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「つまり、まとめるとこういうことなわけだな?」
「どういうことでござろうか」
目の前に正座した勇衛に向かい、少しの疲れと皮肉を込めて言ってやった。
これっぽっちも通じた気配はなく、なんとなく期待に満ちたきらきら顔が憎たらしい。
「勇衛の胸は、まったくこれっぽっちも全然まったくない」
憎たらしいので、その顔と期待をこれでもかとばかりにへし折る。
「まったくと、二度も言わなくていいでござる」
「まったくない」
「三度目! しょんぼりでござる……」
ぺたーんとした自分の胸に手を当て、しょげーんとする勇衛。
その姿はどこか可愛らしくもあるんだが、どう見ても胸部が男性。
いや、本当に。真っ平らにも程がある、という感じで。
「鎧の胸部は、いつか大きくなった時のために余裕を持ったつくりにしていた」
「えっへん。大会に優勝すれば、あれぐらい余裕でござる!」
あれぐらいって、ありえないサイズだろ、馬鹿なのかこいつは。
……いや、異世界的にはあり得るのか?
アリかナシかで言えばアリだし、リメルがあのくらいだし。あり得るのかもしれないな。
うん、ここは保留にしておこう。
「体に合わない無駄な作りをしていたせいで、鎧の胸部は強度がない安物だった」
「拙者の装備を作っている職人が、拙者の要望通りには作らないとか酷いことを言ったでござる。
だから自分でなんとかしたでござる」
酷いのはお前だ、と言いたい。
言いたいけれど、心臓部を守らない鎧というのも確かに駄目だとは思うなぁ。
どっちもどっちか。
「その鎧の無駄なスペースに、真っ赤な果実のジュースを入れていた」
「イノミのしぼり汁は拙者の生きがいでござる」
ゴブリンの一撃で宙を舞った大量の赤い液体は、何のことはない、血じゃなくてジュースだった。
今にして思い返せば、鉈を舐めたゴブリンが微妙な顔をしていたのは、血の味がしなかったからなんだろうな。
ほんっとーに、今更の話なんだけど!
「そして―――お前の胸は、血のにじむような豊胸トレーニングの果てに、鋼の硬さを手に入れた」
「ナイフで刺すと、ナイフの方が折れるでござる。
ぶっちゃけ、盾より頑丈でござる」
ありえねーだろ、どんだけ鍛えてんだよ!
鍛えすぎたせいで余計胸がなくなったんじゃねーの?
ていうか鋼って、腕や足より硬い乳……はないけど、胸部っておかしいだろ強すぎるだろ、そりゃ鎧いらないだろ!
事実、鎧は壊れたが肌は壊れなかったわけだし。
「―――なんて紛らわしいやつなんだよ!
舐めてんのかよ、馬鹿にしてんのかよ! オレの心配を返せよ!」
数え上げるも腹が立つ、なんなんだこいつは!
「ああ、師匠に罵られた、心配していただいた上に罵られたでござる!」
「しかも悦んでんじゃねーよ、このグレート変態!」
ギャグかよ!
存在自体がギャグかよ!
「もう一声!」
「一声しねーよ、この変態!
オレが筋金入りだったら、お前は超合金の変態だよ!」
「ああっ、あっ、ああん、ふああぁっ」
「身もだえしてんじゃねーよ、ああもう誰か何とかしてくれよぉぉ」
勇衛=グランヴェイン。
二十二才。鉄壁の鎧武者。鋼の盾を二枚持つ女。
底が知れない変態というものに関わったことを、深く後悔しつつ。
それでもオレは、勇衛が無事であったことに、深く感謝と安堵したのであった。
安堵しちゃった自分が悔しいんだけどな!
次回で、本章は終了です。
一日目の大きな一区切り。
毎回読まれてる方にはお待ちかね、いつもの急転直下のアレが……!




