1/10 07:24
―――危ない!
声に出す余裕もなく、傍に居た女エルフに飛びついて丸太から身をかわす。
背後を通り過ぎる風切り音にひやりとしつつ、抱きかかえたまま身体を捻って足から着地する。
器用になったな、我ながら。この調子なら、練習すれば軽業師とかなれるかもしれない。
「大丈夫?」
抱えた女エルフに尋ねると、オレをきつく睨み付けてこくこくと頷いていた。その拍子に羽飾りが髪から外れて落ちたので、咄嗟に指でつまむ。
とりあえずお互いの無事に安心しつつ、お怒りのエルフ女性を地面に下ろしてゴブリンの方に向き直る。
「馬鹿な、なぜ、ここに!」
少し離れた位置にいた男エルフが、オレ達とゴブリン達を見比べて叫んだ。
でも、それって―――
「さっき連絡取るために、大声で叫んだからじゃないの?」
「……」
「近くまで来てもらって、普通に話せば良かったんじゃないの?」
「……」
思わず突っ込んだオレに、黙る男エルフ。
なぜかゴブリン達が、頷くように頭を縦に振っていた。
さっき倒した奴と同じく、一本角の頭にヘルメットをかぶった赤鬼、ゴブリン。
それが見た感じ、7,8体くらいはこの場に居るようだ。
「ゴブリンキング!」
さらにエルフ男の言葉によれば、後ろに居る一際でかく三本角のゴブリンがゴブリンキングなんだとか。
なるほど、こいつが群れのボスってことか。
「馬鹿な、こんなの、勝てない」
「そんなに強いのか?」
「強い、別次元」
なんとも端的で、分かりやすく、嬉しくない情報量の篭ったお言葉だこと。
まだ冒険始めたばかりだと言うのに、すでに敵が別次元だとか。嫌になっちゃうね。
例え重課金の世界だって、開始3時間で別次元なんて呼ばれないのに。どんだけインフレ激しいんだか。
でも、嘆いてたって始まらない。むしろ、冒険が終わってしまうだけだ。
前を向け、活路を見いだせ!
「ゴブリンの数、特徴、習性、その他。
あと、ゴブリンとゴブリンキングの違い。簡潔に教えてくれ」
「数、元々十くらい。ここに現れたのでおそらく全員。
特徴、静音、気配遮断、奇襲。魔術耐性。異常耐性。再生。
習性、忍び寄り、叩き潰す。奇襲、失敗すると、獲物、いたぶる。
その他、ゴブヘルメット、人間が、欲しがる」
呟くようなオレの質問に、間髪入れず淡々と答えを返してくれる男エルフ。
いいね、モンスター情報ウインドウのようだ。
情報画面はストイックでいい。間違っても動いたりしないで欲しい。飛び跳ねたり口笛吹いたり避けたりしないで欲しい。
「キング、ゴブリンの王。強い、別次元。
ゴブリンの能力、追加、火・氷・異常無効。高速再生、同族強化、知能も高い。
キングが動く、ゴブリン全員ついていく、絶対」
なるほど、王が動く時は一族総出でついて行くわけか。なら確かに、ここに居るのが全てなんだろうな。
でも、非常に困った。
魔術耐性ってのは、魔術による攻撃が効かないんだろう。程度は分からないが、最悪を想定するなら無効と思っておいた方がいい。
ゴブリンを倒した時の錬気火燈は、魔術をトリガーにしていたが、あくまで科学現象だ。魔術そのものでの攻撃じゃない。
もしくは魔術扱いされたとしても、耐性を貫いたってことなんだろうが……
火、無効。
うん、錬気火燈で他の取り巻きは倒せたとしても、キングだけは無理っぽい。
しかも高速再生があるなら、ちまちま攻めても駄目だ。一撃必殺を狙わないと。
最低限、キングを倒すためには別の手段を考えないといけないみたいだ。
状況は、分かった。
にやにやしながら、傍らの木をがしがし殴って雄叫びを上げるゴブリン達。
怯えさせるためか様子見か、理由は分からない。でもオレにとっては都合がいいんだ、この間にこちらの戦闘準備を整えよう。
準備……準備か。
そうだな、状況の確認と、スキルを取得しなければならない。ゴブリンを倒したんだから、レベルは上がってるはずだ。
オレは、少しの不安とやるせなさを感じつつ、持ってたものをポケットに突っ込みステータス画面を呼び出した。
新章突入、VSゴブリンキング!
そしてみなさんお待ちかね、次回からステータス画面先生無双です!




