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「ぅ……」
「お、気が付いたでござるか?」
最初に感じたのは空腹。
次に感じたのは、身体の痛みだった。
「う、ぅ……」
寝返りを打ち、布団を引上げようとする―――けど、手を伸ばしても布団はなかった。
あれ、おかしいな。布団掛けないで寝ちゃったのか、風邪ひいたかなぁ……
でも横になってるから寝落ちはしてないな、なら大丈夫だろうな。
「おふとん……」
少しでも寒さから身を守ろうと、横に向けた身体を丸めて―――
「こら、いつまで寝ぼけてるのでござる」
誰かに、軽く頭を叩かれた。
「まったく、拙者に叩かせるとは……お主、なかなかやるでござるな」
知らない誰かの声に、重い瞼を開け
地面。草。土。
木々。緑。葉。
屋外。
清冽な森の空気。
―――異世界!
「うわっ、ここは!」
「お、やっと起きたでござるな。おはようでござるよ」
「えっ!?
あ、えっと……おはよう、ございます?」
昨夜からのあれこれを思い出し飛び起きたオレに、声をかけてきた目の前の女性。
うん、女性だ。全身に分厚い鎧をがっちりと着込んだ美女が、オレに向けてござるを連発していた。
状況がよく分からないが、ひとまず頭を下げる。
「自分が気絶したことは、覚えてるでござるか?」
「え、っと……はい、思い出し、ました」
迫るゴブリン、狙われた股間。
恐る恐る手で触れてみると、そこには『ちゃんとここにいます!』とばかりに寝起きで自己主張するものが!
生きた!
生きたよ、やったよ!
思わずガッツポーズをするオレに、
「……起き上がるなり、自分の股間をまさぐりガッツポーズとか―――
お主、筋金入りとみた」
「何に筋金入りだよ!?」
ちなみに、変態に筋金入りだそうです。
ち、違うんだよ。そうじゃないんだよ、死に掛けたんだよ!
一生懸命説明して、ひとまず会話は終わりました。納得してくれたかどうか……なんとも言えない感じだったよ。
ござるを連発しているこの方は、勇衛さん。
説明によると、危ないところだったオレを助けて魔物を倒したけど、なぜかオレが気絶したので起きるのを待っていてくれたらしい。
ついでに暇だから料理をしたとかで、朝食まで振る舞ってくれた。
味噌っぽい味わいの煮込んだスープに、パンのような何かと意外と柔らかい肉が入っている。
おいしかったし、いつの間にやらぐーぐー鳴いてた胃袋さんもご満悦。
「おいしいですね。これ、何て料理ですか?」
「名前のあるような、洒落た料理ではござらんよ。拙者は単に野営煮と呼んでるでござる。
適当にパンと調味料をぶち込んで、さっきスクネを助けた時に倒したコ―――」
「わああ、いいです、原材料は聞かなくていいです!」
「そう? わかったでござるよ」
異世界初料理は、どうやらゴブリンの野営煮でした。
勇衛さんに聞いたところ、オレはおそらく2時間くらい寝ていたらしい。
空は大分明るくなっており、大幅なタイムロスにちょっとがっかりしてしまう。
でも完徹ってわけにもいかないし、今は仕方ない……のかな。
うん、2時間で起きれて良かったと思っておこう。
「して、宿禰殿。見たところ冒険者でもない一般人のようだが、何故このような場所に一人で居たでござるか?
迷ったのであれば、街まで送っても良いでござるよ」
「どうしても急いでレベル上げをしないといけなくて、ちょっと無理してました」
オレの言葉に、勇衛さんが少し太めの凛々しい眉を顰めた。
「一人で?」
「はい」
「丸腰で?」
「…はい」
「レベルは?」
「……い、いちれべる、です」
徐々に険しくなる勇衛さんの表情。
眉を顰める、眉間に皺が寄る、目つきが鋭くなる。
そして―――
「宿禰殿!」
「は、はい!」
斬りつけるような、力のある勇衛さんの声に思わず背筋が伸び
「さすがは筋金入りの変態、拙者感服いたしたでござる!」
「ご、ごめんなさ―――へ?」
思わず間抜けな声が出たオレの手を、がっちりと掴んで。
きらきらした目で、勇衛さんは続けた。
「レベル1の身でありながら、魔物に殴られ蹂躙され生死の境を彷徨おうというその気高き探究心!
たかがあの程度の攻撃にさえ絶頂し気を失う程の恍惚なる変態力!
素晴らしい、真に素晴らしいでござる!」
「いやあの、ちょっと!?」
「宿禰殿、いや師匠!
拙者にも、その比類なき御身の変・態・力をご教授下され!」
2時間ぐらい前、フィアと話した時に。
同じように、手を握られ、きらきらした眼差しで期待されたっけなぁ。
フィアのお兄ちゃんだから、と。
似て否なるこの状況。
女性らしい柔らかさの中にも力強さのある、フィアよりも大きな手。
きらきらした輝きの中に潜む、隠しきれない変態の気配。
期待された内容は、変態力。
「そんなパラメータありませんから!
自分、変態じゃありませんから!!」




