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「っじゃぁけんなよ、このくそエルひゅ!」
「……」
周囲を野次馬の人壁に囲まれた、通りの一角。
その中心には、二人の少女がいた。
「てめーらエルひゅは、どーせわいらのこと馬鹿にしておるんぢゃろ!
ひげがくしゃいとか背がひくいとか、短足けもにょ顔、ぺちゃぱい毛だるみゃ、合法りょりとか馬鹿にしておるんぢゃろう!」
まくし立てるのは、オレの腹くらいまでしか身長のない、ずんぐりした丸っこい少女。
短い髪からもみあげから頬、あごの先まで綺麗につながった髭を生やし、鼻の下にもダンディな口ひげを生やした、会話から察するにドワーフ。
肌の色は肌色と言うより黄色がかり、胴も手足も太い。
顔立ちは整っていて、たぶん可愛らしいと思うんだがなぁ……強烈な360度ひげがなければ。
「……」
一方、突き飛ばされたかのように地面に腰を下ろし、まくし立てられてもドワーフを睨んだまま沈黙を貫くのは―――
「……あれ?
エルフさん?」
それは、森でスコートさんと共にゴブリンと戦った、女エルフさんだった。
おそらくはエルフ特有の、緑の髪に茶色がかった肌。
折れそうに華奢なすらりとした手足に、触覚のように二筋だけ長く伸ばした髪が寄り添う。
彫像のように整った美しい顔に浮かべた、きつい眼差しがこちらを向き―――
「―――!」
一瞬驚愕に大きく見開かれた後、ドワーフを見ていた時の三倍はきつい眼差しで、オレの事を睨みつけてくる。
えっ、何コレ?
もしかしてオレ、なんかすげー怒られてる!?
思い返せば、森で会った時もすげー睨まれてたし、ゴブリンキングを倒して分かれた時にもまだ睨まれてたような。
あれ、もしかしてすっごい嫌われてる?
ゴブリンが森を壊したのを、オレのせいとか思われてる?
「んー、なんぢゃお前?」
「あ、いや……えっと」
真下からオレにメンチを切ってくるドワーフに、どう説明したものか言いよどむ。
ただの野次馬……と言うには、エルフさんが知り合い?なんだけど?
でも当のエルフさんは、目の前のドワーフに向けていた以上のきつい眼差しでオレのことを睨んでる、んだよな。
どうすりゃいいんだ、これ?
「なんぢゃ、わいの邪魔してそこのエルひゅをかばい立てするんきゃ!」
「!」
「え、あの」
勝手に決め付けるドワーフに、あなたなんか目障りですとばかりに目を細めるエルフ。
すげー居心地悪いです、もう帰りたい!
「ほーかほーか、んにゃらまとめて相手しちゃるからかかってこんきゃい!」
「いやいやいや、ちょっと待ってよ、なんで戦うのさ!?」
このドワーフ、どんだけ短絡的なんだ?
そもそもの話の流れも見えないんだが、いったいなんで二人は言い合ってたんだよ?
「ん……?
ぶっ、ぎゅははははははは!」
「へ?」
「なんだお前、今日登録したばっかの新人ぎゃよ?
そんな素人がわいに勝てるわけねーぢゃろ、馬鹿じゃねーのこいつ!」
―――イラり。
あれ、なんだろう。
なんだかすっごく聞き覚えのあるセリフに笑い声なんだけど。
あれ、これってなんだろうか。
「オレはただ、エルフさんが知り合いだから、」
「ぎゃははははは、やめろ、笑い死ぬ!」
オレの弁明を聞かずに、その場で腹を抱えて転げ出したドワーフに。
エルフさんは、もはや憎悪のオーラが背後で揺らめくのが見える程にオレを睨みつけている。
「余裕で瞬殺ぢゃろ!」
―――そういえばオレ、時間なかったんだよね。
大会に出場するために、仲間を探していたんだよね。
こんなむかつくドワーフ、無視するに限る。
「エルフさん」
「?」
ドワーフは意識の外に締め出し。
膝をついて、地に腰を下ろしていたエルフさんの手を取る。
木々のような色合いからは想像もできないほど、その手は暖かくすべすべで、とても綺麗だった。
「もし森での事でオレを恨んでいるなら謝罪します。すみませんでした」
頭を下げる。
なぜ怒っているのか分からないけれど、まずは謝る。
「その上で、あなたの力を借りたいんです。
オレ、どうしても大会に参加して、優勝しなきゃいけないんです。
だから、形だけでもいいから、オレの仲間になって武術大会の予選に参加していただけませんか?
あなただけが頼りなんです!」
いよいよもって、物理的に肌がひりひりするほどのきつい視線を受け。
それでもオレは、エルフさんを見つめ返す。
「ぶふぅぅっ、ぶはっ、ごは、は、ばははははは!」
前門の殺人睨み、後門の馬鹿笑い。
ついでに周囲には、黒山の人だかり。
頑張れ、オレの度胸とか隠蔽とかそういうスキルさん達。泣かない、逃げない、笑顔でスマイルだ!
「ひゃめ、しぬ、ぶははははは!」
鳴り止まない馬鹿笑いをBGMに。
エルフさんは、一瞬たりともオレから目を逸らさずに。
「―――。」
小さく、頷いてくれた。
「―――ありがとう!」
やった、やったよ!
どうしてここまで恨まれてるのかも分からないけど、そもそもなんでここに居るか知らないけど、それでも協力してくれるってよ!
感激のあまりエルフさんを抱きしめる。
「ありがとう、ありが―――ぐふっ」
容赦なくわき腹をえぐる、エルフさんのボディーブロー。
ちょ、ちょーしこいてさーせん……
内臓が口から飛び出しちゃいそうです。
「し、新人が大会で、仲間もいないのに、ゆうしょ……!」
いつの間にか、背後のドワーフは地面にうずくまって痙攣していた。
……これ、今なら簡単に殺れるんじゃね?
「お、おもしれえ、おもしろしゃがゆうしょうぢゃ!」
―――うん、まぁ。
時間もないのに、こんなとこで殺人なんかしてる暇はない。
時間があればやるわけでもない。イラっとしたくらいで殺すわけがない。
「時間がないので、これだけで失礼しますね」
うん。殺すわけがない。
せいぜい、マジックで落書きするくらいだ。
具体的には、エルフの村でもらった旅道具の墨で、足にさらさらと『スクネ参上』と書いてやっただけである。
本当は、王道に則り額に『肉』が良かったんだが、うつぶせだったから仕方ないですね。
いまだに痙攣していて、いたずら書きに気づかないドワーフさんを見下ろし。
ふと、思いついたことを尋ねてみた。
「もしオレが優勝したら、どうします?」
「―――ひっ、ひぐっ、ひゃめ、ひゃめてへぇ……
ぉ、おめえが大会で優勝できたりゃ、なんでもしてやる、嫁でも奴隷でもなんでもなってやるうぅ……」
こちらを見上げることも出来ずにぷるぷるしているので、冒険者のプレートが見えずこのドワーフの名前は分からなかったけど。
まぁ別にいいさ。つい聞いちゃっただけで、何かを求めてるわけじゃないからな。
だからエルフさん。
そんな、森の木々を枯らすシロアリを見るような目線で睨みながら足を踏むの、やめて下さいませんかね。
オレは、一言も発しないエルフさんの憎悪の眼差しを受け止めつつ。
瀕死な心のHPに必死でエールを送りながら、大会受付のために再び街を走り出すのであった―――
新キャラげっとクイズ、結果発表~☆
> 1.新キャラ登場、仲間に加えて予選参加決定!
> 2.既キャラ登場、以下同文
> 3.新キャラ登場するも、仲間にならず予選参加失敗!
> 4.そもそも一話ではそこまで話が進まない
正解は、2番でした!
キャラとしては新キャラも登場しましたが、仲間に加えたのは既キャラということで2番とします。
ただし、まだ何かあって予選参加登録できてなかったら、4番だったってことになりますがね。
当選者―――というか、応募者は安定の0名でした。
残念★
今回、本当に文章が進まず。楽しみにしていて下さった方、申し訳ございませんでした。
この後、余裕があればちょろっと活動報告も書く予定でございます。




