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裸族。
裸の種族。
一般的には、裸で過ごす人たちを指している……はずだ。
あの称号を見た時に、気づくべきだった。
いや、違うな。異世界に降り立った時点で気づくべきだった。
あるいは、現地でゼロから肉体を構築ってジャージの女神に言われた時に尋ねるべきだった。
皆まで言わずとも、みんなもうお分かりだろう?
裸だったのは、オレだよ!
夜中の薄暗い廊下で、フルチンで何事か叫んでた変態はオレだよ!
もういいもんね、ふんっ。
……こんなことなら、あの女の子に―――いや違うし。そんなこと考えてないし!
思考がめちゃくちゃだな。ちょっと落ち着こう。
オレは、全裸に大判の毛布を掛けた格好で、一度深い溜息をついた。
右を見ても、左を見ても壁。後ろを向いても壁。
唯一違う前方だけは、鉄格子がはまっていて。
ようするにここは牢屋ってやつだった。
美少女に悲鳴をあげられた後、すぐにオレは駆けつけた兵士達に槍を突きつけられた。
丸腰どころか全裸でレベル1のオレに、どうにかできるわけがない。
大人しく両手を挙げて降参したら、一部の兵士|(でこぼこした兜と薄暗さで性別不明)からじろじろと裸体をガン見された。
あとあの美少女からも、なぜか呆然とした、驚きすぎたみたいな顔でずっと見つめられていた。
やめて、恥ずかしいの! 恥ずかしいのが気持ち良くなっちゃうから、やめて、もうやめて!
声に出さずに訴えたけど、誰にも届かずに。
皆さんにじろじろ見られながら、牢屋に放り込まれました。
困ったような顔しつつも、毛布を投げてくれた兵士さんにはちょっとときめいたけどな!
大人しくしてたから、突然斬りかかられたりしなかったのだけは良かった。
死んでもゲームオーバーなだけとは言え、開始2分で終了とかものすごく勘弁して欲しい。
確かにあの美少女が見れただけでも幸せだったけど、一瞬息が止まりそうになったけど、それとこれとは話が違うんだ。
さて、大人しく牢に放り込まれたわけなんだが。
なんだか妙に兵士達が慌ててたな。
姫様がどうとか。声がどうとか。王様がどうとか。緊急がどうとか。
いや、どうとかじゃなくてね。言葉はちゃんと理解できたんだよ。
姫様の声が戻った、とか。
王様に緊急で報告しなければ、とか。
とりあえずこの変態は牢に放り込んでおけ、とか。
どうやら、あの美少女はお姫様で。
これまで声が出なかったのに、なぜかオレを見て悲鳴をあげることができた……ってこと、なのかな?
それほどまでにオレの裸体が衝撃的だったのだろうか。
罪な男だぜ……ふっ。
さあ、そろそろ真面目に考えよう。
オレはまだ、異世界に転移してから、裸で叫んで変態として捕まっただけなんだ。
やるべきことはいっぱいだ。落ち込んでダメージを受けている暇はないんだ!
まず、オレは牢屋に捕まっている。
当然だけど、レベル1のオレのステータスじゃ、ぶち破ることなんてできないだろう。
期間は三日間しかない。1秒だって無駄にできない。
まずは、脱獄するか、しないかだ。
オレには、無限の可能性とも言うべきスキルポイントがある。
本来は成長ボーナス系をまず取るつもりだったが、鍵開け系のスキルを取ればここから脱獄することもできるかもしれない。
だが―――脱獄できたとして、どうする?
なんとかしてこの城から逃げ出さないと、誰かに見つかれば牢に逆戻り。きっと今度は見張り付き。
時間と貴重なスキルポイントを浪費するだけの結果になる。
じゃあ、脱獄しない?
脱獄しなかったらきっと、何もできずに明日までこのまま牢暮らしとなるだろう。
三日間のうちの、半日が潰れる。さすがにそれはきつすぎるなぁ。
いや、明日で済めばいい方だ。最悪、三日間牢の中に放り込まれっぱなしで、時間切れとなっちゃうんじゃないか!?
これがいわゆる異世界転移物なら、今頃新米冒険者として夜通しゴブリン狩りでもしている頃だろう。
と言うか、夜中スタートの時点でまずおかしい。
これじゃぁ買い物も施設の利用も、街の出入りも何もできないじゃないか。
それから全裸ってのがおかしい。裸族ってのもおかしい。
なんなんだ、このベリーハード。
「……ふう」
だめだ、もっと落ち着こう。
現状の不満を嘆いても、事態は何も解決しないんだ。
不満は、嘆くんじゃなくて、状況として理解するんだ。
その上で打開策を考えよう。冷静に、クレイジーにだ。
よし。
一度、期間のことを考えないで整理しよう。
三日間しかないのは事実だけど、それ以前に死んだら終わりなんだ。
まずは時間制限を忘れて、生存第一で考えよう。
この場合、一番避けるべきが、牢屋から引っ張り出されて処刑されることだ。
普通に考えれば、深夜の不法侵入者、しかも全裸。
うん、処刑するよね。するする、しない方がおかしい。
しかも姫様にそまつ……んんっ、こほん。逞しい裸体を見せつけているわけだし、あれこれと罪状つけて処刑されて当然だよね。
「やっべぇ、どう考えても殺される!」