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三日で終わらす異世界転移  作者: 岸野 遙
一日目 ~魔竜の血潮に真相を~
60/60

1/10 18:19

 恐ろしい魔物が!


 来た見た勝った。


 木々に遮られて夕日の届かぬ森は、暗い。

 足場はよく見えず、平らな地面は根や草に乱され、また樹上や集団の敵影への認識もままならぬ。

 だが、その程度のことは問題にはならない。振り下ろされる丸太のような棍棒を、一歩踏み込み根元で斬り飛ばし。

 返す刃で胴を一閃、ゴブリンは二つに分かたれて地面に落ちた。


「見事」

「ゴブリン程度なら、どうやら全く問題ないようだな」

「次、移動」

「わかった。案内してくれ」


 森の中をろあろあ遠吠えで鳴き交わし、スコートさんの案内に従って三人で駆ける。

 次の標的は、どうやら大蛇の群れらしい。

 オレはエルフの長剣を両手で構え、飛び掛かってる蛇の一匹を真っ二つに下ろした。


 エルフによる力定めの対象はオレ一人。他の3人には、今のうちに少しでも睡眠をとってもらっている。

 スキルを自由に割り振れず、三日鉄人が取れてないからなぁ。

 そもそも、勇衛とアレットは最後まで手伝ってくれるのか不明だし。

 イグレーナは、確定メンバー扱いでいいよな? デンジャラ部分を除けば、他の二人より性格可愛いし。

 ともあれ、三人は村で休息中。オレは一人、オレ自身と三人のレベル上げのために森で狩りに勤しんでいた。


 さて、大会予選を終え、現在のオレのステータスはこんな感じである。



----------------------------------------

■ 詳細ステータス

● 基本情報

名前 : 北村 宿禰

職業 : 脳筋    【脳まで筋肉】

レベル: 37    【腹が大分出た】

性別 : 男     

年齢 : 20歳   

● 能力値 

 筋力: 1480    【化け物】

 体力: 1332    

 敏捷: 1480    

 器用: 1480

 知力:  562    【馬鹿よね…】

 精神:  703    

 魅力:  648

 幸運:  185    【幸せなれない】

● スキル      

10 SPボーナス

10 経験値ボーナス

1 経験値共有

1 三日鉄人

1 破邪結界

1 Sテータスラッシュ


10 剣術

5 大剣術

5 武術

5 命中

5 回避

5 防御

10 戦人

5 頑強

5 豪傑

10 瞬影

3 賢人

5 祝福

2 自然治癒

2 生命力増加


5 異常耐性

5 精神耐性

3 痛覚軽減

10 危険感知

5 気配感知

3 魔力感知

3 気操作


2 文字理解

10 鑑定

10 隠蔽

3 偽装

2 軽業

4 交渉

4 度胸


2 赤魔術

2 青魔術

2 黄魔術

2 緑魔術

5 白魔術

2 黒魔術

3 生活魔術

3 錬金術

2 空間魔術

3 高速詠唱

2 無詠唱

3 高速回復

3 魔力増加

 残りスキルポイント : 120

● 称号

武術大会予選優勝 異世界人 科学術師 脱・裸族 勇者の無精卵 脳筋 エルフの友 ゴブリンキラー 天使に兄と呼ばせる変態 玉鋼入りの変態 変態の師匠

----------------------------------------



 大会予選のおかげか、ディルエニアについた時からレベルも2つ上がっており『経験値共有』のスキルを取得した。

 これも勇者固有らしく、効果は取得経験値がパーティ人数で頭割りされないというもの。

 現状の4人パーティであれば、単純に経験値四倍だな。100ポイントは高かったが、それ以上にコスパのよいスキルでした。

 残り120ポイントは、マップ系を取るか、視力系を取るか、属性耐性を取るか……という感じで、状況次第の予定です。

 場合によっては、若返りを取るかもしれないしね。


 ち、違うよ? 頭髪が寂しく不安だからじゃないよ、まだオレは若いからね?

 こほん。ふさふさなオレとしては、数年分の老いを打ち消したいからスキルを取るわけじゃない。

 スキル名称は『若返り』だが、効果は『一日一回、一時的に過去の特定の瞬間の自分の状態になる』というもの。

 これを使えば前回自爆する前の状態にだってなれるはずだ。それよりも、前の状態にだって。


「スっくん、早い」

「いや、その端的な発言はちょっと……」

「?」

「何でもないです。次に案内してください」


 条件反射的に返してしまったが、相手は男エルフ。ダメージを負う程ではない!

 という訳で、いつの間にか大蛇の群れを倒していたオレは、スコートさんと、黙して語らぬお目付け役さんを伴い、さらなる獲物を求めて森を進んだ。

 お目付け役さんは男性です。念のため。



 さて、魔物を倒す、レベルを上げるわけなんだが。

 現状、武器戦闘にスキルのようなものはない。

 ゲーム的に言うと、昔のRPGの戦士系よろしく『たたかう』しかないわけだ。

 まさしく脳筋。図らずも、ステータス画面に書かれた失礼なコメント通りになってしまいました。


 だけど、剣術や大剣術スキルのおかげか、剣を持った腕は鋭く振り抜かれ、意識せずとも戦うために身体が自然に動く。

 横薙ぎ一発で、敵の攻撃を打ち払って尻尾を真っ二つとか。

 回り込んで斬り下ろすだけで、敵の首が落ちるとか。

 剣を使って敵を一刀両断するオレ、かっけー。脳筋なんかじゃない、これは戦士の芸術的な生き様である。前衛だけに。


 魔術を扱えるのは楽しいし最初は色々使ってみたけど、(体感で)MPも食うし一体倒すだけでも剣より遥かに時間がかかった。

 現時点では魔術スキルはほとんど上げてないからなぁ。弱い魔術は無詠唱でばらまけるが、あくまでその程度。接近戦の補佐にしかならない。

 魔剣士、勇者となるにはまだ遠いってことか。つまりは、ひたすらレベル上げしろというわけです。


 そんな感じで、この森での戦闘は苦戦どころか、半自動的な身体の動きに任せた力仕事でしかないのでした。お掃除終了。


「ここまで、見事。

 ここから、本番」


 今オレ達の前には、大きな扉がある。

 扉の向こうは、岩山。おそらくはダンジョン。つまり


「ここの奥に、魔獄竜がいるのか」

「そう。

 中の敵、倒す。試練、最後」


 スコートの言葉に、無言の監視官が重々しく頷く。


「強さ、別次元」

「別次元か……ゴブリンキングでも言われたな、それ」


 朝の森の中、遭遇したゴブリンキング。

 あの時は洞窟の中から、一直線にステータス画面が倒した。

 オレの実力で倒したわけじゃない。あくまで、特別な手段で除去しただけだ。


 あのゴブリンキングが現れたとして、今のオレに倒せるのか?

 一撃必殺したせいで、敵の強さが全然分からないんだよな。多分倒せるだろうが、判断はつかない。


 あとどうでもいいけど、ステータス画面が倒したって、変だよな。どう考えてもやっぱり変だよな。

 そう思いながら動かないステータスを呼び出すと、すでに39レベルになっていた。

 30~40レベルのモンスター、合計17匹。それに経験値10倍と、パーティ分割なし。そりゃレベルもさくさく上がるよな。

 早く他の仲間にもSPボーナスと経験値ボーナスを取りたいなぁと思いつつ、スキルを取得した。

 今回取得したのは『経験値非減衰』『マップ』Lv2『夜目』Lv5の3つだ。



 相手より自分の方がレベルが高い場合、取得経験値はレベル5差で半減、10差でゼロになる。この経験値の減衰を無効化するのが『経験値非減衰』だ。

 お値段はたったのSP20。経験値ボーナスと同じで取得した本人にしか効果がないのが惜しいが、これでゴブリンなどの森の雑魚モンスターの経験値はほとんど2倍になる。

……この後は、森で狩りじゃなく洞窟に入るんですけどね。まあいいだろう、それほど高くなかったから。


『マップ』については3レベルまであるうちのレベル2。レベル1で地形と生命体、レベル2で敵味方や名前の表示が可能となる。レベル3では自由に表示内容や検索が出来るようになるらしいんだとか。

……神殿でこれの3レベルがあれば、フィアを探せたんだろうなぁ。

 まあ、それは街へ帰ってから試せばいい。ポイント30のスキルのため、レベル3に必要なSPは90。温存したいので今は2止めだ。


 最後の『夜目』Lv5は、これでレベルMAXである。光のない闇の中でさえ見通せるらしい。あとついでに眩しさにも強くなったんだとさ。

 スキルを3つで、残りSPは200。戦闘スキルもステータススキルも欲しいのはまだまだたくさんだけど、魔獄竜対策にキープ。戦いながら、欲しいスキルに振ればいい。



 スキル割り振りによる強化を終えたので、これで準備はOK。

 スコートさんの手でゆっくりと開かれた扉の向こうから、じっとりとした空気が漏れ出してくるのを受け止める。

 通り抜ける空気が鳴き声のように細く響くのを聞きながら、闇の奥―――夜目によるはっきりと見える、奥へと続く洞窟を見つめる。


「洞窟、二人。行く」

「ああ、よろしく頼むよ」


 この中は危険度が跳ねあがるからか、お目付け役さんはここで留守番らしい。

 重々しく頷くイケメンに軽く頭を下げ、オレはスコートさんとともに洞窟の探索に乗り出した。


 あくまで、試練としての探索です。入口辺りで雑魚を殺ったら、引き返す予定です。

 そもそもみんなが居ないし、いきなり魔獄竜とやりあうわけじゃないので気楽に行こう。相手はただの雑魚で、レベル上げ用MOBだしな。


 フラグじゃない、よね?




 僅かにカーブし、ゆるやかに下っていく洞窟の中。

 スコートさんが浮かべた生活魔術の明かりが、斜め後ろからオレの影を大きく洞窟の壁に映し出す。

 オレ自身は、明かりは出さないでおいた。夜目の性能確認と慣れるためなんだけど、スコートさんが明かり出してるからあんまり意味ないな。

 MPの温存だと思っておきます。


 ステータスにはMPなんてないんだけど、魔術を使っていれば感覚として『あ、なんか減ってる』ってのは分かる。

 精神力か魔力ってことだと思うけど、とりあえずは分かりやすいのでMPと呼ぶことにした。というか、オレがどう思ってるかだけだから、誰かと話すわけじゃないしな。フィアなら言葉通じるけど。

 外の雑魚モンスター戦で、色々実験的に使った魔術による消費MPは、すでに大体回復してるっぽい。

 HPとMPの表示がないのは不便だとは思うが、リアルで赤字のHP表示とか見たくないから、これもこれでいいのかな。


 そんなことを考えながら進む先。明確な壁や扉の区切りはないけれど、通路が急激に太くなり部屋のような空間が開けていた。

 かすかに漂う焼けたような熱の匂い。

 蠢く魔物、その数は……5匹か。

 なんと言ったらいいかな。サソリの身体に、足がバッタって感じの魔物だ。とりあえず、鑑定発動。


----------------------------------------

名称 : スコルピオム

レベル: 55

筋力 : 561

体力 : 728

敏捷 : 198

器用 : 310

知力 : 81

精神 : 357

----------------------------------------


 どうやらこいつは体力バカらしい。

 と言うか、55レベルもあるのに知力81って……

 まあそれでも、腐っても55レベルだ。

 一般人レベルはある、はず。


……いや、おかしいな?

 街で少しだけ見た一般人、4レベルとかで、知力が15とか20とかだった気がするな。

 この知力は、純粋な頭の良さというよりも、魔力と考えた方がいいのかもしれないぞ。

 でないとレベルを上げていない学者や研究者が、ゴブリンキングとかこのスコルピオムより馬鹿ってことになる。

 うん、そんな気がしてきた。今後は魔力だと思って判断しよう。


 オレ(20歳、知力593)全然脳筋じゃないじゃん! バカじゃないじゃん!

 そろそろ脳筋の汚名を返上すべき時がきたか。



 というわけで、魔術系のスキルをばんばん取って天才魔術師になるためにも、こいつには経験値になっていただこう。


「敵、多い。これでは」


 撤退を考えたらしきスコートさんの言葉を、片手を軽くあげて遮る。


「上等さ、まとめて相手してやる。

 三日勇者の実力、なめんなよ」


 エルフの長剣を抜き放ち、両手で構える。

 こいつらは一番最初の敵、いわばこの洞窟の一番雑魚だ。

 この程度はさくさくと狩れるようでないと、到底最深部の魔獄竜と戦う資格なんてないさ。



 そんな風に闘志を燃やすオレの斜め後ろで、スコートさんが静かに呟いた。


「これでは、夕食に、食べきれない」

「食用かよ!」


 敵が多いから撤退しようとか、そういうのじゃないのかよ。


「スっくん」

「……なんだよ」


 ちらりと振り返ると、スコートさんは槍をしまい弓を構えながら、力強く頷いた。


「今夜、戦いだ!」

「何の戦いだよ!」


 ああもう、このインディアンエルフ!

 微妙にズレてんな、悪い奴じゃないけど!


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