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二度目の鬼ごっこは、上昇したレベルとパラメータのおかげで非常に快適だった。
スタミナも無限と言うわけじゃないが、まだまだ余裕はある。
ゴブリンの足音やら奇襲能力やらは、一度相手に存在を察知されると激減するらしい。
おかげで、攻撃のモーションやらなんやらからきっちりと動きを認識し、必要であれば過剰に距離を取って逃げ、オレ達3人は順調にゴブリンキング率いるご一行様を洞窟の方へと案内した。
だが―――
「コボルト?」
洞窟の入り口から顔を出したのは、最初に出会った犬小人ことコボルト。
なんでここに居るんだ、ゴブリンの手下なのか? それとも空き家だと思って侵入したのか?
そんな疑問は知ったことか、何匹かのコボルトが洞窟から出てきて、オレ達に向かって粗末な棍棒を振り上げた。
「殲滅!」
突然のコボルトの出現に驚くオレには目もくれず、エルフ二人は槍と弓で向かってきたコボルトを駆逐していく。
この二人が戦うのは初めて見る。
特別強い、一騎当千と言う感じじゃないが、お互いが相手の動きに合わせ、連携の取れた戦い方できっちり一匹ずつ沈めていた。
だがゴブリンも後ろまで迫ってきている、コボルトも雑魚とは言え一匹二匹じゃない。
二人がコボルトを片付けるまで、少しでもゴブリンを引き付けないと。
「おらおら、こっちにうわあああ」
しゃべってる途中で丸太が飛んできた!
砲撃のような丸太を慌てて躱す。
二人から少し離れていたのでエルフにもコボルトにも被害はなかったが、これは迂闊に入口へ戻れないな。
別のゴブリンが、今度は二匹同時に丸太をぶち込んでくる。
分かっていたのであまり慌てずに避けると、躱されたゴブリンが怒ったように傍らの木を殴り始めた。
やがて、幹を殴り砕くと、新たな砲弾として丸太を構える。
飛び道具の弾は無尽蔵ってことか。でも君たちが伐採するほどエルフ達が怒るんだからな!
受け止めたり打ち返したり、斬りおとしたりなんてできない。
ただただ、足元に気を付け、慎重に避ける。
そんな感じで三回ほどゴブリンの的当てゲームに付き合った頃、ようやくコボルトの方が片付いたようだ。
ろあろあという雄叫びに呼ばれ、洞窟から入口に滑り込む。
的が居なくなった上に自分たちの住処に入り込まれたゴブリン達も、雄叫びを上げながら突進してきた。
暗い洞窟内を、エルフの灯した明かりを頼りにまっすぐ走る。
直線な洞窟で丸太を投げ込まれたら非常にやばかったが、自分たちの住処を荒らしたくないのか砲撃はない。
本当に良かった。そこまで考えてなかったからな!
「どうする?」
「全部のゴブリンがこの洞窟に入って一列に並んだら、一気に片付ける!」
「わかった、任せた」
女エルフの方も、相変わらず無言で、オレのことを強烈に睨みながら頷いた。
ゴブリン達とは別の意味で非常にこわい。あまり考えないようにしよう。
ゴブリンの数はせいぜい10匹。
長々と走る必要なんかない、すぐにオレは洞窟内で振り向いた。
ここまでに枝道は一切なかったし、走り寄るゴブリン達の向こうに外の光も見えている。
やるなら、今しかない!
スキルの説明を、もう一度確認する。
一直線に突き進み全てを貫通する、物理属性の斬撃を飛ばす。射程は50メートル程度。
その威力はドラゴンの鱗をやすやすと切り裂き、アダマンタイトの鎧すら初速で両断する。
必要スキルポイント、300。習得済み。
スキルを一度使用した後、次に使用できるまでのクールタイムは22万2222秒。
聖戦の代償に代わる、一発限りの最終兵器だ。
この説明通りの威力なら、油断している魔王だって一撃で両断できるかもしれない。
女神としても魔王相手に使って欲しかったろうが、すまん。ここを乗り切り、生き延びて魔王と戦わないといけないんだ。
出し惜しみしてて負けるわけにはいかない。切り札は、切ってこそだろう。
うん。使うぞ、使っちゃうぞ。
駆け寄るゴブリンから、数歩後ずさりながら。
スキル発動まで、残りのツーステップを―――
「どうした?」
「いや―――今から、やるよ、やってやるよこんちくしょう!」
ええい、やったろうじゃねーか!
「ステータス画面、オープン」
オレの呼び出した、ステータス画面。
なぜかその中心に、円と十字の組み合わさった赤い照準が浮かぶ。
ステータス画面の端をつまみ、その照準を全てのゴブリンを貫く位置に合わせる。
「ロックオン、準備オーライ!」
これで、準備は整った。後は、魔術のようにスキル名を叫ぶだけ。
事情を知らないエルフ二人の視線を受け、オレも目の前のステータス画面を見つめ。
ええい、どうにでもなれ!
「Sテータスラッシュ!」
オレは、ゴブリンキングを倒すためだけに取得した、最強の一発スキルを放った!
ステータス画面が鈍く光ったかと思う間もなく、まるで手裏剣のように水平に回転しながら飛翔し―――
きんっ、と。甲高い金属音一つ残して、ゴブリンキングを含む全てのゴブリンを一瞬で貫き両断したのだった。
『また、つまらぬものを斬ってしまった』
オレの目の前に戻り、空中に佇むステータス画面。
さもそう言いたげな文字フォントで、まるで煙草の煙のように左上の角から息をつき。
「な、な、な―――
なんでステータス画面が戦うんだよぉっ!」
スキルを習得し、自分で使って助けられておいて、本当に今更なんだけれど。
それでもどうしても納得のいかないオレの絶叫をもって、戦いの幕が下りたのだった―――
ゴブリン戦で自分が戦ったのも束の間、他力本願主人公の本領発揮第二弾。
ステータス画面先生は強かった!
一度限りのスキルなので、次の出番はありません。
ステータス画面先生、お疲れ様でした。




