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早朝の森を歩く。
木々に阻まれて陽射しは入らないが、空は大分明るい。辺りを見るのに問題はなかった。
でもそれって、もし敵がその辺をうろついてたら、敵からオレもちゃんと見えるってことなんだよな?
ちょっと不安もあるけど、仕方ない。
木に登って敵が通るのを待つって手もあるが、こんな時間に活動している敵も少ないと思う。やっぱり、自分で探すしかないか。
ゴブリンって、巣とか集落とかあるのかなぁ……一匹だけ見つけたいんだけど。
リーンスニルの夜の森と比べると、鳥の声もあるし、緑の匂いもそこまで強くはない。
それだけ、人が森によく入るなり、動植物が多いってことなんだろうなぁ。
街のすぐ近くだし、ゴブリンなんかも住み着いてる。きっと初心者の薬草採取依頼とかもあるんだろう。
まさに、RPG的に正統派な初期クエという感じで安心だね。
そんなことを考えつつ、森の入口から真っ直ぐ北へと歩く。
と言っても方位磁石なんかないので、空を見て一番明るい方角が東と仮定し、そちらを右手に見ながら真っ直ぐ進んだ。
大雑把な方角くらいなら、太陽を見れば分かるからな。
……ひょっとしたらずっと北東とかに進んでいるのかもしれないが、明確な目的地があるわけじゃない。同じように戻れば出られるんだから、方角に拘りはなかった。
そうやって進む事しばらく。
「……!」
鳥の声とは違う何かの音が聞こえて、びくりと動きを止める。
この音は……足音な気がする。それも、走ってくる音だ
音は前方から徐々に近づいてきており、まだ何か見えたりはしてないけどやばい緊張してきた。
ど、どこかに隠れるべきか? いや、でももう音がすぐ近くまで、あああどうするどうしよう。
咄嗟に隠れる場所を探そうと、傍にあった特に大きな木に寄りかかって覗きこみ―――
「―――あ」
ちょうど木の反対側にいた、何かと目があった。
それは、一見すると人間の子供のような姿をしていた。
身長はオレの半分くらい。細くてがりがりの身体には粗末な腰巻を纏い、腕と足に長めの毛が生えてアームカバーのようになっている。
手には麺棒くらいの太さの木の枝を握り、頭には薄汚れた緑の鍋みたいなものをヘルメットのように被っていた。
顔は、少し動物っぽいと思う。
獣人とかいたらこんな感じなのかな? いや、猫耳とかではなくて、犬顔みたいな意味でね。
肌と毛の色は、くすんで色あせた感じの緑。どう見ても人間じゃない。
なるほど、きっとこいつがゴブリンなんだろう。ガイレインマギアの最弱ゴブリンは赤っぽかったが、そこは世界によりけりだよね。
「!?」
意味がよくわからない、言葉かどうかも分からない悲鳴のような声を上げる何か。
悲鳴をあげるタイミングを逃したおかげで、オレの方はそこまで驚かないで済んだ。
目の前で硬直したゴブリンを相手に―――
え、あれ。どうすんだ、これ?
素手で殴る……の? え、まじ?
うあああ、そうか、戦い方とか全然考えてなかったじゃん!
武器とかないじゃん、素手じゃん! せめて石くらい握っておくんだった、やっべえ!
レベル1でも戦えるけど、用意してなきゃ戦えねーよ!
頭を抱えたくなるのを我慢し、相手の顔面にパンチを繰り出す。
格闘技なんか何一つ習っていない、妄想頼みのオタクパンチ。
相手の体重が軽かったからか、ゴブリンは殴られて軽く吹っ飛び、よろめきながら起き上がると―――
「ぐ、ぐるる……」
さっきまでの驚きの表情から一点、怒りの唸り声を上げながらオレを睨み付けてきた。
やばい、倒すどころか怒らせただけ!?
あと何発殴れば倒せるんだよ。
っていうか、違う。殴るんじゃなくて、首を絞めたりするべきだったんだ!
人間をもし殺すんだとしたら、素手で殴り殺すのにどれだけ殴らないといけないかわからない。
でも首を絞めれば、少し絞め続ければ殺すことはできる、はずだ。
「ぐあっ!」
「うわぁっ」
絶好のチャンスを文字通り殴り飛ばしたオレに、ゴブリンが手にした木の棒で殴りかかってきた!
一撃目を必死で横っ飛びに避け、無様に転んで慌てて起き上がる。
すぐに迫っていた二撃目の振り下ろしもなんとかかわし、数歩下がって睨み返す。
こ、こええ!
まじか、まじでやる気なんか!
木の棒とは言え素手とは大違い、あんなので頭をガツンとやられたらおしまいなんじゃないの?
オレにも欲しい、素手で殴るとか効かないしハードル高いんだよ! こええよ、武器欲しいよ!
じりじりと迫ってくるゴブリン相手に、じりじりと一定距離を保って離れる。
せめて武器がなくても、あのゴブリンみたいに鍋とか被ってれば一撃でやられることもないんだろうけど。
いや違うか、そもそもこの身長差だと相手の攻撃が頭に届くことはないか。
やべえ、高さ的にちょうど股間か?
一撃死を狙うなら股間狙いか、食らったら一撃で死んじゃうのか!?
そう考えると、なんだかゴブリンの視線がオレの股間を狙ってる気がして非常にやべえ、男でもやられるのか? ヤられるのか!?
「ぐあー!」
「ひ、ひいい」
再び飛びかかって来るのが怖くて足が固まったように動かなくて。
低い位置から襲ってくるゴブリンの棒はオレの胴か股間か知らないが吸い込まれるように振り下ろされ―――
ぐちゃっ、と。
とてもとても聞きたくない音が下の方から聞こえて、それを最後にオレの意識は途絶えた……
【今日の一句】
13分 玉を潰され 旅終わる
―――ステータス画面先生の次回作にご期待下さい。




