんど上げてないからなぁ。弱い魔術は無詠唱でばらまけるが、あくまでその程度。接近戦の補佐にしかならない。
魔剣士、勇者となるにはまだ遠いってことか。つまりは、ひたすらレベル上げしろというわけです。
そんな感じで、この森での戦闘は苦戦どころか、半自動的な身体の動きに任せた力仕事でしかないのでした。お掃除終了。
「ここまで、見事。
ここから、本番」
今オレ達の前には、大きな扉がある。
扉の向こうは、岩山。おそらくはダンジョン。つまり
「ここの奥に、魔獄竜がいるのか」
「そう。
中の敵、倒す。試練、最後」
スコートの言葉に、無言の監視官が重々しく頷く。
「強さ、別次元」
「別次元か……ゴブリンキングでも言われたな、それ」
朝の森の中、遭遇したゴブリンキング。
あの時は洞窟の中から、一直線にステータス画面が倒した。
オレの実力で倒したわけじゃない。あくまで、特別な手段で除去しただけだ。
あのゴブリンキングが現れたとして、今のオレに倒せるのか?
一撃必殺したせいで、敵の強さが全然分からないんだよな。多分倒せるだろうが、判断はつかない。
あとどうでもいいけど、ステータス画面が倒したって、変だよな。どう考えてもやっぱり変だよな。
そう思いながら動かないステータスを呼び出すと、すでに39レベルになっていた。
30~40レベルのモンスター、合計17匹。それに経験値10倍と、パーティ分割なし。そりゃレベルもさくさく上がるよな。
早く他の仲間にもSPボーナスと経験値ボーナスを取りたいなぁと思いつつ、スキルを取得した。
今回取得したのは『経験値非減衰』『マップ』Lv2『夜目』Lv5の3つだ。
相手より自分の方がレベルが高い場合、取得経験値はレベル5差で半減、10差でゼロになる。この経験値の減衰を無効化するのが『経験値非減衰』だ。
お値段はたったのSP20。経験値ボーナスと同じで取得した本人にしか効果がないのが惜しいが、これでゴブリンなどの森の雑魚モンスターの経験値はほとんど2倍になる。
……この後は、森で狩りじゃなく洞窟に入るんですけどね。まあいいだろう、それほど高くなかったから。
『マップ』については3レベルまであるうちのレベル2。レベル1で地形と生命体、レベル2で敵味方や名前の表示が可能となる。レベル3では自由に表示内容や検索が出来るようになるらしいんだとか。
……神殿でこれの3レベルがあれば、フィアを探せたんだろうなぁ。
まあ、それは街へ帰ってから試せばいい。ポイント30のスキルのため、レベル3に必要なSPは90。温存したいので今は2止めだ。
最後の『夜目』Lv5は、これでレベルMAXである。光のない闇の中でさえ見通せるらしい。あとついでに眩しさにも強くなったんだとさ。
スキルを3つで、残りSPは200。戦闘スキルもステータススキルも欲しいのはまだまだたくさんだけど、魔獄竜対策にキープ。戦いながら、欲しいスキルに振ればいい。
スキル割り振りによる強化を終えたので、これで準備はOK。
スコートさんの手でゆっくりと開かれた扉の向こうから、じっとりとした空気が漏れ出してくるのを受け止める。
通り抜ける空気が鳴き声のように細く響くのを聞きながら、闇の奥―――夜目によるはっきりと見える、奥へと続く洞窟を見つめる。
「洞窟、二人。行く」
「ああ、よろしく頼むよ」
この中は危険度が跳ねあがるからか、お目付け役さんはここで留守番らしい。
重々しく頷くイケメンに軽く頭を下げ、オレはスコートさんとともに洞窟の探索に乗り出した。
あくまで、試練としての探索です。入口辺りで雑魚を殺ったら、引き返す予定です。
そもそもみんなが居ないし、いきなり魔獄竜とやりあうわけじゃないので気楽に行こう。相手はただの雑魚で、レベル上げ用MOBだしな。
フラグじゃない、よね?
僅かにカーブし、ゆるやかに下っていく洞窟の中。
スコートさんが浮かべた生活魔術の明かりが、斜め後ろからオレの影を大きく洞窟の壁に映し出す。
オレ自身は、明かりは出さないでおいた。夜目の性能確認と慣れるためなんだけど、スコートさんが明かり出してるからあんまり意味ないな。
MPの温存だと思っておきます。
ステータスにはMPなんてないんだけど、魔術を使っていれば感覚として『あ、なんか減ってる』ってのは分かる。
精神力か魔力ってことだと思うけど、とりあえずは分かりやすいのでMPと呼ぶことにした。というか、オレがどう思ってるかだけだから、誰かと話すわけじゃないしな。フィアなら言葉通じるけど。
外の雑魚モンスター戦で、色々実験的に使った魔術による消費MPは、すでに大体回復してるっぽい。
HPとMPの表示がないのは不便だとは思うが、リアルで赤字のHP表示とか見たくないから、これもこれでいいのかな。
そんなことを考えながら進む先。明確な壁や扉の区切りはないけれど、通路が急激に太くなり部屋のような空間が開けていた。
かすかに漂う焼けたような熱の匂い。
蠢く魔物、その数は……5匹か。
なんと言ったらいいかな。サソリの身体に、足がバッタって感じの魔物だ。とりあえず、鑑定発動。
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名称 : スコルピオム
レベル: 55
筋力 : 561
体力 : 728
敏捷 : 198
器用 : 310
知力 : 81
精神 : 357
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どうやらこいつは体力バカらしい。
と言うか、55レベルもあるのに知力81って……
まあそれでも、腐っても55レベルだ。
一般人レベルはある、はず。
……いや、おかしいな?
街で少しだけ見た一般人、4レベルとかで、知力が15とか20とかだった気がするな。
この知力は、純粋な頭の良さというよりも、魔力と考えた方がいいのかもしれないぞ。
でないとレベルを上げていない学者や研究者が、ゴブリンキングとかこのスコルピオムより馬鹿ってことになる。
うん、そんな気がしてきた。今後は魔力だと思って判断しよう。
オレ(20歳、知力593)全然脳筋じゃないじゃん! バカじゃないじゃん!
そろそろ脳筋の汚名を返上すべき時がきたか。
というわけで、魔術系のスキルをばんばん取って天才魔術師になるためにも、こいつには経験値になっていただこう。
「敵、多い。これでは」
撤退を考えたらしきスコートさんの言葉を、片手を軽くあげて遮る。
「上等さ、まとめて相手してやる。
三日勇者の実力、なめんなよ」
エルフの長剣を抜き放ち、両手で構える。
こいつらは一番最初の敵、いわばこの洞窟の一番雑魚だ。
この程度はさくさくと狩れるようでないと、到底最深部の魔獄竜と戦う資格なんてないさ。
そんな風に闘志を燃やすオレの斜め後ろで、スコートさんが静かに呟いた。
「これでは、夕食に、食べきれない」
「食用かよ!」
敵が多いから撤退しようとか、そういうのじゃないのかよ。
「スっくん」
「……なんだよ」
ちらりと振り返ると、スコートさんは槍をしまい弓を構えながら、力強く頷いた。
「今夜、戦いだ!」
「何の戦いだよ!」
ああもう、このインディアンエルフ!
微妙にズレてんな、悪い奴じゃないけど!




