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「ああっ、おやめください、冒険者様。
そのような事、女神様は望んでおりませんわ」
「あんたらの教団では、女神の生存を認めてないんだろ?
だったら、望むも望まないもないと思うけどな」
「そ、そんな……
ああ、お願いです皆様、どうか女神様の使いである天使様の所へお導き下さい」
法衣に身を包んだ赤髪の美女を片手に抱き、もう片手で剣を突きつける。
まごうことなき、人質スタイル。
これでオレも、冤罪投獄ではなく、立派な犯罪者である。
なんかもう、色々吹っ切れるよな。
オレ、フィアと合流したら、ディルエニアからとんずらするんだ―――!
そんな脳内フラグを立てつつ、人質王女パワーで障害を退ける。
継承権がないとは言え、第四王女の肩書は無視できるものではない。
しかもここは教団の建物ではなく、王城の方の牢屋だったらしい。兵士の中でも比較的偉い人に話を通し、王城なり大聖堂なりにいるフィアのところへ案内するよう要請した。
要所要所で入るアレットの懇願(と言う名の合いの手)もあって、居場所を知っている人を求めて徐々に偉い人へ話が広がっていく。
やがて―――
アレットが相談したという、教団の偉いさんを介して。
フィアの居場所を知る者と、話をできることとなった。
案内される先は、フィアの居場所ではない。あくまで、居場所を知る人間、だ。
アレットを抱えたまま、オレ達3人は案内に従い大きなテーブルの置かれた会議室のような場所へ通された。
もちろん、罠の可能性はある。と言うか高いんじゃないかな?
王女を人質に城内を歩いているのを見られているから、下手したらアレットごと消されるかもしれない。
―――いや、さすがにそれは考えすぎか。
いずれにせよ、一筋縄でいくとは思っていない。
念のため、通ってきた城内の道を頭に思い浮かべ、逃走経路を考える。
鍵開けは出来ずとも、足の速さだけは自信がある。まぁなんとかなるだろう……多分。
行き当たりばったりになったなぁと思うけど、フィアが捕まり国家反逆罪とか言われたから仕方ない。
第一目的は、フィアの救出、合流。
第二に、アレットを仲間に加える。
その後が、国や教団としてのバックアップのお約束って感じかな。
でもフットワーク重そうだし、三日……あと二日半で魔王と戦うには、兵士の動員とかは無理かもしれないなぁ。
そんなことを考えているうちに、廊下の方から数名の気配が感じられ、分厚いドアが叩かれた。
「お邪魔していますよ」
オレの返事にドアを開けて入ってきたのは、二人のおっさんだった。
一人は背が小さく不安と緊張を顔に浮かべた、しかし豪華な服と簡素な王冠を身に付けた小動物っぽいおっさん。
もう一人は、背も横幅も大きく、アレットのものと同じデザインで金の法衣を身に纏った神経質そうなおっさん。
王様かそれに準ずるものと、教団側の比較的偉い人。って感じなんだろうなぁ。
どうやら、罠の可能性は回避できた……のかな?
「お初にお目にかかります。
私は女神の使徒としてこの地に降り立った『勇者』スクネと申します。
我が仲間フィレーアと私たちの身柄の解放、並びに魔王討伐への協力を願いたく参上致しました」
「我が娘を人質に取ってか!」
小動物っぽい方のおっさんが、静かな声で叫んだ。
なるほど、威厳も圧力も感じないけれど、この小さい方はこの国の王様なんだな。
「アレット様には、私の素性と目的などを丁寧に説明し、ご協力いただいたのみでございます。
この剣はあくまで魔王を討つ我が身を護るため。王の御前でのご無礼、どうかご理解いただきたい」
剣は、まだ仕舞っていない。
アレットを斬るつもりはなくても、武器を納めた瞬間に兵士に飛びかかられるかもしれなかったからだ。
あくまで、護身用。
「亡くなられた女神様の使徒を名乗るなど、貴様もあの天使もどきも許されざる大罪である。
即刻罪を認め、聖賢の名の下に断罪されるがいい!」
今度は大きい方のおっさんが、状況も人質も考えずにがなり立てた。
こいつら……特に聖職者の方は、真摯な対応とか無駄そうだな。
「……殺されろよって言われて、殺されるわけないだろ?
時間がもったいないから、回りくどい話は辞めだ。まずは状況の確認からさせてもらおう。
まず二人とも、フィア―――フィレーアの話した内容を聞いていて、女神の使徒が現れると聖賢教団の根底が覆されるからフィレーアを捉えてオレ達も消そうとした。
これは、間違いないな?」
「犯罪者風情が、なんと不遜な!
女神様は我らが祖たる初代聖賢様にそのお力を譲り―――」
「あんたらの捻じ曲げた教義なんてどうでもいいんだ!」
言葉と共に拳を振り下ろす。
一撃で、会議室にあった大きなテーブルが轟音と共に割れた。
響き渡る轟音に扉が開かれ、慌てて兵士達が入ってきて二人の周りを囲む。
流石にあれだけでかい音を立てると廊下まで聞こえるんだな。防音は完璧ではないらしい。
本来会議をするときには、魔術で音の遮断とかするのかもしれないなぁ。
「くだらない。
あんたら二人を殺したければ、とっくにそうしている。
下がらせろ、余計な裏話を聞かれたくなければな」
「な、な、な……!」
「者ども、下がれ。
ここは、私とアジール卿だけで良い」
絶句する聖職者様と違い、王様は静かに兵達に告げた。
食い下がる兵達を強い言葉で追いやり、静寂の戻った部屋で王様が静かに続ける。
「いかにも、私もアジール卿も、フィレーア……殿の語った話の内容を聞き及んでいる。
その上で、国家としても、教団としても、フィレーア殿を幽閉することを選んだ。
危険を呼びこまぬためにも、真偽を知るためにもな」
「違うだろ。
教義の正当性を守ることで、自分たちの利権を守りたいからだろ?」
「きっ、きさ―――」
「アジール卿」
王様の言葉に、真っ赤な顔をした聖職者様が口を噤む。
宗教上の権力者と言えども、王様の前では大人しくなるらしい。
これが、本当に宗教を盲信している狂信者だったら、こうはいかなかったのかもなぁ。
生臭坊主だからこそ、王様には逆らえないのかもしれない。どうでもいいけどな。
「教団の腹積もりまで、私は知らない。
だが、この国を守るためには、必要な措置であった。
だからフィレーア殿は、特別な場所に幽閉している」
「フィレーアを解放して欲しい。アレット様と交換だ」
「ならぬ。
例え、そのアレットが本当に人質だとしても、国を脅かす危険を冒すわけにはいかない」
王様が言外の意味を込め、堂々と言い放つ。
あ、これフリってばれてるっぽいね?
演技とか取っておけばよかった。スキルポイント残ってないし、今更なんだけどさ。
「フィアは、大事な仲間なんでな。
いざとなったら、城中敵に回しても取り戻す」
へっぽこで、この世界ではまだ出会ってさえいないフィア。
それでも、大事な仲間だと胸を張って言える。
だから、本当に他に道がないのであれば、敵対することも辞さない。
「出来るかね?」
推し量るような王様の姿。
そこに、最初に感じた小物っぽさや不安は見られず、威厳や威圧感のようなものが滲みだしている。
「二日後ならば」
だが負けられないんだ。真っ向から睨み付け、真っ直ぐに答える。
今の力量では、城中相手に立ち回るには不安が残る。特に防御面が、万全の状態とは言えない。
それでも、二日後なら。あと二日あるならば。
オレは、この城中の全てと敵対してでも、フィアを取り戻す。




