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2畳程度のワンルーム、お風呂はないが壺は完備。ベッドもお部屋に備え付け。
壁や天井は分厚く防音性に優れ、しかし一面だけは全面が格子に覆われ通気性も抜群です。
過度の眩しさを避けた天井照明は薄暗く、穏やかな眠りと暗い未来を暗示してくれます。
独りで始める牢屋生活inディルエニア。
勇衛も近くの牢に入れられ、フィアの居場所は現在不明。状況も先行きも、牢屋の照明のように薄暗い。
しかし、初回の冒険に続いて、またも牢屋生活かぁ。
前回みたいに―――
……ああ、そうだ。
近くの牢屋にいた猫耳のメイド先生が助けてくれたんだった。
リメルの解呪を条件に協力してもらい、それから一緒に夜の森でパワーレベリング。
城に戻った後は一悶着あったが、見事リメルの呪いを解いて―――
魔王に、殺された。
いや、自爆だから正確には殺されてない気もするんだけど。いずれにせよ、そこで冒険が終わったんだ。
ため息一つ、苦笑も一つ。初回の冒険を振り返るのは、女神の所で散々やったからもういい。
牢に入れられるのは二度目。振り返るより、前回の経験を活かそう。
まずは、状況を整理してやれることを考えなくちゃな。
まず、現在の状況だ。
オレは国家反逆罪ということで、兵士達に捕まった。
殴って逃げ出すことも出来たが、フィアがすでに捕まっているみたいなのでそれは得策ではない。
なので、フィアを救出し、疑いを晴らすため、オレは連行されることにした。
そうして今、エルフの剣と鎧を取り上げられ、一人で牢に放り込まれている。
勇衛は、オレと一緒に捕まって、同じフロアまで連行されて来た。
多分、隣か2つ隣か、すぐ近くの牢屋に放り込まれていることだろう。
捕まる時にオレは、勇衛は道案内なので無関係だと訴えた。
だがその発言は、ほかならぬ勇衛自身によって否定された。
曰く、師匠の濡れ衣は弟子が脱がすんだとか。
勇衛が言うと変態な意味に聞こえてしまったが、オレは悪くないと思うんだ。
あいつひょっとして、牢屋に捕まって拷問されるとかを夢見ているだけなんじゃ……
いやいや、そんなはずはないよな? 仲間で弟子を信じていいよな?
今与えられている情報は、2つ。
フィアが『失われた女神の使途を名乗った』ということ。
それから、オレ達は国家反逆罪と言われていること、だ。
国家への反逆なんて、穏やかじゃない。
失われた女神の使途―――この言葉がキーワードなんだろう。
女神は、失われた。だから女神の使途を名乗ることが、大罪となる。
まあ、なんだ。
考えるのは必要だが、考えすぎて時間を使うのも問題だ。
情報を仕入れて、考えても分からない部分はあっさりと諦めよう。
誰かに聞けば済む話だ。
そんなわけで、誰かに聞くとしよう。
「勇衛、聞こえる?」
「ここにござるよ」
鉄格子の側に腰を下ろして呟けば、少し離れた場所から返事があった。
2つ隣の牢、くらいかな? 少なくともすぐ隣じゃないようだ。
というか、気配感知を使えば牢屋周辺の気配は丸わかりだった。うん、位置から言って2つ隣だな。
まだまだスキルを使うことに慣れてないなぁ。ちゃんと練習して慣らさないとな。
「大会行ってくれて良かったのに、付き合わせてすまんな」
「いいでござるよ。
拙者、一度は謂れのない罪で牢屋に入れられて、私刑と称して牢番から卑猥な事を―――おっと」
「おっとじゃねーよ!」
見える範囲に牢番は居ないが、他の人間が居ることは気配で分かっている。
今の発言が聞こえてたらどうするんだか、色んな意味で油断ならない奴だ。
勇衛の怖いところは、分かっててやってるかもしれないとこだよな。
まさか、この状況下で挑発しているとは思いたくないけど。
「師匠、大会予選の受付には間に合うようにお願いするでござるよ」
「お前、余裕だよな」
「むふー、師匠がついてるでござるからね!」
牢屋に放り込まれても、ここから出れることについては疑っていないらしい。
信頼なのか、何を考えてるのか。相変わらず掴みどころがない奴。
「ところで勇衛、オレと言うかオレの仲間が、女神の使途を名乗ったら国家反逆罪にされたみたいなんだが。
心当たりとか、あるか?」
「んー……
師匠とそのお仲間が女神の使途である、というのは真でござるか?」
オレの質問に、ある意味で当たり前の事を訪ねてくる勇衛。
「ああ。オレは、女神に頼まれてこの世界にやってきた。証拠はないけどな。
大聖堂に来ていたフィアは元々女神の眷属で、オレの仲間として一緒にやってきたんだ」
「なるほどでござる。
師匠の言葉が全て真実だとしたら、確かにディルエニアにとっては由々しき事態でござるな」
「一体、どういうことなんだ?」
「この世界には、いくつもの宗教があるでござる。
拙者の故郷しかり、この聖賢教団しかり」
「ああ、そうだろうなぁ」
直接神様が姿を現して力を振るっているわけじゃないんだ。
人の解釈の数だけ宗教が出来ても、なんら不思議はないだろう。
「聖賢教団の教えでは、女神はもう死んでるでござる」




