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今、オレの眼前には一人の戦士が立っている。
長剣と大盾を構えて、ぴかぴか光る鎧を身にまとった、イケメン。
「スクネくん、まずはぼくの挑戦を受けてくれてありがとう」
間近で見ると、なんというか輝かしいオーラが出ているのが分かる。これが主人公パワーというやつか。
「……どういたしまして。
あの演説内容では、受けざるを得ないだろうが」
「あはは、君が『受けざるを得ない』と感じてくれるような相手で良かったよ。
これなら、胸を張って勝負を楽しめそうだ」
「よく言うよ。
オレの事なんか、眼中にないくせに」
「そんなことはないよ?
君は知らないかもしれないが、あの『孤有城壁』のユウエさんがパーティを組んでいるんだ。
彼女がお金で動いたとは思えない、君にはきっと何かがあるんだろう」
イケメンの視線が意味ありげに勇衛を向く。
だがオレは、そんな勇衛もイケメンも見ることが出来ずに俯いた。
孤有城壁って、城壁って……!
他人からは巨乳と思われている勇衛の事を壁と呼んだ奴に他意はないんだろうけど。
実態……実体を知っているオレからすれば吹きださずには居られない。
イケメンが、俯いて吹きだしたオレを怪訝そうに見ていた。
「何が面白かったんだい?」
「い、いや悪い、何でもないんだ」
軽く頭を振って、笑いを振り落とす。
それから、改めて眼前のイケメンを睨んだ。
「せっかく、一対一の勝負を申し込んでくれたんだ。
精一杯お相手させてもらうよ」
「こちらこそ、せっかく引き受けてくれたんだから、全力でやらせてもらうよ」
主人公オーラなのかは分からないが、迫力というか、求心力というか、目を惹く何かがあるイケメン。
今のオレの立ち位置を知るには、ちょうどいい相手だと思う。
オレは、この半日で、どこまで来たのか。
そして、あと二日半で、どこまで行けるのか。
あの魔王に、届くのか。越えられるのか。
『選手二人の気合も十分なようです!
それではここで、決勝戦のルールを確認しましょう!』
舞台は、武術大会の予選、決勝戦。
『勝負は両チームのリーダーによる一騎打ち、メンバーの支援や参戦は一切認められません』
二回戦は予想外に、アレットとイグレーナの二人で敵パーティ四人をあっさりと破り。
決勝戦は、このイケメンの演説によりオレが一対一で戦う事になった。
『勝者が優勝、敗者が準優勝。
勝者のチームからは三名、敗者のチームからは一名が大会本選へ出場することができます』
イケメン曰く
『一度も戦わず、雇った仲間に勝ちあがらせてもらって本選出場しても、観客が納得しない』と。
『女性の中で男がリーダーを務める者同士、正々堂々と一騎打ちだ』と。
この演説を観客も運営側も後押しし、オレが断れない空気を作られた。
非常に迷惑……という気も最初はしたけど、よく考えたら都合がいいよな。
そう思って、イケメンを恨むのは止めた。
『片や、圧倒的実力で、たった一人で初戦と二戦目のパーティを下した、ディルエニアの超新星!
全てを阻む大盾を掲げたパーフェクトナイト、テリア=フォークエル選手!』
客席から大歓声が飛ぶ。
特に黄色い声に耳を塞ぎたい気持ちを我慢して、手を振るイケメンを見据える。
『片や、美女を雇った勇者変態! 孤有城壁を雇えたのは財力か魅力か、はたまた実力か?』
変態力です。
ちっ、違うんだからな、オレが変態なわけじゃないからな!
勇衛が勝手に、変態的な勘違いをしただけなんだからな!
『謎が謎呼ぶ正体不明、ディルエニアに現れた謎の新人!
スクネ選手ー!』
歓声……は、ほとんどない。
あるのは、有り金叩いて大穴に賭けた、目の血走ったおっさんの殺意篭った声援くらいだ。
それでも、軽く手を振る。勇衛に、アレットに、イグレーナに。
『ディルエニア予選、午後の部。
これより、決勝戦―――』
剣と盾を構えたイケメンを見据えながら。
オレは、ようやく、ゆっくりと。
腰の剣を、鞘ごと外して構える。
『試合、開始!』
今更ですが、連載再開しました。
気長に、気楽に。
思い出したように書き続けられたらな、と考えてございます。
打ち切りエンドを期待されてた方にはごめんなさい。
もうちょっとだけ、頑張りたいんじゃよ。
新作『魔王が猫を撫でるまで』のほうも、あわせてよろしくお願いします☆
あっちのほのぼの猫生活のほうがえろいとか、いやそんなバカな。




