1/10 08:49
昨日投稿した 36話『1/10 08:45』ですが、間違えて古い文章をアップしていたことに気付きました。
申し訳ございません。
現在は修正しております。
大筋は変わりませんが、細かい突っ込みなどが変わっておりますので、昨夜の間にお読みくださった方は興味があればご確認下さい。
それでは、本章最終話をどうぞ。
「師匠、街に戻らないと時間がないでござる!」
変態っぷりに呆れ果てるオレに、唐突に真顔に帰った勇衛が大きな声をあげた。
真顔であれば、声もよく通るし美人だよなぁ……
胸こそ鋼の装甲ではあるが、今なら分かるその身のオーラや覇気と言ったものと相まって、本当に凛々しい。
外面が凛々しければ凛々しいほど、中身の酷さが際立つのが本当に残念でならない。
うまくいかないものだよな。
「そうだった、すっかり忘れてたな。
じゃあ勇衛と合流も出来たし、そろそろ街に帰るとしようか」
「はいでござる」
今のオレは、ゴブリンキングを倒しレベル・ステータスとも大幅にアップしている。
走って帰れば、街までノンストップですぐに着けるだろう。
でも勇衛の体調や目的もあるし、とりあえずは余裕を持って移動した方がいいよな。
時計なんかないので正確な時刻は分からないけど、太陽の高さから考えればゆっくり帰っても正午には余裕のはずだ。
いい加減街に行って、装備やら仲間やら冒険者登録やらしたい!
未だ、オレの装備は布の服一枚きりである。
ゴブリンやキングの武器を拾って来たかったが、あの時は勇衛の様子を早く見たかったからな。仕方ない。
「じゃあスコートさんに勇衛の事をお礼言って、早速街に帰るとしようか」
部屋を出て歩くとすぐに人を発見したので、スコートさんを呼んでもらう。
待つこと数分、現れたエルフのイケメンは顔中に隈取のような面妖な化粧をしていた……
「な、その、えっと」
「どうした、スっくん」
「スっくん!?」
顔だけじゃなく、人格まで崩壊してるのか?
どうした、この短時間で何があったイケメン。なんでオレ、そんな呼ばれ方されてるの?
「拙者達、大事な用事がある故そろそろお暇して街に帰るでござるよ」
動揺するオレを見かねたか、勇衛がすぱっと要件を告げる。
勇衛の場合、オレを見かねたんじゃなくて、化粧も呼び名も何一つ気にならなかっただけかもしれないな……変態だし。
うん、考えるのはやめておこう。
「何と!
スっくん、我ら、救世主。我らの、友。
我ら、歓待、全力」
「えっと、気持ちは嬉しいんだけど、オレ達には時間がなくて、どうしてもやらなければならないことがあるんだ」
「そうか……」
少し寂しそうな声で、スコートさんが呟いた。
でもその隈取のせいで、怒ってるようにしか見えない。吹き出しそうになったのは内緒だ。
「ごめんよ。
でも、オレにも色々と―――使命があるんだよ」
そう、使命だ。
言葉にしたら、なんだかとてもしっくりときた。
誰かに使命と言われたわけじゃない。
だけど、オレ自身が、自分に定めたこと。オレ自身が課した、この旅路の使命。
「使命、とは?」
オレ自身に言い聞かせた言葉に、当然のようにスコートさんが問う。
そりゃぁ質問されるよな。だから、オレもまた当然のように返した。
「三日間で、魔王を倒す」
「「!!」」
「そう、女神と約束したんだよ」
―――初めて、この世界で、誰かにオレの目的を告げる。
前回の冒険では、あっという間に終わったのもあって、一度も口にしなかったことだ。
この言葉が、今この世界で、どれだけの重みを持っているのかオレは知らない。
人々から、魔王がどういう認識をされているのか。
どれだけ、ありえない無茶を口にしているのか。
それを、オレは全く知らない。
だけど。
うまく笑えているだろうか?
気楽に、気負いなく言えているだろうか?
少しどきどきする胸を抑えながら、そっと二人の反応を見る。
「スっくん、魔王、戦う―――」
「師匠、魔王と戦うなんて―――」
二人は、驚いたような、気が抜けたような表情で呟き
「勇者! 伝説の、勇者、スっくん!」
「次は魔王から痛めつけられにいくでござるね。さすが玉鋼入りの変態!」
「勇衛、お前のは全力で違う!」
それぞれなりの歓喜の叫びに、オレは片方に対してだけ全力で突っ込むのであった。
ほんっと、ぶれねーなこいつ!
「多大、感謝、スっくん」
「うん、色々ありがとう。三日間で魔王を倒せたら、改めて訪問させてもらうよ」
「歓迎する。また、後ほど」
スコートさんと握手をかわす。
思い返すと言うまでもなく、ついさっき槍を喉元に突きつけられていたのに。
分からないものだな、人と人というのは。
なんてことを考える自分を、ちょっと恥ずかしく思ってなんとなく目を逸らし頬を拭った。
「助けてくれてありがとうでござる。
この恩、忘れないでござる」
「治療師も、感心。鍛えられた、戦士。尊敬、息災で」
勇衛もまた、出会った時と同じく元気いっぱいな様子でスコートさんと握手をした。
どうやら身体の心配は全くいらないらしい。
でもスコートさん、こいつの鍛えてる部分と理由を考えたら、尊敬はできないと思うんだ。さすが超合金。
「それじゃぁこれで失礼するよ。またな」
「お世話になったでござる。ご免」
「また」
スコートさん一人に見送られて、軽く手を挙げ勇衛と二人で村を出る。
結界を越えれば、美しいエルフの村から一瞬で元の森へ早変わり。
ゆっくり観光したかったなぁという気持ちはあるけど、時間がないから仕方ない。
楽しみは、三日後にとっておこう。
「……結局、全然師匠のお手伝いができなくて申し訳ないでござる」
「いやいやいや、それを言ったら勇衛はオレの命の恩人だよ。
改めて、助けてくれてありがとう」
「命を救われたのもお互いさまでござる。だからお相子でござるね」
「おう、お相子お相子」
軽く身体をほぐしながら、勇衛と笑いあう。
「それじゃ、まずは街まで軽く走るとしますか。
―――ついてこれるよな?」
「ほほう、今朝までレベル1だった変態が、拙者に挑もうと言うでござるか。面白いでござる」
「変態はお前だよ!」
突っ込みつつ、帰る方角を勇衛に確認する。
「では、街の入口まで競争でござる。
負けた方が、昼食おごりでいかがでござろう?」
「オレ、文無しなんだけど……」
「身体で払ってもらうでござる!」
ぎらりと目を光らせて、勇衛がいきなり走り出した!
「ちょ、おい! それ汚い!」
「むふふー。
拙者、師匠に勝った暁には心行くまで身も心も罵っていただくでござる」
「時間的にも行動的にも嫌過ぎる!」
「それが嫌ならば、拙者に勝ってみせるが良いでござる!」
なんだか悪役っぽいセリフを吐く勇衛を追いかけながら、全力で森を走り抜ける。
前方から迫りくる木々を避け、流れるように後方へ飛び去る景色を楽しむ。
色々と理不尽な事態に目を瞑れば。
コボルト撃破、ゴブリン撃破。
そして、ゴブリンキングとゴブリンの群れを撃破。
すさまじい勢いで滅茶苦茶レベルが上がった。
色々と変態な発言に耳を塞げば、今オレの隣―――前方には、大盾を担いだ鎧武者。
魔王と戦う仲間となるかはまだ分からないけど、旅の連れがいる。
さらに、街に着けばもう一人の仲間も待っている。
装備も布の服のみから、かなり向上。
上質な旅装束にエルフの胸当て、エルフの長剣を礼と餞別とばかりにスコートさんからいただいた。
街に着けば武具屋もあるだろうし、まだまだ強くなれるはずだ。
二度目の旅路を始めて、今何時間経ったのかは分からない。
それでも、結果を見れば間違いなく上々である。
今の自分の強さがどの程度のものなのかは分からないけれど、この分ならきっと。
手が、届くかもしれない。
手を届かせる、絶対に。
オレは、決意も新たに前を向く。
熱い身体を風と変え、一心に前へ踏み出す。
「ああん、師匠、そこはまだ早いでござるっ」
聞くに堪えない声が、誰も居ない森に響く。
どこからかエルフの遠吠えが聞こえた。この変態の声がエルフに聞こえてないことを切に祈ろう。
「人が居ないからって、妄想垂れ流して喘ぎながら走ってるんじゃねぇぇ!」
強く踏み込んで、その後頭部をすぱーんと叩くと。
なんとしても真横を走る変態より先に街に着くべく、もう少し自分の中のギアを上げるのであった―――
これにて本章終了、次回より新章です。
できるだけ早く書けるよう頑張ります。
章終了にあわせ、少しだけ活動報告を更新。
本章についてや「いつものアレ」など、ちょろっと書いてますのでお暇でしたらどうぞ。




