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三日で終わらす異世界転移  作者: 岸野 遙
一日目 ~ゴブリンキングにステータスを~
36/60

1/10 08:45

「つまり、まとめるとこういうことなわけだな?」

「どういうことでござろうか」


 目の前に正座した勇衛に向かい、少しの疲れと皮肉を込めて言ってやった。

 これっぽっちも通じた気配はなく、なんとなく期待に満ちたきらきら顔が憎たらしい。


「勇衛の胸は、まったくこれっぽっちも全然まったくない」


 憎たらしいので、その顔と期待をこれでもかとばかりにへし折る。


「まったくと、二度も言わなくていいでござる」

「まったくない」

「三度目! しょんぼりでござる……」


 ぺたーんとした自分の胸に手を当て、しょげーんとする勇衛。

 その姿はどこか可愛らしくもあるんだが、どう見ても胸部が男性。

 いや、本当に。真っ平らにも程がある、という感じで。



「鎧の胸部は、いつか大きくなった時のために余裕を持ったつくりにしていた」

「えっへん。大会に優勝すれば、あれぐらい余裕でござる!」


 あれぐらいって、ありえないサイズだろ、馬鹿なのかこいつは。

……いや、異世界的にはあり得るのか?

 アリかナシかで言えばアリだし、リメルがあのくらいだし。あり得るのかもしれないな。

 うん、ここは保留にしておこう。



「体に合わない無駄な作りをしていたせいで、鎧の胸部は強度がない安物だった」

「拙者の装備を作っている職人が、拙者の要望通りには作らないとか酷いことを言ったでござる。

 だから自分でなんとかしたでござる」


 酷いのはお前だ、と言いたい。

 言いたいけれど、心臓部を守らない鎧というのも確かに駄目だとは思うなぁ。

 どっちもどっちか。



「その鎧の無駄なスペースに、真っ赤な果実のジュースを入れていた」

「イノミのしぼり汁は拙者の生きがいでござる」


 ゴブリンの一撃で宙を舞った大量の赤い液体は、何のことはない、血じゃなくてジュースだった。

 今にして思い返せば、鉈を舐めたゴブリンが微妙な顔をしていたのは、血の味がしなかったからなんだろうな。

 ほんっとーに、今更の話なんだけど!



「そして―――お前の胸は、血のにじむような豊胸トレーニングの果てに、鋼の硬さを手に入れた」

「ナイフで刺すと、ナイフの方が折れるでござる。

 ぶっちゃけ、盾より頑丈でござる」


 ありえねーだろ、どんだけ鍛えてんだよ!

 鍛えすぎたせいで余計胸がなくなったんじゃねーの?


 ていうか鋼って、腕や足より硬い乳……はないけど、胸部っておかしいだろ強すぎるだろ、そりゃ鎧いらないだろ!

 事実、鎧は壊れたが肌は壊れなかったわけだし。



「―――なんて紛らわしいやつなんだよ!

 舐めてんのかよ、馬鹿にしてんのかよ! オレの心配を返せよ!」


 数え上げるも腹が立つ、なんなんだこいつは!


「ああ、師匠に罵られた、心配していただいた上に罵られたでござる!」

「しかも悦んでんじゃねーよ、このグレート変態!」


 ギャグかよ!

 存在自体がギャグかよ!


「もう一声!」

「一声しねーよ、この変態!

 オレが筋金入りだったら、お前は超合金の変態だよ!」

「ああっ、あっ、ああん、ふああぁっ」

「身もだえしてんじゃねーよ、ああもう誰か何とかしてくれよぉぉ」




 勇衛=グランヴェイン。

 二十二才。鉄壁の鎧武者。鋼の盾を二枚持つ女。


 底が知れない変態というものに関わったことを、深く後悔しつつ。

 それでもオレは、勇衛が無事であったことに、深く感謝と安堵したのであった。




 安堵しちゃった自分が悔しいんだけどな!


次回で、本章は終了です。

一日目の大きな一区切り。


毎回読まれてる方にはお待ちかね、いつもの急転直下のアレが……!

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