1/10 13:23
矢が雨の如く降り注ぐ中、敵陣へ悠々と歩みを進め。
突き出される槍はするりとかわし、中程を握って力任せに持ち主を転ばせ。
打ち下ろされる白刃を受けもせず、それより早く真横からまとめて薙ぎ払いぶっ飛ばす。
あまりの一方的な瞬殺っぷりに、敵の術師は呆けたように動くことも出来なかった。
「これが、無双というやつか……」
信じられないような力量差に呟きながら、敵後衛2名の降参を聞く。
『秒殺ぅぅー!
何と言う力量差! たった一人で対戦相手4名を下し、二回戦決着です!』
実況の声が響き、観客から歓声やら怒声やら、まばらな拍手やらが降り注ぐ。
『武術大会予選、第二回戦。勝者は、』
オレ達は、数秒で勝負を決めて準決勝進出を決めた。
だから、実況は高らかにオレ達の勝利を告げる。
『勇者変態と雇われ臨時パーティチームです!』
「チーム名ひでーよ!」
師匠の変態性を伝えたいという勇衛と、その後の日常生活に支障が出ると困ると言ったアレットが協力して考えたチーム名である。
気づいた時には、すでに登録申請が完了していた。そして申請を出し直す時間的猶予はなかった。
せっかく自分で読書きできても、注意しなければ駄目だという典型でした……
て言うか、勇者変態ってなんだよ!
名前なのかよ、変態勇者より酷いよ!
『リーダーは緑プレートの新人変態ですが、雇われらしいパーティメンバーがすごいですね』
『そうですね。
誰ともパーティを組まずに熟練級になったことで有名な勇衛選手、圧巻でした』
冒険者ギルドでも、勇衛は有名らしい。
まあ、そうだよな。ぼっちだけど、美人だもんな。
ぼっちだけど、鎧は爆乳だもんな。鎧は。
中身は果汁だけど。ぼっちだけど。
『盾一枚で、瞬殺ですもんね。素晴らしい技量でした』
『一体彼女をどうやって仲間に引き込んだのか、その辺りに秘密があるのかもしれません』
『お金を積んだだけかもしれませんね!』
好き放題言いやがって……と思うが、一方で納得できる部分もある。
今回、敵チームを瞬殺させたのは勇衛である。
アレットとイグレーナにはあまり戦わせる気はなかったんだが、初戦はオレも見ていろと言われていた。
盾一枚で、全部薙ぎ倒しての瞬殺劇。正直、見ていても勉強にならないくらいどうしようもなかった。
あまりに勇衛が強すぎて、戦闘が一瞬過ぎて、ここから何を学べばいいか全然分からない。
「お疲れ様。すごかったな」
「お疲れでござる。
相手が弱かっただけでござるよ」
対戦相手は、駆出級+一般級。
基本的には弱いチームほど対戦回数が多くなるので、当然と言えば当然だ。
「あれぐらいなら、アレット殿でも余裕で勝てたと思うでござるよ」
「一対一ならな」
誇るでも謙遜するでもなく、自分の力量を把握した上で頷くアレット。
二流聖職者とは言うが、戦闘経験や冷静な目は確かなものなのだろう。頼もしい。
「もちろん、イグレーナ殿でもでござる」
「……」
無言で勇衛を見ていたイグレーナは、頷くでも否定するでもなくなぜかオレを睨んだ。
え、オレにどうしろと……?
「予選で時間を掛けたくないし、本当は修行でもしてたいくらいなんだけどな」
「決勝戦以外はそれでもいいでござるよ?」
「決勝戦までどれだけ時間が掛かるか分からないし、流石に難しいよな」
言いながら、開始された三回戦を眺める。
三回戦と言うか、6チームしかないので準決勝である。
一回戦できゃーきゃー言われていたイケメンが、こりずにまた一対四で戦っていた。
勇衛と同じくらいの大盾で攻撃も魔術も弾くが、飛ばした斬撃については相手に防がれる。
今回の相手は熟練級混じりということで、一回戦よりは拮抗している。
ちなみに、取り巻きガールズは声援を送るだけで今のところは戦闘に参加していない。
「この試合の次が出番で、その後は連戦で決勝だからな。
試合自体はユウエ一人で勝ち抜けるとしても、流石に出かけてる余裕はないだろ」
「そうでござるね。
流石にアレと一対一は、拙者も倒せる気がしないでござるよ」
うーん、確かに勇衛でも一対一だと厳しそうか。
「まあ、残り二試合だ。
優勝してフィアを助けるために、さくっと終わらせて決勝進出しないとな」
まだだ、まだ終わらんよ……!
こちらの作品としては、非常にご無沙汰でした。すみません。




