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三日で終わらす異世界転移  作者: 岸野 遙
一日目 ~大会予選にパーティを~
43/60

1/10 10:49

「あたしの名前はアレット。

 アレット=エスターン=フェダ=ディルエニア、この国の第四王女だ」


 牢屋の薄暗さがそう見せるのか、それとも彼女が持った生来の輝きか。

 うすぼんやりとした明かりの中に歩み出した彼女は、まるで聖女のように美しかった。


「王女とは、また大物でござるな」

「いいや、教団に帰属し継承権を捨ててるし、第四王女なんて中途半端な奴は誰も見向きもしないぜ」


 吊り気味の眼をもう少し鋭くして、精々が貴族の婚姻道具だなと自嘲的に笑うアレット。

 短く切りそろえた赤い髪が、揺らめく松明のように揺れてその顔を彩る。


 なるほど、継承権はなくとも王族。

 お家騒動にはならなくても、王族の血を取り入れたい貴族からは大人気ということか。

 そうでなくても、すごい美人―――いや、可愛らしいと言った方が正しいかな? 怒りそうだけど。


「お言葉に甘えて、猫被るのはやめるぜ。お前らもタメでいいぞ」

「それはありがたいな、オレ達もそうさせてもらうよ」


 回りくどい話をしたくなくて、謎の教団員であるアレットに直球で話をしたんだ。

 口調だなんだで余計な手間は取られたくない。


 敬語くらい、使えますからね?

 これはお時間を節約するための方策であるからして、敬語もまともに使えない今どきの若い者ではございませんからね?


「いいえ、拙者は礼節を弁えた武者である故、師匠と一緒にされるのは甚だ心外でござる」

「なんで急にお前が取り繕ってるんだよ!?」


 くそう、手が届かないのが悔しい。


 笑う勇衛とアレットに咳払い一つし、話を促す。


「理由と目的だったな。

 てっとり早く話すぞ、聞きたい事は後でまとめて聞いてくれ」


 オレが黙って頷くと、そんなオレ達を見てアレットも小さく頷いた。


「まずあたしの目的や望みだが、聖賢になる、あるいは聖賢以上の存在になって、腹違いのお偉いお兄様達を見返したい」


 お偉いお兄様。

 言葉にこもる鋭い刺と、あえて閉じられた瞳がその言葉に宿る感情を物語る。


「だが、今のあたしの実力ではせいぜいが一流止まりだ。

 悔しいが、今の聖賢はおろか、次期聖賢候補の第二王子にも敵わない」

「第二王子殿は、王族最強の魔力と白魔術の適性を持っているでござるよ」

「腹の中は真っ黒だけどな!」


 勇衛の説明に、吐き捨てるようにアレットが続ける。

 細く開いた目から放つ怒りと憎しみで、牢屋の暗さが深みを増した気がした。


「最初、フィレーア様の話を聞いた時に決断すべきだったんだ。

 だがあたしは迷ってしまった。誰かに相談しようと、弱さを見せてしまった」


 俯き、前髪がアレットの憎しみを覆い隠す。


「その結果が、このザマだ。

 聖職者ともあろうものが、自分たち教団の利権を優先して女神の使いを捕らえた。

 都合の悪い真実を隠し、魔王を倒す機会を蹴って、今の状況が変わらず続く事を望んだ」


 だが前髪それは、瞳を隠しただけで、心と声に込められた感情を覆うことは出来ていない。


 もしかしたら、教団への期待もあったのかもしれない。

 フィアの事を相談しようと呼んだ相手を、信頼していたのかもしれない。


 それが裏切られた、その落胆と怒りの深さ。

 お偉いお兄様達達への、憎しみにも似た強い感情。


「だからあたしは、あんたらと一緒に行きたい。

 魔王を倒した一員として英雄になりたい」


 言葉だけを聞けば、子供が語る夢のようなきらきらした呟き。

 しかしその内に秘める力は、強くて昏くて。


「いくつか、聞いてもいいか?」

「構わないぞ、なんでも聞いてくれ」


 まだ声に暗さを残しつつも、気楽に答えるアレットに小さく頷く。


「アレットは、兄達を、殺したいのか?」


 昏い声を発するアレット。

 その闇がどれほどか、オレには分からない。


 だから、問う。愚直に、真っ直ぐに。


「殺したいとは思ってないつもりだ。

 確かに恨んでいるし憎んでいるけど、どろどろの権力闘争なんてまっぴらごめんなんだよ」


 オレの問いかけに、アレットが真っ直ぐにオレを見返してくる。

 髪も瞳も、薄暗い廊下にあって赤々と燃えるように輝く。


「あたしはただ、妾の子でも、ここに生きているんだって示したいんだ」



―――良かった。

 気づかれないように、安堵の息をつく。


 流石に、兄弟を殺したいとか言われたらどうにもできなかった。色んな意味で、それは危なすぎる。


 存在を示したいと言うなら、むしろそれは当然の事だと思うし、オレにもよく分かる。

 そういう気持ちがなければ、ネットゲーのトッププレーヤーなんかやっていられないもんな。


「オレが魔王と戦うのに、仲間として着いて来たい……ってことでいいんだよな?」

「そうだな。

 でも力不足なら、後方支援で構わない。

 お前が魔王を倒した時、あたしも仲間として活躍した、ということにしてくれればいいんだ」

「魔王を倒したいわけじゃないのか?」

「……あたしも、俗物な聖職者だからな。

 魔王を討ち倒すべしって気持ちより、周りを見返したいって気持ちの方が強いんだよ」


 そもそも、あたしなんかに魔王が倒せるわけないしな。

 そう呟くアレットの顔は、寂しそうにも疲れたようにも見えた。



「アレット」

「なんだ?」


「魔王を倒す仲間になるのと、聖賢となるのと、どちらかを選べるとしたら、どうする?」


「な―――」


 赤い瞳が、驚愕に見開かれた。


 この国で、聖賢になるということ。

 話に聞いただけだが、その意味が果てしなく大きい事はオレにも分かった。


 周りを、兄弟を見返したいなら、これ以上の事はないだろう。


「……きついことを聞いてくる奴だな」

「仲間にするには大事なことだからな。

 魔王と戦う意思が、どれほど強いか」


 オレの言葉に、俯いて考え込むアレット。

 しばしの沈黙が、牢屋に下りる。



 勇者オレの力は、こう言ってはなんだが、異常だ。

 正確には、スキルポイントを好きに割り振れるって事が、余りにも異常だ。


 オレと一緒に来てしっかりレベル上げをすれば、聖賢くらいなれるんじゃないだろうか?

 少なくとも、取得に特別な条件とか血筋の必要なスキル以外は、全部とれると思う。

 どれだけ強力なスキルでも、どれだけ高レベルなスキルでも。


 魔王と戦うための修行で、魔王を倒さずとも目的を果たしてしまったなら。

 その時に足を止めるようでは、背中を預けることはできない。


ま、まにあったー。せーーーふ。

ぜえはあ。


こほん。アップが遅くなりまして、申し訳ございませんでしたよ。

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