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エルフの村の様子は何も変わっていなかった。
そりゃぁ当然だよな。ゴブリンを撃破して村を出たの、今朝なんだから。
経過時間、だいたい9時間くらい。変わってるわけがないです。
イグレーナを抱きかかえたオレが村に近づくと、途中で見回りらしきエルフ達が挨拶してきて、そのまま村まで先導してくれた。
例のろあろあ遠吠えで連絡を取り合ったのか、村の入り口ではスコートさんが出迎えてくれる。
「スっくん、よくきた!」
「やあスコートさん。魔王を倒してないけど、また来ちゃったよ」
「歓迎。いつでも、ここが宿。
イグ、合流、何より」
オレに抱き抱えられたまま、というかオレの首元に抱き着いたまま、スコートさんを睨み付けて頷くイグレーナ。少しだけ触れ合う頬が、すべすべで柔らかくて幸せです!
妹さんはすごく兄を睨んでいるけれど、兄妹仲が悪いわけではないはずです。はず。
これ、傍目には『お兄ちゃん私この人といくの!』『妹よお前は騙されているんだ、こっちに戻ってくるんだ!』『いやよ、いや!』
そんな風に見えるんじゃないだろうか。
そうそう、スコートさんとイグレーナは兄妹とのことです。オレとフィアとは違い、血を分けた兄妹。
家族だから、二人きりの時はイグレーナも声を出すことがあるらしい。
……あれ、言ってなかったっけ?
イグレーナが無言だったのは、未婚の女エルフは家族以外と口を聞いてはならない、という習わしがあるからだそうだ。
うん、インディアンって色んな風習があるんだね。エルフだけど。
なんでオレ相手に口を開いたかは……いや、意味は分かるんだけど。そこの話題には触れないようにしました。
だってほら今は時間ないし! 魔王倒さないといけないし!
頬を染めて照れながら矢じりを突き刺してくるイグレーナはデンジャラ可愛いけど今は保留でお願いします!
「わたし、ゆうしゃさま、すき」
「イグ、声!?」
「ゆうしゃさま、まりゅう、たおしてくれる。
わたし、ゆうしゃさまの、女になる」
「スっくんの嫁!
イグ、おめでとう!」
妹よお前は騙されてるんだ、こっちに戻ってくるんだ!
―――ではなく、スコートさん的にはウェルカムよくやったらしい。ていうかお前ら、ちょっと待て。
「オレの力になるってのは、オレに協力してくれるってことだよな?
不穏な空気を感じるんだが、オレが魔王を倒すのに協力してくれるんだよな!?」
「……えっと、あの……
わたし、ゆうしゃさま、すき……です」
「ぬおお、可愛い、けど誤魔化されないから!
魔王を倒すのに協力してくれるんだよな?」
「……むぅ」
なぜかちょっと目つきが険しくなったイグレーナさん。
え、協力してくれないの? 魔王の前後で魔獄竜倒すから、協力してくれるんだよね?
「あの、オレにとっては大事なことなんです。魔王を倒したいんです。協力して下さいお願いします。
魔王の先か後かはともかく、ちゃんと魔獄竜も倒しますから」
「……わかっ…た……」
うおおい、なんでそんなに苦しげなわけ!?
「三日目までに魔王を倒さないと、オレはこの世界に居られないんですからね?
この世界から弾きだされて、二度と会えないんですからね!?」
「わすれて、ました」
「忘れないで、大事なことなのぉ!」
流石インディアン、意外と頭が弱いのか?
いや、それは全国のインディアンにすいません。
全国にインディアンが居るのか知らないけど。多分居ないな。
そんな感じでオレがイグレーナの協力の約束を取り付けていると、後ろから服をつまんで引っ張られる。
「ししょー、しーしょーおー?」
「ん、勇衛どうした?」
「師匠とスコート殿では三角関係にならないので、見ててつまらないでござる。
ついでに時間が惜しいから、雑談はそれくらいにして必要な情報と準備をして洞窟へ向かうでござるよ」
「……前半がなければいいセリフだったのにな。
まあ前半がなければ勇衛のセリフじゃないんだろうが」
「褒められたでござる。えっへん」
突っ込まない、突っ込まないぞー。
突っ立ってた勇衛と、その背に負われてぐったりしているアレットの二人。
それにオレと、地面に立たせたイグレーナ。
スコートさんに頼んで、場所を借りて情報の確認をすることにした。
「なるほど。
スっくん、イグ、事情、理解。めでたい」
「そこでめでたいって感想が出たあたり、本当に理解したのか疑わしいんだが」
「大丈夫。エルフ、嘘つかない」
それこそインディアンかよ!
「三つ、言いたい。
一つ。魔獄竜、許可、必要」
「おさと、みこの、きょかが、ひつようです」
「なるほど。
巫女のイグレーナの許可はあるから、村長の許可が要るってことか」
「または、たおして、むりやりとおる」
「君のお仲間だよね? そういう真似、あんまりよくないよね?」
「わたし、ゆうしゃさまが、いちばん、だいじ」
嬉しいけど、だからって仲間を倒して通るのはどうだろうか。
まああまりに話が通じなくて時間がかかるなら、押し通るのも仕方ないけど。
「二つ。もう夜。宴、明日、洞窟?」
「ああ、確かにもうじき夜だけど。時間がもったいないから、休んだりしないぞ?」
「まじだったのかよ……」
オレの言葉に、絶句したのはアレットだ。
「何言ってるんだ。
夜でも休んでる暇がない、大会のためにも修行だって話しただろ?」
「いや、そりゃそうだけどよ。そんな、徹夜で大会出場とか、その方が駄目だろ」
「今のままじゃ勝てないかもしれないし、時間は有効に、だ。
オレ、三日間は休みなしで動けるしな」
「ばけもんかよ、あたしは無理だっての!」
「だから、来る途中は勇衛の背中で寝ておけって言ったのに……」
移動速度に差があったので、エルフの村までオレがイグレーナを、勇衛がアレットをそれぞれ運んできた。
勇衛におぶさって、ぐっすりお休みしてるはずだったんだが―――
「寝れるわけねーだろ!?
こいつの頭の高さすれすれを木の枝が迫ったりして、全部避けたり防いだり弾いたりで休む暇なんかねーよ、余計に疲れたよ!」
「貴重な時間を有効活用するために、アレット殿にも打たれる快感を味わっていただけるように工夫したでござる」
「いらねーよ、快感じゃねーし有効活用してねーし、死ねよ!」
「ひゃっほーでござるー!」
座ったまま、メイスと大盾でがんがんとガチな戦闘が始まる。
アレットの方は、勇衛のせいで酷い目にあったようだな……それもこれも、みんな勇衛が悪いってことで。諦めてもらおう。
「ゆうしゃさま、たくましかった。しあわせ、です」
「お、おう……ありがと、う」
オレの膝に手を掛けて寄り添い、耳元でささやくイグレーナ。甘い声ながら、仕草が色っぽくてどきどきする。
って、そうじゃないんだって、休憩したかどうかとかで、時間がないんだって!
いかん、イグレーナのペースに飲まれてはいかーん。腕を包み込む巨乳化5のことは意識の外に追いやるんだ!
「そっ、そういうわけで!
洞窟の中なんて昼も夜も差がないだろ、これから行きます!」
「了解、許可取る」
スコートさんが人を呼び、村長への伝言を頼む。
すんなり許可が下りればいいんだが……
「やっぱ定番で、通りたければわしを倒してから行け~とかなるのかな?」
「ん?」
「せっかく異世界で勇者始めましたのに、ここまで王道展開がやや物足りなくてなぁ」
フルチンスタートで牢屋。
自爆で死亡、冒険終了。
ゴブリンはガチムチだし、仲間……仲間?は胸が鋼の変態だし。
城ではまたしても牢屋送りだし。
あ、考えてみると結構不幸かもしんない。
「ならない、平気」
「あ、そうなんだ。まあ話が早くていいか」
落胆したってわけじゃないオレの言葉に、スコートさんは頷くと
「魔物、我らより、強い。魔物、倒す。力、示す。
森平和」
……それはあれですか。
エルフより魔物の方が強いし、魔物を倒せば森が平和になるから一石二鳥ってことですか。
まあ、レベル上げになるからいいけどね。
次回、ひさびさのバトル回!
……になるかどうかはまだ不明なので注意が必要。




