表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三日で終わらす異世界転移  作者: 岸野 遙
一日目 ~大会予選にパーティを~
45/60

1/10 10:55

「おや、そこの御仁。お困りでござるかな?」


 牢屋の手ごわさを前に絶望に打ちひしがれる北村 宿禰、そこに掛けられる怪しい声!


 にやにやという音が聞こえてきそうな勇衛の声に、一瞬ためらいつつ返事をする。


「こ、困っているのです、旅のお方」

「ほうほう、それはそれは!

 お困りでござるか、それは大変でござるね」


 なんだかとっても嬉しそうな勇衛。

 非常に、いらっとくる―――いや、遊んでる暇はないな。


「すまん勇衛、時間がもったいない。手を貸してくれ」

「貸し一で、よろしいでござるね?」


「……わかった」


 上機嫌な勇衛の声に、絞り出すように頷く。


 こいつに対して借りとか、一体何を要求されるか分かったもんじゃねぇ。

 罵れとか、罵りながら叩けとか、罵りながら踏めとか―――!


 あれ、労力としては大したことないかもしれんな。

 精神的には変態だけど。


「よーし、拙者の見せ場でござる!」


 何事か、ごそごそと物音がし。


「じゃーん!」

「……それは、なんだ?」


 勇衛が取り出した何かを見て、アレットが引きつった声で尋ねる。

 なんだ、何を取り出したんだ? オレから見えないのが、非常に不安なんだが!


「むふー、危ないから離れてるでござるよ。

 そぉれ!」

「う、うわー、馬鹿お前、こんなとこで!」


 半ば悲鳴を上げながらこっちへ逃げてくるアレット。

 いい加減騒ぎを聞きつけたのか、入口より向こうの兵士が動く気配がして―――



「ひゃほーでござるー!」



 勇衛の歓声をかき消すように、爆音が牢屋に響き渡った。


「って、爆発だと!?」

「なんなんだあいつ、あいつなんなんだ!」


 オレの牢の鉄格子に捕まって爆風をやり過ごしたアレットが、すごい形相でオレに詰め寄る。


「なんなんだって―――変態、かなぁ」

「答えになってないだろ、それ!?」


 いや、だってあいつ本当に変態なんだもの。


 そんな会話をしているアレットの横へ、勇衛が姿を現す。

 鎧と盾は奪われているので、その中に着ていた着物姿で。

 左胸はフィア以上に大きく迫り出したまま、右胸は鋼の盾よろしく真っ平らになっていた。


「あ、これでござるか?」


 何も言わずとも、オレの視線を受けて得意げに頷くと。


「拙者、だいなまいとぼでぃに憧れてたでござる。

 だからエルフの村で、爆弾をもらって服の内側に詰めてたでござるよ」

「「馬鹿だろ、お前馬鹿だろ!?」」


 オレとアレットの叫びが綺麗にハモるのを、恍惚とした表情で聞きながら。


「さ、師匠。次は師匠の脱獄でござる。

 兵士がすぐ来るから、ちゃっちゃと行くでござるよ」


 勇衛は指先に小さな炎を灯すと、左胸から取り出した爆弾に火を着けた。

 アレットが必至で廊下の向こうに逃げる。


「お前、そんなもんを服の中に入れて、もし爆発したらどうするつもりだったんだよ!」


 逃げ場のないオレは、少しでも距離を取るために牢屋の端に下がって身構え。

 牢屋の鉄格子の隙間から偽おっぱいこと爆弾が転がりこんできた。


 あれ、どこかで似たような光景を見たような。


「拙者の胸は、この程度の爆発ではびくともしな―――」


 どがーんと、爆音にかき消される勇衛のアホ発言。同時に、脳裏をよぎった光景も消し飛ぶ。

 もう、色んな意味でどうしようもない。救いようがない。


「これにて師匠の救出完了、貸し一でござる」

「ああ……

 脱獄できたことについては、お礼を言っておくよ。ありがとう」


 勇衛のアホさは救いようがないが、勇衛のおかげで救われたことは事実だな。

 だから、お礼を言いながら牢屋から出た。


 魔力は封じられていても、身体の動きに問題はない。勇衛もオレも、爆発を凌げたからな。

 勇衛への借りの事は意識的に頭から締め出し、入口を向いてオレ達は廊下に並び立つ。


「なんなんだよ、お前ら平然として一体なんなんだよ。

 絶対あたし選択間違えただろ、なんでこんな奴らが勇者なんだよ!」



 後ろからアレットの悲鳴にも似た訴えが聞こえたので。


「まあ、三日で魔王を倒さないといけないんだ。

 無茶苦茶なんて、前提条件だろ?」


「貸し一でござるー!」


 嬉しそうに雄叫びをあげる勇衛の横で、オレは苦笑交じりにアレットに答えるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ