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これより新章、ディルエニア編スタートです☆
遅い朝、あるいは早い昼時。
馬車が何台も並べるだけの大通りを、様々な人々が行き交う。
道の脇に並ぶ露店から食欲をそそる匂いが溢れ、さらなる賑わいや盛り上がりを見せている。
「おお……これがディルエニアかぁ」
道の脇に広がる建物は、壁が塗られており一見して材質は分からない。
少なくとも、むき出しのレンガ造りや木造ということはなく、一定以上の文化があることがわかった。
まあ、技術力なのか魔力なのか、そこも分からないけど。
「まさしく大会真っ最中であるから、普段の5倍は多いと思うでござるよ」
見るからに普通の服を着た街の人と、旅装束や鎧、ローブなんかの冒険や戦闘を生業にする人との割合は半々といったところだろうか?
また一台、通り過ぎた馬車の中にも、冒険者らしき人間が多数乗っているのがちらっと見えた。
ディルエニア武術大会。
近隣の中では多少大きな街であるが、大会の規模としてはそれほど大きくないらしい。
フィアに調べてもらった中で夜でも活動していたからここをスタート地点にしたんだけど、ちょうど大会と日程が被ってたからいつもより遅くまで賑わってたんだろうな。
でも、あまり大きい街だと街中の移動だけでも時間がかかりすぎる。区画ごとに施設が分けられていたりすると尚更だ。
必要な施設がないのもまた困るが、何事もほどほどが一番。
オレにとっては、時間が大事だからな。
「今は、予選の午前の部をやってるんだっけ?」
「うむ、予選は午前と午後に一回ずつでござる。
それぞれの予選で、上位8名が本選に上がれるでござるよ」
「午前と午後で違いってあるのか?」
「毎年、予選の内容は開始時に発表されるから不明でござるね。
昨年は、午前がバトルロイヤル、午後が野外でのゲリラ戦闘だったでござる」
ゲリラ戦闘とかあるのか。
予選の参加者の人数にもよるんだろうが、予選はやっぱり単純な一対一じゃないんだなぁ。
「勇衛にとっては、どっちが有利なんだ?」
「拙者でござるか?
鎖がないから、多人数戦はちょっと面倒でござるね」
「ごめんなさい」
背中の大盾を見せて笑う勇衛に、素直に謝る。
勇衛の大盾に取り付けられていた極太の鎖、ゴブリンの気を引くために使った事は道すがら話してある。
角に絡まったまま、オレの必殺技でゴブリンと一緒に消し飛んで……すっかり忘れてたな。どうなったんだろ、あれ?
「さて、約束通り食事を奢るでござるが。どこもすごい混んでるでござるな」
前の食事はコボ……の煮込みだったし、せっかくのおごり飯。うまいものを食いたい気持ちはあるんだけど、時間がなぁ……
おごり(あるいは勇衛への罵り)を駆けたレースは、最後だけ見ればオレの圧勝に終わった。
最初、走り出してすぐは木の根に躓き木の幹にめり込み、襲いかかる魔物の処理に手間取り、立ち止まってくれなければ勇衛を見失う程のひどい有り様。
その事にムキになり、じゃあこのスキルを取り、さらにこのスキルを取り……と手当たり次第にやった。やりまくった。
その結果、森を進む事や戦う事に慣れていない点についてはすぐに解決するものではなかったが、ステータスとスキルの高さでねじ伏せた!
そんなわけで、森を出る頃にはどうにか勇衛と同じくらいのペースで進めるようになっていた。
残りスキルポイント全てを代償として。
森を出て平野部に出てからは一転、オレの独壇場である。
スタミナとスピードだけが物を言うランナーの世界。一瞬でオレは勇衛を引き離し、ウサギとカメよろしく傍らに座って勇衛を待ったりした(寝てない)
そんなわけで、勇衛に『そのスピードで長時間動き続けるのは人間じゃない』と言われつつ、快勝。
危険な要求を跳ね除け、見事タダ飯をげっとしたのであった。おしまい。
「しょうがない。時間が惜しいし、適当に買い食いで済ませよう」
そんなわけで、せっかくの異世界初料理兼おごりなわけなんだけど。
ここは涙を飲んで買い食いで済ませよう。ああ、非常に残念だ。
―――なんてことを考えていた時もありました。
何かの肉の串焼きは、滴る油と肉汁によだれが出るほどの旨味が凝縮され、手がべとべとになるのも忘れて一息に食い尽くした。
続く野菜とチーズのようなものの挟まれたサンドイッチが、意外な酸味と濃厚なハーブの味わいで肉の油を洗い流し、さらに食欲を掻きたてる。
そこに勇衛から差し出されたフランクフルト状のものが、表面はがっちりとした歯ごたえながら、口の中ではとろけるように舌と心を幸せで満たしていく。
爽やかな甘さの中にぴりっとした刺激のあるイノミのソーダを最後に飲み干し、完食。
「ごちそうさまでした。うまかった!」
「師匠が喜んでくれて何よりでござるよ」
お互い、生活魔法の『清浄』で手や口元を綺麗にして食事を終える。
「いや、露店で買い食いを馬鹿にしてた。まじでうまかったよ」
「むふー、そんなに褒められると照れるでござるよ」
「……勇衛が作ったんじゃないだろうに」
得意げな様子にちょっと苦笑しつつ、やがて通りの交わる十字路で立ち止まった。
左右に伸びる道はメインの大通り程ではないけれど、馬車も走れる大きな道である。
特に西側は、道が細くなったことによってこれまで歩いていた大通り以上に人が溢れていた。
「それじゃ、大聖堂に向かうでござるよ」
「予選受付と正反対って言ってたな。本当に、すぐ受付行かなくていいのか?」
「まだ時間はあるし、少しは師匠を鍛えるのに協力しないとでござる」
予定よりもかなり早く街に着いたため、大聖堂の場所とフィアが居ないことを確認したらお店を見るつもりだ。
そんなことを話したら、時間までは勇衛が街を案内してくれることになった。
少し申し訳なくもあるけど、何の情報もなしにいいお店を探すなんて時間がかかり過ぎる。素直に甘えることにした。
食事を奢ってもらったり、勇衛を頼ってばっかりだな、本当に。
こ、この借りは三日間が終わったら返すんだからね!
「さあ、まずは大聖堂を確認しに行くでござるよ」
「ありがとう、勇衛」
人の減った西側の通りへ、二人で歩みを進める。
「勇衛は、優勝して叶えたいことがあるから大会に出るんだったな」
「はいでござる。
まだまだ修行中の身なれど、参加するからには優勝目指して頑張るでござるよ」
清々しい笑顔に、少しの自信や誇りを乗せて胸を張る勇衛。
オレ自身が汚れてるってわけじゃないけど、そんな風に笑える勇衛は、すごく凛々しくて、とても眩しくて。
なお、今の勇衛の格好だが、胸部以外はもともと着けていた鎧をがっちり着込んでいて、壊れた胸部は何やら詰め物をしていた。
最初の鎧姿よりは若干ボリュームダウンだが、それでも傍目には巨乳に見える。何がそこまで勇衛を駆り立てるのか分からないが、鉄壁であることはばれたくないらしい。執念だな。
「それじゃぁ、願いの叶う優勝以外は眼中にないのか?」
どんな願いを胸に秘めているのか分からないけど。
それでも、強い相手と戦いたいとか、力試しとか、みんないろんな事を考えているんじゃないかな。
なんてことを思いながら、何の気なしに尋ねて
「実は、どれほど苛烈な攻撃を受けられるのか今からぞくぞくしてるでござる!」
「まじか……」
ああ、やっぱり変態は勇衛だった……と、尋ねたことを深く後悔することになるのであった。
当面、週3更新を目標にさせてください。
必死で頑張ります!
どうせ誰も期待なんかしてないぜー。とか、現実を直視させられると泣いちゃう。




