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投稿して初めて気づく、祝50話!
少しでも楽しんでいただけるよう、引き続き頑張りたいです☆
リメルシア=ファン=オードラング=リーンスニル。
魔王の呪いにより声を奪われた、リーンスニルの魔族姫。
初回、たった3時間の旅路で出会い、その……ちょっと、まぁ、とっても惹かれまして。
自分でもよく分からないんだけど、ふぁ、ふぁーすと……げふげふ。
なんやかんや、色々ありました!
そのリメルは、今、何をしているのだろうか?
初めて知ったリメルの本名が表示されているのを見ながら、ぼんやりとそんなことを考えるオレ。
今のオレに分かるのは、リメルが、今もまだ。
オレと、パーティを組んだままである、ということだけだった。
ステータス画面のように、可視化されたウィンドウに表示されたパーティメンバー。
オレ、勇衛、アレット。
エルフさんこと、イグレーナ。
そして、今この場にいないからか、グレーアウトしてレベルもパラメータも何も見えないけれど。
名前だけが表示されている、リメル。
「師匠、早くするでござるよ」
分かってるよ、勇衛。
大会の予選に参加するために、メンバー4人でパーティを組まなければならない。
同時に、予選参加者以外がパーティに含まれていてはならない。
だから今ここで、リメルをパーティから外さなければならないんだ。
リメルのレベルがいくつであるかは分からない。
ただ、オレのレベルは、必要な値に達していたので。パーティ内での念話を使う事が可能になっていた。
これを使って、一方的にリメルにメッセージを送る。今できるのは、それだけだ。
レベルが低いと発信は出来ないのに、受信が出来るってのも変な話だな?
まあ、それはいいか。受信もできないよりはずっと助かるんだし。
そういうことで、オレはリメルへのメッセージを―――
「いや、えっと。
3人とも、ちょっとだけパーティ抜けてくれないかな……なんて思うんだけど……」
パーティ念話は、パーティ内全員に無条件で届くのだ。
個人を特定して念話をする、という機能は存在しないらしい。
探せばそれっぽいスキルや魔法はあるかもしれないけどね。
「師匠のメッセージがちゃんと送られたか、聞いていて確認しないといけないと思うでござる」
もっともそうな事を、にやにやとした笑顔でうそぶく勇衛。
ちなみに、勇衛がパーティ念話を最初に使ったのが始まりだったので、リメルにも勇衛の声が届いている……はずである。
なぜか背筋が凍った。
「え、なんでだ?
あれだろ、地下牢で話してたお姫様だろ? スクネが一目ぼれしたんだろ? 告白シーンなんだろ?
あたし達、仲間だろ? 仲間の幸せは、分かち合うべきだろ? 仲間の弱みは握るべきだろ?」
おい、最後おかしいぞ最後!
アレットもまた、にやにやしながらまくしたてる。
一歩も引く気はないらしい。
そして―――
びゅんっ、と。オレの眉毛を掠めて、矢が真横の壁に突き立った。
視界を覆うように、ちょうど目玉の前で揺れている矢羽が、ものすごくリアルで。
ぎぎぎぎと音を立てるほどにぎこちない動きで右を見れば、イグレーナ。
矢を射かけた後の格好すらしておらず、なぜか背中に弓を背負い腕を胸の下で組んで、オレを見下ろしている。
いつも以上に、冷たく突き刺さるような地獄の視線で。
あ、こいつら駄目だ。
何を言っても、駄目だこいつら。
説得は不可能、無駄な努力であると理解させられてしまった。
仕方ないから、当たり障りのない範囲で伝えるべき言葉を送ろう。
『あー、あー。マイクテス。
こちら、北村 宿禰。このメッセージが、リメルに届いていることを願う』
『ばっちり聞こえているでござるよ、師匠』
「割り込むんじゃねーよ!?」
当然のように会話に参加してきた勇衛の後頭部を全力で叩き、涙目の勇衛を追い払う。
『―――こほん、今のは無視してくれ。
手短に、オレの状況だけ報告するよ。
魔王相手に自爆を使った後、色々あってオレはなんとか一命を取り留めた。
今は魔王を倒すべく、ディルエニアという国で武術大会に出ているんだ』
あれから……と言っても、たかだか数時間から半日程度。
振り返るには近すぎて、それでも濃密な出来事の向こうの、過去。
『オレは、三日で魔王を倒す。そのために、この世界で、勇者として旅をしている。
……しているというか、夕べリーンスニルで旅を始めたばかりなんだけど。
魔王を倒さない限り、明後日の夜までしか、オレはこの世界で生き続けられないんだ』
邪神の力が復活すれば、オレは弾き飛ばされ、この世界を去ることになる。
タイムリミットは、あと二日半。
『だから、必ず会えるとは、言えないけれど。
魔王を倒し、オレの旅がその後も続くのであれば、今度は昼間に正門からリーンスニルに行くよ』
リーンスニル。
オレの知るリーンスニルは、牢屋と、廊下と、森と。リメルの部屋と。
その全てが、夜の中にあった。だから。
『その時は、リーンスニルを観光して、リーンスニルのおいしいものを食べて。
あわただしくなく、ゆっくりと過ごさせて欲しいと思ってるよ』
そんな日を、迎えられるように。
『それじゃぁ、残り二日と半分の魔王退治、頑張ってくるよ。
……メイド先生にもよろしく伝えて欲しい』
あれ、最初はメイド先生と二人でレべリングしてたよな?
なんでメイド先生だけパーティから外れて、リメルだけ残っていたんだろう……?
まあ、いいか。
『それじゃぁ、また、いつか』
返事は、聞こえない。
数秒、目を閉じて言葉にならない想いを込めて。
『―――リメルの幸せを、願っているよ』
そう締めくくると、オレはパーティ画面を操作してリメルをパーティから―――
『リメル殿、師匠は拙者が責任持って幸せにするでござるよー!』
『わたくしも、スクネ様を助け、公私に渡ってお支えし共に歩みますわ』
『……』
『あーっ、お前らほんとに何してんだよ!?
ああもう、猫被ったり心にもないこと言ってんじゃねーよ!』
にやにやしている二人組が騒ぎ、縮み上がりそうなほど冷たい目をした一人が睨みつけてくる。
色々な意味で背筋を凍らせながら、にやにやした奴らを追い回して頭を叩き、
「大会予選に参加の皆様、これより入場となります。
チェックを終えた方から闘技場の方へお願いします」
「あーもう、時間じゃねーかよ!」
『そ、それじゃあ大会始まるから行ってくる!』
『リメル殿、さようならで―――切られたでござる、無念』
「無念じゃねーよ!」
ぷつり、と。勇衛のセリフの最中でパーティからリメルを外す。て言うか、もっと早くやっておくんだった!
「あとちょっとで、師匠にとどめが刺せたものを」
「何のだよ!?」
わりと本気で勇衛の頭を殴ったが、殴られた勇衛はなんとも嬉しそうか楽しそうでそれがまたむかつく。
ああもう、本当にぐだぐだだな!
「ほら師匠、さっさとチェック受けて出場でござるよ」
「7割お前のせいだろーが!」
にやにやした勇衛とアレットを睨み、イグレーナとは目をあわせないようにして。
大会前の作戦会議も、そもそもちゃんとした自己紹介もないままにオレ達は予選出場のために闘技場へ向かうのだった。
ちなみに、パーティ念話は30レベル以上で使えるようになります。
やり方については、今回勇衛が口頭で教えてくれました。
と言っても、スキルや技術と言うほどのものではなく、心構えレベルですので。やり方を知ってれば、誰でもすぐできる内容になります。
それは、それと、致しまして。
更新が遅くなりまして、申し訳ございませ…ん……
がくがく。
そろそろ打ち切りを視野に入れつつ、次回からようやく大会スタートです!
……ほんとだよ?
ほんとに大会始まるよ?
(予選だけど)




