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ディルエニア国王、ジオルグ=レディーオ=ウォード=ディルエニア。
娘であるアレット曰く、小狸。
……この世界にも、狸っているんだなぁ。なんて感想はさておいて。
『次は、優勝して私の前に立つことを願っている。
くれぐれも、予選に参加できなかった……なんてことのないように頼むぞ?』
そう言って立ち去った王様の頭に、今なら狸の耳が思い出せるようだ。
あの狸親父、絶対優勝してほえ面かかせてやるからな。ちくしょう!
「武術大会の予選、一緒に出ませんか?」
「ん? 私はすでに、午前の部で予選落ちしている。他を当たるんだな」
「武術大会の予選、一緒にいかがでしょうか?」
「なんだ、お前も出んのか?
オレも仲間と出るんだよ、予選で当たったらよろしくな」
「武術大会の予選、一緒に出てもらえませんか?」
「んー、なんぢゃお前?
……ぷっ、あははははははは!
なんだお前、今日登録したばっかの新人ぎゃよ?」
オレの胸に、よく見えるように吊るしたプレート。
掛け出しの冒険者を表す、緑のギルド証だ。
「そうですけど、いけませんか?」
「ぎゃははははは、やめろ、笑い死ぬ!
そんな素人が勝てるわけねーぢゃろ、馬鹿じゃねーのこいつ!
予選で瞬殺ぢゃろ!」
目の前のドワーフらしき男の馬鹿笑いに、ギルド内の視線が集まる。
偽装、交渉、度胸なんかのスキルに任せて表情を取り繕う。怒ってなんかいない、怒ってなんかいない。
まして、泣いてなんかいない。これは、ある意味で予定通りなんだから。大丈夫。
「じゃあ、オレが優勝したらどうします?」
「ぶふぅぅっ、ぶはっ、ごは、は、ばははははは!
ひゃめ、しぬ、ぶははははは!
お、おもしれえ、おもしろしゃがゆうしょうぢゃ!」
……ありがとう。
そんなに笑ってもらえるとは思わなかったよ。
くすくすと押し殺した笑いではなく、ギルドのあちこちから声に出た笑いが聞こえる。
ま、負けない。このくらいじゃ負けないんだからな!
「ひ、ひい……ひい……
ぉ、おめえが大会で優勝できたりゃ、なんでもくれてやる、奴隷でもなんでもなってやるよ!」
「そのセリフ、覚えてろよ!」
オレは典型的な捨て台詞を残して、笑いと蔑みの視線渦巻くギルドからそそくさと逃げ出した……
違った。首のプレートに記されたドワーフの名前だけしっかり憶えて、用事は済んだとばかりに悠々と歩き去ったのだった。
最後まで涙をこぼさなかった自分を、誰か褒めて欲しい。それで、慰めていただきたい。まじ泣きそう。
フィアの解放の条件に、大会の優勝を提示されたオレと勇衛。
予選受付が正午までということで、慌ててお城を駆け抜け予選受付に飛び込み。
午後の予選が四名一組のパーティ戦と知って愕然とした。
え、参加するつもりだった勇衛がなんで知らないんだよ?
だって拙者も本来は午前に参加するつもりだったし、受け付け開始まで条件は公表されないでござるから!
なんて会話を早口でかわし、大慌てで仲間を集めに走り出した。
勇衛には、アレットを誘いに行ってもらっている。
元々お城で別れた時にも、大会の予選が終わったら一度合流する手筈としていた。質問の答えを聞くために。
答えはまだ出ていないかもしれないが、こちらは事情を話せば予選くらいなら手を貸してくれるだろう。
問題は、最後の一人。現時点で全く宛てがない。
正確には三人くらい宛てはあるけど、時間がないからリーンスニルにもエルフの村にも行く暇がない。
全くのゼロから、あと一人を見つけないといけないのだ。
しかも、大会参加にはギルドの冒険者登録が必須。
なのでオレは、勇衛から金を借り受け(10倍返しと言われた。勇衛さんちゃっかりしてんな!)ギルドに走って最速で冒険者登録を済ませたのだ。
説明は、お金の力で全部パス。ギルド員さんに、予選後の夜に改めて説明してもらうようお願いした。
……賄賂ではなく、今日みたいな日限定のサービスメニューである。念のため。
で、つい先ほど。
わざわざ、初心者の証である緑プレートを首に下げての勧誘である。
大笑いされてすごすごと帰ってきました。いや違う、用事を果たし―――もういいか。すごすご帰ってきたよ、ふん。
ほら、ね?
すごい弱いくせに参加しようとするやつに興味が湧いた、とかさ。
自分も弱いけど出たいんです!とかさ。
そういう子が居ないかなーと思ったわけなんだよ。
だから、わざとらしくギルド入口の横の壁に背を預けているわけなんだが―――
誰も来ないよ!
誰からも声がかからないよ!
おかしい、こんなはずじゃなかったのに。
面倒見のいいお姉さんとか、弱くても冒険に夢見る初心者とか、自分を証明したくて大会に出たいぼっちとか、そういう人が来ると思ってたのに!
……あ。
(一応)面倒見のいいお姉さん → 勇衛
弱くても冒険に夢見る初心者 → フィア
自分を証明したくて大会に出たいぼっち → アレット
全員、すでに仲間にした後でした……
勇衛はそれほど手持ちがないらしいし、いっそアレットからお金を借りて奴隷を買うか?
奴隷を買って、身だしなみ整えて、冒険者登録して、受付―――
いや、駄目だ。奴隷購入は手続きとかに結構時間がかかるって勇衛が言ってた、そんな余裕はない!
なぜ勇衛が知っていたかはさておき、今の状況では奴隷は無理だ。
くそう、脳裏で狸親父が笑ってやがる。
ぜってー大会に参加してやるからな!
ちがう、ぜってー優勝してやるからな!
参加は目的じゃないんだ、危ないあぶない。
若干、混乱というか慌てつつ。
これ以上ここで壁に寄りかかって居ても、酒場を出る人達がいちいち笑いを堪えながら横を通り過ぎる視線に耐えられない。
うう、仕方ないからどっかいこう。
誰でもいい、立ってるだけでもいいんだ。誰か手を貸してくれ!
そんなことを考えながら通りに目を向ければ。
少し離れたところで、人だかりと騒ぎが起きているのに気付いた。
―――チャンス到来!
積極的に首を突っ込み、何でもいいから仲間をゲットだぜ!
次回、なるか新キャラげっと。
1.新キャラ登場、仲間に加えて予選参加決定!
2.既キャラ登場、以下同文
3.新キャラ登場するも、仲間にならず予選参加失敗!
4.そもそも一話ではそこまで話が進まない




