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鑑定、というスキルがある。
もちろん、オレも取っている。これで、会う人会う人、全て強さが丸見えだ!
―――そう思っていた時期もありました。
ていうか、そう思っていたから取りました。MAXのランク10。
ついでに、勇者とばれないために隠蔽もランク10にしてあるんだが、これはまぁ別の話なので今は置いておく。
この鑑定スキル、森を走りながらや城門での入場待ちの時なんかにいくつか試してみたんだが、思っていたのとちょっと違うんだ。
まず、一番の勘違いが、これは持っているだけで効果を発揮するパッシブスキルではなく、自分の意志で使うアクティブスキルであるということ。
分かりやすく言うと、鑑定魔法って感じだった。
つまり、対象に対して意識してスキルを発動する必要があり、スキルなので一度使用したら次に使えるようになるまでの時間、いわゆるクールタイムが存在する。
そのクールタイムは、ランク10で5分。
人であれアイテムであれ、最大でも5分に1回しか鑑定できないってことだ。
当初は、鑑定を身に付けて病や呪いを抱えて苦しんでる奴隷とか見つけて、助けて仲間にしちゃおうとか考えてました。
ええ、考えてましたとも! 王道ですからな。
しかし、鑑定にクールタイムがあるとなると、胸の内に秘めた内容は見ることができない。
5分に1回だ。3人見ようとしたら、それだけで10分。
素敵な仲間を得るために費やす時間は仕方ない。だけど、奴隷全員を品定めすることは難しい。
やっぱり一人くらいは、奴隷の女の子とか懐かせたいよね! という浪漫もあるんだけど。どうするかは保留だなー。
同様に、集団と戦闘する場合も、見れるのは5分に一人。
誰を見るか、というのも大事な選択になりそうである。
ちなみに、ランク1の場合はアイテム限定で得られる情報も少なくて、クールタイムは驚きの2時間。スキルランクって偉大でした。
なぜ突然こんな事を言ってるかと言えば、アレットと話しながらこっそり鑑定してたからなわけだ。
この後に強敵が立ちはだかるかもしれないし、さっさと使ってさっさとクールタイムを消化しないとね。
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■ 詳細ステータス
● 基本情報
名前 : アレット=エスターン=フェダ=ディルエニア
職業 : 聖職者
レベル: 36
性別 : 女
年齢 : 19歳
● 能力値
筋力: 216
体力: 108
敏捷: 302
器用: 144
知力: 518
精神: 720
魅力: 680
幸運: 396
● スキル
2 武術
2 賢人
4 祝福
2 敏捷補正
4 精神補正
5 魅力補正
1 精神耐性
4 疾病
2 気配感知
4 魔力感知
4 魔力操作
2 文字理解
2 看破
3 交渉
1 度胸
2 礼儀作法
2 黄魔術
4 白魔術
3 生活魔術
1 高速詠唱
2 高速回復
4 魔力増加
2 巨乳化
● 称号
聖職者 ディルエニア第四王女 妾の子 燃える者 一人身
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「巨乳化だと―――!?」
なんだこれは、なんてけしからんスキルだ!
「巨乳でござるか!?」
「は、はああ?」
あ、やべえ。
思わず漏れ出たオレの言葉に、二人が食いつく。
よく見えないが、きっと二人とも全く異なる顔をしているはずだ。
「……おい、キタムラ スクネ。
お前は、真面目な話の最中に、突然何を口走っているんだ?」
ゆらり、と。
上体を揺らして近づいてくるアレットは、まるで赤い炎の如く。
「きょっ、きょ―――
今日の、入会式、だといいなぁ」
「……、で?」
必死で考えた聞き間違い説が通じねぇ!?
アレットが、鉄格子越しにオレの目の前に立つ。
小柄だなーとか、巨乳化スキルを持ってる割には大きさ普通くらいかなーとか、でもゆったりした聖職者の服を着ているから分からないだけかなーとか。
そんな、現実逃避した思考が頭をよぎるのをつばと共に飲み込み。
「……な、なんでしょうか」
「ふん……
時間がないんだろ? とりあえず、今は不問にしてやる」
王者の風格を纏わせたアレットさんが、威圧とともに執行猶予を下さった。
い、生きた……セーフだ……
「アレット殿は巨乳でござるか?
拙者、乳にはちぃとうるさいでござるよ」
「悪かったな、でかくねーよ! 普通だよ!」
普通らしい。残念。
いや、そうじゃなくて。
アレットと話し始めてからずっと黙っていた勇衛が余計な事を言ったせいで、王者の威圧が再び戻ってきた。
どーすんだ、これ。
一度ぐだぐだになった空気は、なかなか元に戻らない。
勇衛がいるなら尚更だ。
よくある異世界ものなら、場面転換とかして誤魔化すんだろうけど。ここは現実、場面は勝手にスキップしない。
なのでオレは、
「さっきの質問については、よく考えておいてくれ。
まずはフィアを探してここから出るとしよう」
―――さっきのワンシーンをなかったことにした!
「アレット殿は巨乳に含まれるか否かの論争についてでござるか?」
「うるせーよ、勇衛は黙って脱獄してろ!」
「むう、師匠が冷たいでござる……
いいもん、拙者勝手に脱獄しちゃうもん。師匠の事は助けないもん、でござる」
床をかりかり掻きながらぶちぶち拗ねる勇衛をほっといて、まだ幾分か目つきの険しいアレットを見上げる。
「勇者の仲間か、聖賢か。
フィアを助け、ここを出た時点で答えを聞かせてくれ」
「わかった、考えておく。
んで、ここから出られるのか?」
「やってみるよ」
お話は、そろそろ終わりでいいだろう。ここからはアクションターンだ。
オレは右手に力を集中させると―――
「……あれ?
魔術が使えない?」
「馬鹿か、お前は?
牢屋で魔術が使えたら、囚人に逃げられるに決まってるだろう」
「え、ええーっ」
いや、言われてみれば当然なんだけども!
魔術禁止の首輪とか、魔力遮断の結界とか、牢屋にはそういったアイテムが定番だけども!
「ど、どーすんだこれ。
魔術も使えないとか、脱獄できないじゃん!」
ちくしょう、森で勇衛と張り合った際にスキルポイント全点使い切ったんだよ!
勇衛に勝つために、昼飯を奢らせるために。そして、勇衛を罵らされるのを回避するために!
鑑定や交渉は持っているが、鍵開けとか罠解除とかの探索系スキルは1つも取っていない。
というか道具がないから、スキルがあっても駄目かもしれないけど。
「やべぇどうしよう、牢屋って手ごわい!」
「馬鹿だなお前は、当たり前だろ?」
慌てるオレに突き刺さる、アレットの呆れたような冷たい眼差し。
北村 宿禰、牢屋に死す―――!?
おかしい。
今話で脱獄してフィアの下に向かうはずが、鑑定しただけで終わってしまった。
なぜ、どうしてこんなことになってしまったんだ―――!!




