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ふわりと浮かびあがるような感覚が身体を通り過ぎる。
いつの間にか閉じていた目を開くと、そこは暗い廊下だった。
壁に据え付けられたランプがわずかに闇を押しとどめる、石造りの廊下。
傍らの窓の向こうは真っ暗で、月明かりがないのか、あるいは窓の向こうに壁があるのか全く区別がつかない。
廊下にも見える範囲は誰も居ないが、夜中だとしたら当然かもしれないな。
さっきまで居た、ジャージの女神の白い空間とは何もかもが異なっていた。
「さて……これから、どうすればいいんだ?」
今のオレには何もない。
知識もなければレベルもない。
そもそも、そういえばこの町の名前だって知らない。
まずはステータスを見よう。スキル確認と、お勧めされた成長系のスキル取得だ。
多分、念じれば―――
ぴこん。脳裏にそんな軽快な音が響き、視界の片隅に半透明のウインドウが出た。
メニューのコマンドではなく、ステータス自体が表示されている。
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■ ステータス
名前 : 北村 宿禰
職業 : 勇者
レベル: 1
称号 : 異世界人
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ほほう、これがステータスか。ずいぶんシンプルだなぁ……
と思ったんだが、よく見れば『詳細』というボタンがあった。
他にもスキルとか色々ボタンがあるが、まずは詳細ボタンを押す……ように意識をすると、詳細ステータスが表示された。
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■ 詳細ステータス
● 基本情報
名前 : 北村 宿禰 【漢字書けない】
職業 : 勇者 【仮】
レベル: 1 【ゴミカス未満】
性別 : 男 【童貞】
年齢 : 20歳 【彼女イナイ歴】
● 能力値 【平均より低い】
筋力: 4
体力: 6
敏捷: 5
器用: 7
知力: 8
精神: 9
魅力: 5 【女神の贈り物】
幸運: 2 【多分すぐ死ぬ】
● スキル 【早く取れ】
残りスキルポイント : 10
● 称号
異世界人 裸族 勇者の無精卵
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「なめてんのくぁっ!?」
全力で地面に叩きつける真似をすると、器用なことにステータス画面が地面に叩きつけられてぽよんと弾んだ。
なんなんだ、このコメント!
自分の名前くらい中学の時には漢字で書けたし!
職業とレベルは平均値も分からないからまだ我慢するにしても、性別と年齢! 大きなお世話だ!
あと、魅力は贈り物されて5なのか? どんだけ初期値低かったんだ!?
スキル欄なんか、どう見ても誰かの意思じゃねぇかこれ!
あれか、人のステータスをメッセージボードかなんかだと思ってんのか?
称号も裸族だの無精卵だの、生まれてねぇじゃねぇか!
そして、そして! 幸運!
「誰が幸薄い不遇の一般人ヅラだよ、人の事多分すぐ死ぬとか言うんじゃねぇぇ!」
どさっ、と。
オレが思わず天井を仰いで叫ぶと同時に、背後で何かが落ちる音がした。
「え?」
くるりと振り向いた先。
薄暗い廊下に、そこだけ光が降り注ぐかの如く。
夜空に煌めく三日月のような美少女が居た。
―――めちゃくちゃ、好みだ。一目見ただけで意識がくらっとするほどに、見とれてしまった。
息をすることも忘れて、ただただその顔と姿に魅入られてしまった。
闇夜でも輝く銀の髪を、おしりぐらいまで真っ直ぐ背中に流し。
額には、服に似合わぬ尖ったサークレットを填め。
赤く染まった顔に、青い瞳を大きく見開いていた。
愛らしい、どこか蠱惑的な赤い唇は薄く開かれて。
非常に豊かな胸に押し上げられた寝着の裾を片手でぎゅっと握りしめ、身体と押さえつけられた胸をふるふると揺さぶるように震えている。
足元に落ちている本が、さっき聞こえた落下音の正体だろうな、なんてどうでもいいことをどこかで考えてるオレを無視して。
そのまま、もう片手で、ゆっくりとオレの方を指差して。
胸の中を一瞬で満たし、心が締め付けられる程美しい声で。
「っ、きゃぁぁぁっ、変態!」
あろうことかオレのことを変態呼ばわりした。