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三日で終わらす異世界転移  作者: 岸野 遙
一日目 ~大会予選にパーティを~
39/60

1/10 10:29

 開け放たれた門扉にも、複雑な意匠のレリーフ。

 大通り並みに太い石畳の先には、白く煌めく荘厳な建築物がそびえたつ。

 前面には煌びやかに光を反射する大きなステンドグラス。

 四方には白地に青の縁取りをされた尖塔が高くそびえ、中心にはまるで時計塔のように大時計と鐘が金色に光り輝いていた。


 すぐ隣に建ち大きな通路で繋がっている王城や、大会本選の会場でもある東の闘技場とあわせ、ディルエニア三大建造物と呼ばれるディルエニア大聖堂。

 降り注ぐ光の中、堂々たる佇まいで来るものを否応なしに圧倒する。



 大聖堂と呼ばれるだけあり、大会の予選日であろうと関係なく道行く人は多い。

 人の流れに乗って、オレ達も大聖堂の中へと向かう。

 フィアと合流するのは大聖堂前にしたが、一応この中も確認しておくためだ。

 もしかしたら、早く終わったフィアが中で座ってたりするかもしれないからな。


 大扉を抜けると、美しく荘厳だった外観とは少し趣を変え、静かで落ち着いた雰囲気に包まれる。

 外から真っ直ぐに続く道をそのまま進み、礼拝の間へ向かうオレ達。

 建物に入るまでは聞こえていた参拝客達の声も、場の空気のせいかいつしか誰も口を開くものは居なくなっていた。

 オレ達もまた、無言で真っ直ぐに進む。



 たどりついた礼拝の間は非常に広い空間だった。天井が高くて、全体で体育館ぐらいあるんじゃないだろうか。

 前方にはそれほど高くない段があり、その中央には女性が祈りを捧げるポーズの像がある。

 窓には濃い目のステンドグラスが填められ、天窓からの光が降り注ぐように女性像に当てられていた。


 特に翼などはないから、女神の像なのかもしれない。ジャージかどうか、服装まではここからじゃよく見えないんだけどな。

 視力アップ系のスキルも取った方が良かったかな……次回忘れないようにしよう。


 この礼拝の間で、どれほどの人間が一度に祈るのだろうか?

 人々は部屋の前の方まで進んだ後は自然に辺りの長椅子に散っていき、思い思いの姿勢で前方の像に向けて祈りを捧げていた。


「すごいとこだな」

「ディルエニアの大聖堂は、全世界の聖賢教団の総本山でござる。

 教団勢力自体はそこまで大きいものではござらぬが、それでも総本山は伊達ではないでござるよ」

「聖賢教団?」


 知らない単語が出てきたな。

 察するに宗教の名前なんだろうけど、そう言えばこの世界の宗教についてを全然考えてなかった。


 そんなことを考えながら、部屋の端の方、周りに人が居ない場所を選んで勇衛と並んで座る。

 祈る必要はないんだが、何もしないで出るのも気まずい。食事時も含めてずっと座ってなかったし、ちょっとだけ休憩。


「師匠は、信仰とか興味なさそうでござるな」

「ああ、特に特定の宗教を信仰しているとかはないな」


 日本人として、宗教の認識は適当だ。

 正月の初もうでや墓参りはするし、クリスマスもケーキぐらいは買って食べる。

 自分たちに楽しい、都合がいいとこだけを選びとった、ジャパニーズハイブリッド宗教である。


 ちなみにガイレインマギアのプレイヤーとしては、オレはライトなイスティア派閥に属するわけなんだがその説明は我慢しよう。

 ヘビーなイスティアンとは全く違うし―――いや、だから関係ないマギアの話は割愛だ。軽く一昼夜くらい過ぎてしまう。

 意識を切り替えるために、勇衛の信仰も聞いてみることにした。


「勇衛こそ、信仰してる宗教とかあるのか?」

「拙者は……難しいところでござるなぁ」


 煮え切らない返答にそちらを向くと、勇衛は小声で自分の故郷のことを教えてくれた。


「拙者の故郷の元首は巫女神と呼ばれており、他国で言うところの王様 兼 神様なのでござる。

 それゆえ、故郷に生まれたものは自動的に故郷の国そのものと言う信仰を持つことになるのでござるよ」

「なるほどなぁ……女神とは関係ないってことか」


 女神と邪神の戦い、としか聞いてないけど、他にも色々神様が居たのかもしれないな。

 そんなことを胸中で呟いたオレに対して、まるで答えるように勇衛が続ける。


「故郷の歴史研究者の間でも、巫女神自身も創世の女神の眷属の一人であるとか、戦いに敗れた女神が最後に残した力の塊であるとか、色々な説があるでござるよ。

 中には、巫女神こそが創世の女神その人である、なんて説を唱える学者もいるである」


 妄想でござろうけどなぁ、と笑う勇衛。


 想像してみる。

 あのジャージの女神が、ジャージの上から巫女服を着こんで、ベッドに寝転がってゲームをしている様を。


……ないな。

 なんだか時空の果てで女神が何か言っている予感がしたが、さっくり無視する。どうしようもないし。


「いずれにせよ、その巫女神様が勇衛の国の神様で王様なんだな」

「でござるよ」


 勇衛の国の宗教はよくわかった。が、今は割とどうでもいい。

 そもそも、聖賢教団とやらの総本山で、他の宗教の話をするもんでもないだろう。


「なら、聖賢教団ってのは―――」



 オレがここの宗教についてを聞こうとした時。

 入口の方からオレ達に向かって歩いてくる一団の気配があり、勇衛が少し眼差しを鋭くして立ち上がった。


 オレもまた、ぴりぴりとしたものや、もやりとした揺らぎのようなものを感じる。

 森からのマラソン中にも感じたこの感覚が、きっと気配感知か、危険感知か。感知系のスキルの効果なんだろう。


 入口付近の参拝客や、帰ろうとしていた人々が足を止め関わり合いにならぬよう見守る中。

 程なくして、来る途中に見た神官らしき法服を着た、7,8人の強そうな人達がオレ達を取り囲む。


「師匠、お知り合いでござるか?」

「まさか。

 勇衛こそ、実は教団の裏庭でえろい事しましたとか、指名手配されてたりしないか?」

「……なるほど、さすがは師匠。それは興奮できそうでござる!」

「いや、普通に駄目だからな?」


 オレ達を囲む兵士さん達は、騒ぎを避けるために武器こそ抜いていないが、剣呑な空気を纏っていた。

 そんな状況でも平常運転の勇衛に控えめに突っ込みつつ、この状況の原因を考えてみる。


 街で何か悪いことしたから兵士が来た。

 スコートさん達、エルフの関係者が教団のお偉いさん。

 教団に来ている知り合いが何かしたので、オレ達まで話が回ってきた。


……この状況の原因として一番ありえそうな選択肢として、青い髪の天使の顔が脳裏に浮かんだ。

 しかも思い出されたのは、オレに向けて微笑むきらきらした笑顔ではなく、なぜかつまずいて転んだ後の情けない表情だったりして。

 一抹の不安がぬぐえない。


「もしかしてひょっとしたら、オレの知り合いがうまくやったのかもしれない」

「神殿の警備兵がぞろぞろ出てくるとなると、うまくやったようには見えないでござるなぁ」


 一縷の望みをつなぐ希望的観測を、ちょっきんとぶった切る勇衛。


「……だよな。

 やっぱ、何がしか、やっちゃったんだろうなぁ」


 あのへっぽこめ。相変わらず、悪い意味で期待通りの奴だ。

―――合流出来たらしっかりお仕置きしてやるから。どうか、無事で居てくれよ。


 一人だけ勲章のようなものをつけた偉そうな兵士が、参拝客をぐるりと見渡し視線を追い払う。

 それでもこちらを見てくる好奇の視線は無視して、オレに向けて小さな声で告げた。


「キタムラ スクネ殿とお見受けする」

「―――ああ、そうだが。そちらは?」

「フィレーア=エフィナを名乗る者の仲間で間違いないな?」


 オレの返事を受け、問いかけを無視して訪ねてくる兵士。

 それは、確認を取っているというよりも、犯罪者を詰問するような声だった。


「青い髪で翼を生やしたフィアのことなら、オレの仲間で間違いないよ」


 武器を握って油断なくこちらを睨む兵士達に囲まれたまま、オレは堂々と頷いた。

 オレもフィアも、何も悪いことはしていない。偽る必要は全くない。


 いや……フィア、悪いこと、してないよな?

 ひょっとして、切り捨てるのが正解だったとかそんなことは……ないよな?

 お兄ちゃん、フィアのこと信じていいんだよな?


 頷いてから内心で動揺するが、そこは偽装なり交渉なり、度胸なりが働いてくれていることだろう。

 今のオレは、まだ中程度のレベルながらスキルだけは豊富にある。大丈夫、何かあっても大抵の事はなんとかできるはずだ。多分。


「そうか」


 オレの動揺と不安に気づかず、偉そうな兵士は一つ頷くと


「失われた女神の使途を名乗り、このディルエニアと我ら聖賢教団に混乱を招いた大罪人、フィレーア=エフィナに与するキタムラ スクネよ。

 国家への反逆者として逮捕する!」


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