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振り下ろされる斬撃を、半身になってかわす。
すり抜けざまに振るった剣がイケメンの盾を叩く鈍い音を聞きながら、魔力を集めた左手を翳してそのまますり抜ける。
続く剣撃をこちらも鞘に入った刀身で受けると、眼前に迫った大盾に足を掛け押されるままに自ら後方へ飛んだ。
左手を振り払いつつ、空中で回転して着地する。
測ったように戦闘開始時の位置に戻ったオレに、イケメンはさわやかな笑みを浮かべて武器を構えなおした。
くそう、何もしなくても絵になるとか。むかつくな。
『流石は決勝戦、鮮やかな打ち合いが繰り広げられています!
剣と大盾を使った堅実な攻めのテリア選手に対し、軽々とした身のこなしで舞うスクネ選手!
やはり決勝に残った猛者、緑証は実力を隠す仮の姿かー!?』
司会の煽りに観客席から様々な声が飛び交う。
「ししょー、ぱんちら成分が足りてないでござるよー!」
「するか!
男の下着姿とか、誰も喜ばねーよ!」
「え?
いまどきは、結構需要があるのでござるよ?」
「そんな需要なくていい!」
アホの勇衛の声援……妨害にめげず、鞘ごと構えた剣を握りなおす。
うん、当たり前のことだけど、鞘ごとだと重いね。少し振り回しにくいよね。
「余裕ですね、スクネ君」
「いやいや、そんなことないって。これでも必死なんだよ」
そう、オレは必死だ。手抜きはしていない。
「それが全力には見えませんが……
まあいいでしょう、こちらはもう少し力を出していくことにします」
「おうおう、流石はイケメン。ウサギを狩るにも全力ってか」
オレの言葉に少し怪訝そうな顔をするが、すぐに表情を引き締めて詠う。
「絢爛たる業火は咎を焼く灼熱の番課
我が意思に従い顕現せよ、炎熱の王の証」
おお、結構な魔力だな。
力が言葉と意志に従い仮初の形を与えられてこの世界に現れる。
だが遅い、イケメンより早く左手に練り上げた魔力に形を与え解き放つ!
「石牢封檻!」
業火が解き放たれるより一瞬早くイケメンの四方を石壁が囲い
「くっ、まず―――」
その声も魔力も炎も、全てを包み隠して天板も塞ぎ一つの岩塊の如き石柱となり。
瞬間、石柱の中で爆音が轟いた。
『あーっと、魔術戦はスクネ選手に軍配か?
テリア選手の大技ごとスクネ選手の放った石壁が覆い隠し包み込んだ、直後に爆発!
テリア選手は無事なのかー!?』
黄色い悲鳴が上がる。
……うん、どう見てもオレが悪役っぽいよな。
単純に、相手の攻撃より前に壁で防いだだけだってのに。
『石壁の中のテリア選手、聞こえますか、生きてますかー?』
司会の呼びかけに返事もない。
会場が、息を潜めるように静まり返る。
『中の様子が分からない以上、返事がないと判断に困るのですが。
聞こえませんかー、テリア選手ー?』
返事はない。少なくとも、オレには聞こえない。
さっきの魔術は直前でキャンセルできなかったみたいだし、あの密閉空間で自爆したとしたら……あれ、死んでるかも?
いや、死んでたらやばいだろ!
「我が命に象られし魔力よ、仮初の姿解き放てマナはマナへ還らん
魔現還是」
慌てて即興で唱えた魔術が、石壁を崩し元の空間へと戻していく。
その中から現れたのは―――
「きゃ、きゃあああぁぁぁっ!」
誰かの悲鳴が舞台を引き裂く。
そんな中、黒焦げになった対戦相手の体がどさりと床に落ち。
『……ぷっ』
実況が吹き出したのが、会場中に響く。
いや、これは……不可抗力とは言え……
『テリア選手、戦闘不能により!
ディルエニア武術大会予選午後の部、優勝は!』
爆発の余波か、顔は黒焦げ。
おでこから頭頂部までは髪が燃え尽き。
残った部分も、焼け焦げてパンチパーマかアフロ状態。
これはひどい。やったのオレだけど。
『謎が謎呼ぶ勇者変態、スクネ選手ですっ!!』
ささやかな歓声と黄色い悲鳴、押し殺したような笑い声が響く中。
オレは、司会の言葉に鞘に入ったままの剣を掲げて勝利を示したのだった。
これって、自爆?
それとも、撃破?
判断に困る感じで、微妙な決着になってしまいました。
これを見た他の選手は、スクネの実力をどう判断するのやら。
読んでくださって、どうもありがとうございますね。
アクセス数が頑張る原動力。
ブックマークや感想、評価もきっととても嬉しいです。
ご意見ご要望、何かあればお気軽に是非☆
次回は、予選優勝インタビューで、一日目の終わりに向かいます。
うん、方向として向かうだけ。
貴重な時間、まだまだ装備探しやら何やら時間は無駄にできんよ!




